きっとバレるから
「イルカ、ちょっと。」
人がいなくなるのを見計らって五代目火影が、ちょいちょいと手を振ってイルカを呼び寄せた。
「なんでしょうか?」
火影の不審な行動にイルカは訝しげに思いながら近くへと行く。
因みに、ここは火影の執務室でイルカは火影の仕事を手伝っていた。
「あのだな、イルカ。」
「はい。」
イルカの耳元に手を当てて火影は、こそっと言った。
「お前、見合いをする気はないかい?」
「・・・みあい?」
火影の言っていることが分からなくてイルカは聞き返してしまった。
「みあいって何でしょうか。」
「見合いは見合いだよ。」
男女が結婚を前提に会うことだよ、と火影はわざわざ丁寧に説明する。
「ちょっとだけでいいからさ、会ってみないかい。」
そう誘ってきた。
「お見合いってことですか?」
漸く火影の言っていることが分かったイルカは面食らう。
「うんうん、そうそう。」
対して火影は、にこにことしている。
「ちょっとでいいから、ほんの少し会うだけでいいからさ。」
人のいい顔をして、とんでもないことを勧めてきた。
「で、でも、あのう。」
いくら火影の勧めでも出来ることと出来ないことある。
今、火影が言っているのは後者であった。
イルカは躊躇いがちに小声で火影に進言する。
「あ、あの、実はカカシさんにお聞きしたんですが・・・。」
ちょっと顔を俯かせていたが目元が薄っすらと赤らんでいるのが火影には見えた。
「火影さまは、カカシさんと俺のこと・・・。」
知っているんですよね?と小さな声が聞こえた。
「カカシと?ああ、二人が付き合っているってことかい。」
あっけらかんとして言い放つ火影にイルカは慌ててしまう。
「そ、そうですけど。あまり大声で仰らないでください。」
弱気な声がする。
「照れているのかい。可愛いやつだなあ。」
火影は目を細めて好ましそうにイルカを見る。
「まあ、そこが好いところなんだがな。」と言ってから話題を元に戻した。
「見合いって言っても、茶を飲むくらいだからいいじゃないか。」
「そうは言われましても、俺にはカカシさんがいますし。」
照れながらもイルカは、きっぱりと言い切った。
「カカシさんがいるのに他の方と会うなんて、そんな不誠実なこと出来ません。」
「あー、そうじゃなくてだな。」
きっぱりとイルカに断られて火影は言葉を探す。
「ほら、カカシは今、任務で里にいないだろ。だから見合いくらい、バレないって。」
大丈夫だから、と火影は言い募った。
「カカシが里にいないと寂しいだろ?寂しさを紛らわせるってのと、ちょっーっと気晴らしに他の人間と会うのだと思ってさ。」
「カカシさんが不在の時に他の方に意図的に会うなんて、ますます、いけないことだと思うのですが。」
イルカの言うことは正論だった。
「お、俺はカカシさんのことを大切に思っていますし、いないからといって他の人と会ったり、気を移したりしません。」
カカシが傷つくようなことはしたくない、とイルカは訴える。
「火影さまのご命令でも申し訳ありませんが従えません。」
芯の通ったイルカの言い分だ。
一人の人に決めたのなら一途に思う性質らしい。
イルカらしいと火影は密かに思ったのだが。
「でもさあ、イルカ頼むよ。」
「無理です。」
「ほんとに、ちょっとだけだし。」
やけに火影は絡んでくる。
「カカシには内緒にするから。」
「そういう問題ではありません。」
イルカは、はっきりと言った。
「悪いことをすると後で、きっとバレますから。」
「え〜。」と火影が言った、その時だった。
「そうです〜よ。」
火影の執務室に何の前触れもなく白い煙を伴って、どろんとカカシが現れた。
ちゃっかりイルカの隣に立っている。
「俺のイルカ先生に、おかしなこと勧めないくださいよ。」
「げっ、カカシ!なんで、ここに。帰ってくるのは三日後のはずじゃ・・・。」
「任務が予定より早く終わりましたのでね。」
そう言ってからカカシは火影を、じろりと睨んだ。
険悪な目つきだ。
「俺がいない隙を狙ってイルカ先生に何をやらせようとしていたんですか?」
静かな声だが迫力があった。
「そんなことしてバレないとでも思っているんですか。」
「いやあ、そのねえ。」
あはははは〜、と火影は引き攣った笑い顔を浮かべた。
「見合いを取り持つと仲介手数料というか、お小遣い的なものが貰えるからさ。」
本当の狙いは、そこだったらしい。
「イルカと見合いしたいって人間が結構な数いるからね。仲介してくれたら少しばかり謝礼をって言われて・・・。」
「金に目が眩んだんですね。」
「そうとも言うかな?」
火影が首を傾げて可愛らしい仕草をする。
「ほら、私って真のギャンブラーだからー。お金がないと賭け事できないしー。」
「誤魔化そうたって駄目です。」
シズネに後で言い付けときますからね、とカカシはきつく言うとイルカの肩に手を回した。
火影室からの退室を促す。
「さ、イルカ先生、行きましょう。」
「あ、待っておくれよ、私の仕事の手伝いは・・・。」
「一人でやってください。」
カカシは厳しく言い、無情にも火影室の扉は閉められた。
「それにしても。」
火影室を出た途端、カカシは相好を崩した。
でれっとした顔になる。
「イルカ先生が火影さまの前で、俺のこと大切に思っている、なんて言ってくれて嬉しかったなあ〜。」
顔を、ほのぼのとさせて、にこにこしている。
「え、えっと、あれは・・・。」
その、だって、とイルカは急に心臓が、どきどきとしてきてしまう。
カカシの前だと、いつもこうだ。
付き合い始めて大分経つのに、中々、慣れない。
好きな人に好意を表すことに。
「火影さまに、きっぱりと断る姿なんて格好良かったですよ〜。」
いつから見ていたのか、他の人に気を移したりしないって台詞も感動しました、と感極まっている。
「俺のこと、ほんとに好きでいてくれているんですねえ。」
しみじみと言ったカカシにイルカは、かっと頬が熱くなる。
「俺もイルカ先生が大好きですよ。」
カカシの優しい声がする。
優しい目がイルカを見ている。
全部、本物だ。
カカシの心に嘘はない。
そんなことを言われて、もちろん、イルカは幸せだったのだが。
以前、普段の自分では絶対に言わないことをカカシに言ったりして、それを思い出すたびに恥ずかしくて堪らなくなっており。
でも、やっぱりカカシのことが大好きで、大切で人だから。
だから囁くようにカカシに言った。
「俺もカカシさんが好きです。」と。
それを聞いたカカシは幸せそうに微笑んだのだった。
きっと大切な人だから15
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