気づいたとき 後編
その夜、俺はドキドキしながら寝た。
昼間のカカシ先生が言ったことを思い出す。
告白の返事をさせて下さい、低い声で俺にそう告げた。
少しは期待していいのかな。
いや期待するのは駄目だ。
世の中、期待すればするほど、叶わなかった時の失望感て大きいし。
それはセオリーだ。
小さいな期待をしては打ち消して。
そうして俺は眠りに落ちていった。
朝、アカデミーに行った。
今日は午前はアカデミーで、午後からは受付けだ。
職員室で仕事の準備をしていると
「どうした、イルカ。今日は落ち着きないなあ。」
俺がそわそわしているのを見て、隣の机の同僚がからかうように言ってくる。
「え、そうかな?」
「うん、何だかいいことでもあるみたいじゃないか。」
いいこと、ではないかも知れない。
唸って悩んでいると、益々からかうような口調で言ってくる。
「もしかして、色気づいてきたのか。告白されたとか?」
告白とは、ちょと違うけど近い。
「あのさ。告白の返事を、その場でしないで持ち越すって、どう思う?」
「その場で告白されてすぐにってことか?」
俺が頷くと、あっさりと同僚は回答してくれる。
「角の立たない断りの返事を考えているか、面倒くさいかのどちらかだな。」
「そ、そう。」
同僚の言葉に、ふわふわした気持ちがさっと冷めた。
そうだよな。
期待なんかして、馬鹿みたいだ。
「イルカ、今日は浮き沈みが激しくないか。俺・・・もしかして悪いこと言ったりした?」
「いや。」
俺は無理矢理、顔に笑いを貼り付ける。
そうだ、ついでに聞いてみよう。
「あ、あのさ。昔、助けてもらった人に好意を持つのって、どう思う?」
「助けてもらった人を好きになるってやつか。」
「うん。」
俺は真剣に聞く。
「そりゃ、あれだ。何とか効果って言って、極限状態に陥った時に心理的作用が働いて好きだと勘違いしてしまうってもんらしいぞ。」
「じゃあ、好き、じゃないのか?」
「ああ、せいぜい憧れ程度じゃないの。」
「そ、そっか。」
同僚の言葉に打ちのめされた俺は、もう立ち直れそうになかった。
午前のアカデミーの仕事を何とかこなした俺は午後からの仕事がある受付けに向かう。
足取りはしっかりしていると思うが心の中ではよろよろしていた。
俺は、実はカカシ先生のことが好きじゃなかったのかな。
好きと憧れって大分違うし。
総ては俺の勘違いか。
昨日のカカシ先生との会話には、きっと別の意味があったはずなのに分からなかったとは。
俺って、なんてどうしようもない奴なんだ。
一階の渡り廊下を通っている時に話し声が聞こえた。
聞こえたのは、カカシという言葉があったからだ。
思わず、聞き耳をたてる。
「・・・だから、カカシはそうだって言ってたぜ。男は嫌だってな。」
「そうそう、興味ないとか。」
「ま、そりゃ女の方がいいだろうよ。」
その後に誰か数人の笑い声がした。
男より女、そんなの当たり前だ。
聞いてしまった俺は、喉がからからに乾いて息苦しさを抑えられなくなって。
何もかも考えるのを止めて急ぎ足でその場を後にした。
「ん?なんだい、イルカ。今日は元気がないじゃないか。」
受付けに座って仕事をしていると、傍らの五代目から声が掛かった。
「悩み事かい?」
ちょうど、受付けは人が途切れていた。
だから、五代目は声をかけてくれたのかもしれない。
今は五代目と俺とで二人きりだし。
しかし何で悩んでいるのか言いたくない。
俺は口篭もる。
「いえ。その、気にしてくださってありがとうございます。」
愁傷に頭を下げた。
「今日、人生最大の過ちにきづいて反省やら後悔やらしていたんです。」
「ふーん。」
五代目は意味有り気な視線を向けてきた。
「込み入ってそうだな。まあ、あれだ。私に言えないようならカカシにちゃんと相談するんだぞ。」
「はい。ありがとうございます。って、え?」
何故にここでカカシ先生の名が。
びっくりする俺に構わず五代目が続けた。
「あれだろ、上忍だからって遠慮することはない。恋人は対等な関係なんだからな。」
五代目は腕組みをして、うんうんと頷いていた。
「昨日、急な任務で呼び出したらイルカと一緒だったのにって怒っていたよ。邪魔するなって。ようやく両思いになって告白されたのに〜ってな。」
五代目の声がやけに遠くから聞こえた。
「一応イルカは男だよって確認したら、カカシは何て言ったと思う?イルカ先生は男女のカテゴリーには入りませんてさ。」
じゃあイルカは何々だと聞こうとしたけど、多分胸焼けするような答えしか返ってこないと思ったから聞くのやめたけどさ、、と五代目は見るからにうんざりしていた。
「任務前だってのに散々惚気ていったしねえ、カカシは。何しろ、昔、一度だけ逢った子に天命を受けたように惚れたって言っていたから。・・・イルカ、顔が真っ赤だぞ。」
そりゃ、真っ赤にもなるよ。
俺の知らない新事実がバンバン出てきた上に、誤解したり不安になったりしてた要素が全部解明できたんだ。
それから俺はようやく分かった。
自分のことが。
カカシ先生が好きなんだなぁって。
あんなに不安になったりドキドキしたり、これを好きと言わずに何と言おう。
・・・あ、愛、とか。
自分でこんなことを考えて、顔はもはや自分でも分かるほど熱くなっていた。
「おい、イルカ。カカシが帰ってきたぞ。」
五代目の声に、はっと顔を上げると受付けの入り口からカカシ先生が入ってくるのが見えた。
真っ直ぐ俺の方に来る。
「ただいま、イルカ先生。はい、報告書。」
「あ、はい。」
俺は赤く熱くなった顔を隠すようにして報告書に目をやった。
ミスはないので、処理済の印を押す。
そして。
「報告書はよろしいです。あの、お帰りなさい。」
後半部分の声は小さくなったがカカシ先生には聞こえたようだ。
「うん。ねえ、イルカ先生。」
静かな声で話しかけられ、そっとカカシ先生をしたから見上げた。
「昨日の告白の返事ね。はい、です。」
そして、にっこりと笑った案山子先生は、すごく格好良かった。
見蕩れていると、横から五代目が口を挟む。
「カカシ。昨日、恋人になったって言っていたのに告白の返事はまだだったのかい?」
じゃあ両思いも何もないじゃないか、と呆れている。
五代目の突っ込みにカカシ先生はしれっとして答えた。
「俺とイルカ先生が恋人になると言うのは、絶対予測の未来だったもので。」
「訳の分からんことを言うんじゃないよ。」
カカシ先生と五代目は仲良く、恋人についてあーだこーだと話していた。
昨日から俺の人生いろいろ目まぐるしく起こっている。
でも。
気づいたときには幸せだったなんて、なんて幸せなことなんだ。
気づいたとき 前編
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