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風は何処に吹く



畑カカシは高校の教師をしている。
担当教科は国語。
余り熱心な教師とはいえない。
どちらかというと無気力気味だ。
いつも眠そうな目をして垂れた前髪で左目を隠している。
ミステリアスといえば聞こえはいいが、単に胡散臭いだと生徒からは思われている。
姿勢も悪く、いつも猫背でポケットに手を突っ込んであるいている姿が多く目撃されていた。
背筋を伸ばし眠そうな目を開ければ、それなりに格好いいという噂もあるが、あくまで噂だ。
目撃者はいない。
なのに生徒からは人気が高く「カカシ先生」と名前の方で呼ばれている。
今の高校の赴任してきて半年も経っていないのに。
そんなカカシ先生は生徒指導をしていたりする。
年齢は二十代半ばと若いが老成していた。
人生と達観していて愛読書を片手に、恋人はいらないと明言していたのだが。
そんなカカシに人生の転機が訪れた。
恋人にしたい人ができたのだ。
一目惚れだった。
その人の名は、まだ知らない。



放課後の下校時のことであった。 カカシは帰宅する生徒を職員室の窓から、ぼーっと見ていた。
何をするでもなく、何も考えずに眺めていたのである。
生徒の流れを追って、校門に目が行く。
そこで人だかりとみつけた。
生徒の何人かが誰かを取り囲んで、わいわいとやっている。
囲まれた人物は遠目からだが、若い男と一目で分かった。
ラフな服装に黒い髪を結い上げて、生徒と談笑していたのだ。
ぼーっとしていたカカシの目が、かっと見開いた。
窓から身を乗り出して、その人物をもっと見ようとした。
年齢は、どのくらいだろう?
生徒と差ほど変わらないかもしれない。
笑った顔がカカシの心臓を直撃した。
かわいい!
直感した。
この人が俺の恋人になるべき人だと!
この人こそが俺の運命の人なのだと!
男とか女とか、どうでもよかった。
食い入るように見入っていると、その人は生徒に手を振り行ってしまった。
カカシが職員室から校門に行こうとしていた直後に。
生徒と仲がいいのか、にこやかに去って行く。
誰だろう、あの人は。
カカシは恋に落ちていた。



それから何度も何度も放課後になると校門を見張っていたのだが、カカシが恋した人は一度も現れることがなかった。
名前は分かった。
カカシは次の日、恋した人と話していた生徒を捕まえて尋問したのだ。
「おい。昨日、話していた人は誰だ?」
「昨日、話していた人って?」
生まれつき金色の髪を持つ生徒は、きょとんとしてカカシを見つめた。
「ほら、校門のところで」
「ああ!」
金色の頭の生徒は、ぽんと手を打った。
「佐助や桜ちゃんと話していた人のこと?」
「そうだ」
カカシが頷くと金色の頭の生徒は、にーっと笑った。
「あれはイルカ先生だってば!」
「イルカ先生?」
「そう。前にこの学校にいた先生」
「・・・前に?」
カカシは眉を潜めた。
辞めたとしたらカカシが赴任する前になる。
「イルカ先生の後任がカカシ先生だってばよ」
「ふーん」
そんな話は初耳だった。
聞いたことがない。
「何で、辞めたんだ?」
カカシの質問に金色の頭の生徒の顔は歪んだ。
「それは怪我して・・・」
「怪我?」
「うん・・・」
沈み込んでいる。
「俺を庇って背中に大怪我したんだ」
なんとなく、それ以上訊くのは憚られた。
生徒のプライバシーもある。
「そうか」
追求を諦めたカカシは最後に、これだけはと尋ねた。
「イルカ先生の名前は何ていうの?」
そして手に入れた情報が『海野イルカ』という、あの人のフルネームであった。



どうしてもイルカの笑顔を忘れられず。
恋した人を求めてカカシは街中を歩くたびに人の顔に注意した。
どこかにイルカはいないかと。
だけどもイルカは見つからず、時間だけが過ぎていき。
「ああ、会いたいなあ」
日に日に想いだけが募っていく。
そんなある日、イルカを見つけた。
「あ!」
それは偶然だった。
すれ違い様にイルカを見つけたのだ。
最初は分からなかった。
あの日と違う服装だったから。
ラフな服のときと印象が違っていて、スーツ姿のイルカは雰囲気が凛としていて。
真面目な顔で背筋を伸ばして歩いていた。
結い上げていた髪も項で纏めている。
慌てて追いかけたのだがイルカの姿は、すぐに人ごみに紛れてカカシは見失ってしまった。
「あーあ」
がっくりと肩を落とす。
「イルカさんと話したかったのに」
できたら、お近づきとかになりたかった。
しかし、意外なところにチャンスはあった。



「カカシ、今夜、空いているか?」
職員室で嫌々仕事をしていると、高校の教師仲間の猿飛アスマに話しかけられた。
大柄の体格で髭を生やしている男の受け持ち教科は体育ではなく美術だ。
「ああ?今日の夜?」
カカシは猿飛アスマと大学時代の知り合いで学友というか悪友だったので、面識はあった。
「何、飲みに行くの?」
そう言うと「ちげーよ」とアスマは手を振った。
「ちょっとな、知り合いのところに顔を出すからカカシもどうかと思ってよ」
「俺に知らない人?」
「まあな。でも間接的には知っている」
「・・・変なの」
「まあ、変だな」
よっこらしょ、とアスマは椅子から立ち上がった。
「カカシのことを気にしていたから、ちょっと会わせたいなと思ってなあ」
「俺のことを?」
「そうだ」
興味が沸いた。
自分のことを知りたい誰かの存在に。
しかも相手は間接的にカカシを知っているという。
自分が知らなくて、相手が知っているのも気に食わない。
カカシは即決した。
割と負けず嫌いだったりする。
「行くよ、そのアスマの知り合いってのに会いに」
「そうか」
アスマは、ほっとしたようだった。



夜の街をアスマについて行くと裏路地のような道に入り込んだ。
ビルの隙間を通り、何度も角を曲がって迷路みたいな道を練り歩く。
知った人間でないと辿れないような道だった。
「ちゃんと帰れるんだろうなー」
カカシが怪しむと先頭を行くアスマの「ああ、大丈夫だ」と生返事が返ってくる。
どのくらい歩いただろう。
不意にアスマが止まった。
「ここだ」
見上げると古ぼけたビルが建っていた。
近代的なビルではなく、年代を感じさせる古い建物。
そのビルの中にアスマは躊躇なく入っていた。
カカシもついて行かざるを得ない。
最上階の三階に到着した。
「着いたぜ」
アスマが指したドアには看板が掛けられていた。
カカシが読み上げる。
「木の葉探偵事務所?営業中?」
首を傾げた。
「うちの高校と同じ名前じゃない」
カカシが教師をしている高校は『木の葉高校』という。
「なんで?」
アスマを見ると肩を竦めている。
「俺の親父が出資者だからだ」
「・・・ふーん」
アスマの父親は木の葉高校の理事を勤めていた。
繋がりがあるのか。
謎が残る。
そんなカカシに構わず、アスマはドアを開けた。
「よう!イルカ、元気か?」
その名にカカシは激しく反応する。
「イルカ!イルカさん!」
急いで中に入ると簡素な室内にはソファーセットと事務机た二つ。
そのうちの一つの机でイルカがパソコンを使っていた。
「いらっしゃい、アスマさん」
にこやかに笑っている。
カカシが初めて見た日と同じ笑顔で。
「俺は元気ですよ、お蔭様で」
立ち上がったイルカはカカシに気がついた。
「そちらの方は?」
不思議そうに視線を向けられる。
「ああ、こいつは・・・」
「畑カカシといいます!」
アスマの紹介を待たずしてカカシはイルカに接近し手を握った。
勝手に自己紹介してしまう。
「イルカさんとお呼びしてもいいですか?」
「・・・え?は、はい」
イルカはカカシの勢いに押されている。
力を込めてイルカの手を、もう離さないとばかりにカカシは握る。
「一目会ったその日からイルカさんに恋しています!好きです!愛してます!」
イルカは呆気に取られて動きが止まっていた。
アスマも同様に。
「俺の恋人になってください!お付き合いしてください!一生、大切にしますから!」
イルカの返事はない。
当然だろう、初対面の人間にいきなり名を呼ばれて告白されて付き合いを申し込まれても考えが追いつかない。
しかし、返事がないのをカカシは好いように受け取った。
「返事がないということは了承してもらえたということですよね!」
嬉しいなあ、とイルカに抱きついた。
ぎゅぎゅっと抱きしめて頬擦りしている。



十数分後。
正気に戻ったイルカが恋人認定を抗議し、アスマが落ち着けと嗜めたのだが。
カカシは聞く耳持たず。
イルカとは恋人になったのだと憚らない。
これがカカシとイルカの初めての接触であり、長い付き合いの始まりでもあった。


風は何処に吹く・続



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