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河の魚 その後



イルカが消えて呆然としていたカカシは我に返ると、木の葉の里の長、五代目火影の元へと赴いた。
里の長なら、里のことに何でも精通してしそうであったし、イルカのことも知っているに違いない。
年の功というものもあろう。



そう考えたカカシは、見た目は二十歳そこそこの麗しい容姿を持つ火影の執務室に深夜、訪れた。
火影は、何だかんだいって、いつも仕事に追われていて執務室にいるのが常だったからだ。
カカシが火影の前に姿を現すと仏頂面をした火影の方から開口、一番訊かれた。
「カカシ、イルカに何をした?」
「え・・・。」
「答えによっちゃあ、ただじゃおかないよ!」
拳を握り締めながら、そんなことを言ってくる。
火影は女性ながらに怪力の持ち主で、その腕力に適うものは里にはいない。
「何をしたって、どういうことですか?なぜ、火影様がイルカ先生のことを・・・。」
カカシは全く、事情が分からない。



イルカのことを尋ねようを訪ねてきたのに、何ゆえ、自分がイルカのことを訊かれるのだろうか。
「はああ、全く。」
火影は、深い溜め息を吐いた。
「さっき、イルカが私のところへ来て、河に還る、いや還らなければならなくなったと哀しそうな顔で告げに来たんだよ。ちょうど、奉公も明けたしと言ってね。」
「それで?」
やはり、火影はカカシの知らないイルカのことを確実に、何か知っている。
「今までお世話になりましたと礼を述べてから、カカシさんによろしくと言葉を残して、止める間もなく姿を消してしまったんだ。」
河に還ろうと行ってしまったに違いない、と火影は憂えた顔を見せた。
「イルカに言わなければ、いけないこともあったのに。」
頭を抱えて火影は肩を落とす。


「それに、イルカは稀にみる明るく素直な働き者で重宝していたのに〜。」
実は、それが一番の理由らしい。
「カカシ、投網でも持っていって河にいるイルカを捕まえておいで!何としてでも連れて戻してきな!」
威勢良く、火影は言い放った。



「まあ、イルカ先生を連れ戻しには行きますけどね。」
カカシは、肩を竦めて両手を広げる。
「俺には、さっぱり事情がのみ込めません。ちゃんと説明してください。」
笑った顔は、少々、凄みを帯びていた。



「何だか怖いぞ、カカシ。」
眉を潜めた火影は、仕方なさそうに話し出した。
「その昔、私が、まだ若かりし頃の話だが・・・。」
「何十年も前の話ですね。」
「煩い。」と茶々を入れたカカシを火影は睨んだ。
「里外れの河の近くを通りかかった時に、偶然というべきか運命というべきか、なんと・・・。」
「なんと?」
「なんと、河童がいたんだ!」



一瞬、火影の執務室は静まり返った。
しん、と空気が冷えたような錯覚を覚える。
「なんだ、驚かないのか?カカシ。」
「いえ、火影様が呆けてしまわれたのかと思って・・・。」
ごん、とカカシは火影に拳骨を食らった。
「呆けてないよ、失礼なやつだな。本当に本当なんだって、信じられないと思うが。」
「全然、信じられません。」
超現実主義者のカカシは、そのような類の話は一切、信じていなかった。


しかし、目の前でイルカが消えたという事実はある。
少しは、火影の話を信じてみることにした。
「それでだな。」
話の腰を折られた火影は再び、話し出した。



「その河童は重い病いで苦しんで弱っていたんだよ、それを私が診てやって薬を処方したところ、たちまちのうちに治ってなあ。」
「へええ、河童がねえ。」
河童がイルカと何の関係あるのだろうか。
「河童は大喜びしてな。しかも河の主だった、その河童は恩返しに木の葉の里の河の水を絶やさぬことを約束してくれたんだ。」
お陰で毎年、木の葉の里は五穀豊穣さ、と火影は自慢げな顔をした。
それと、と火影は指を一本立てる。
「もう一つの恩返しとして、河から、ある者を木の葉の里に奉公させようと寄越したのがイルカだったのさ。」



なるほど、とカカシは頷き、何となく、イルカの行動の意味が分かってきたような気がした。
イルカの消えた不思議な現象も関係しているのかもしれない。
夜中、人目を忍んで河で、ばしゃばしゃを泳いでいたのは、河を懐かしんでいたのだろう。
「じゃ、イルカ先生は人間ではないのですね。」
「まあ、元はな。でも、二十年も人間の姿で生きて過ごしているから、既に人間と変わりないんじゃないか。」
「二十年も・・・って、奉公の年季がもしかして二十年だったんですか?」
「鋭いな、カカシ。そうだよ。序でに、その奉公に年季について、ちょっと変更事項が生じたんでイルカに、それを伝えたかったんだが・・・。」



変更事項の内容を、火影に聞かされたカカシは目を見開いた。
「それは、本当ですか!」
喜びに目は輝いている。
「本当だ。だから、カカシ、イルカのことを迎えに行ってやれ。河に還れんと泣いているかもしれんしな。」
火影は、喜んでいるカカシを胡散臭そうに見た。
「何でカカシが喜んでいるかは、余り追求したくないが。イルカのことを思うのなら、とにかく、早く行ってやれ。」
カカシが、泳いでいるイルカを目撃したという河の川縁にいるはずだ、と火影は言った。



果たして、カカシがイルカが泳いでいた河の川縁に行って見ると、求めていたイルカの姿があった。
額宛もベストも抜いて忍服の黒の上下だけになっており、河を見詰めて呆然と座り込んでいる。
河に入ったのだろうか、全身は、ぐっしょりと濡れていた。
頭の天辺で結んだ髪からは、以前、見た時のように雫が、ぽたぽたと垂れている。
「イルカ先生。」
カカシは静かに近寄って声を掛ける。
しかし、イルカの絶望したような呟き声が聞こえた。
「戻れない、魚に・・・。」
なんで、どうして、という言葉が後に続く。



「イルカ先生。」
肩に手を置いて、名を呼ぶとイルカは、やっとカカシの方を向いた。
ぼんやりとした目にカカシが映っている。
「・・・カカシさん。」
イルカの声には力がない。
「イルカ先生、もう戻らなくていいんです。」
ぱちぱち、とイルカは目を瞬かせる。
「・・・・・・でも、俺。」
その声が、ひどく頼りなげで儚くて今にも消えてしまいそうだったので、堪らずカカシはイルカを抱きしめた。
濡れて凍えた体を精一杯抱きしめる。
「いいんですよ、還らなくて。」
イルカの耳元に口を寄せて囁いた。
「ずっと、俺と一緒にいればいいんです。」




河の魚



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