AIで普通の動画を3D動画に変換する



悲しいけれど、それが現実 1



なんとなく。
なんとなく好感を持って。
いい人だなと思うようになって。
気になりだして。
気がついたら目で追っていて。
声を聞けば胸が高鳴り。
話しかけられれば嬉しくなり。
顔を見れば幸せになる。
好きかなと思っていたのが、やがて。
好きだなに変わっていき。
そして好きになっていた。
そんなことを考えて、イルカは溜め息を吐いた。



「ああ、もう・・・」
最近のイルカの口癖だ。
一人きりのときに出てしまう。
「ああ、もう、俺ってやつは・・・」
床に散らばった書類を拾い集める。
受付所に行く途中の廊下で運んでいた書類を誤って、ばら撒いてしまったのだ。
考え事をしていて気を散らせていた。
「ったく、ばっかだなあ」
自分に悪態をついてしまう。
「もっと、しっかりしろ俺」
書類を拾おうと床に手を伸ばした指先に誰かの手が触れた。
その手は指なしの忍者用のグローブをしている。
「イルカ先生は充分すぎるくらい、しっかりしていると思いますよ」
ふふっと笑った、その人を見てイルカは焦った。
「カ、カカシ先生」
「こんにちは、イルカ先生」
軽やかに挨拶をしてきたカカシはイルカがばら撒いた書類を、ささっと集めてイルカに渡してきた。
「はい、どうぞ」
「すみません・・・」
「これから、受付?」
「そうです・・・」
「俺も受付に行くところだったんですよ。一緒に行きましょ」
「はい・・・」
渡された書類を両手で胸に抱えて、ぎゅっと握る。
まともにカカシが見れない。
「最近、イルカ先生は忙しいの?」
「え・・・。は、はい」
「飲みに誘っても食事に誘っても断られてばっかりだし」
カカシの声が寂しそうなのは気の所為か・・・。
「仕事も程ほどにしないと体を壊しますよ」
「体は丈夫な方なので」
風邪を引くのは稀だった。
「そうじゃなくて」
若干、カカシの声が苛立ちを含んだ。
「仕事をするだけが人生じゃないでしょ」
「はあ」
「他にも目を向けてよ」
横を歩いてカカシが、すっと手を伸ばしてきてイルカの頬に触れた。
頬から頤にカカシの指が流れていく。
「俺とかに」
俺に目を向けて。
その発言に目を見張り、思わずカカシを見てしまう。
「あ!やっと、こっち見た」
カカシは嬉しそうだ。
その目は多分に優しい。
見つめられると動悸が激しくなってきて止められない。
じわっと顔に熱が集まるのが自分でも解る。
「あ、受付所に着きましたよ」
「あ・・・。はい」
慌ててカカシから離れて受付所に入る。
すぐに簡単な引継ぎをして、受付所の係を交代した。
危なかった。
心の中で冷や汗をイルカは掻く。
危なかった、もう少しで。
後から受付所に入ってきたカカシを視界の隅に捉える。
もう少しでカカシ先生に告白してしまうところだった。
そう。
イルカの好きな人はカカシだったのである。



まあ、男同士の恋愛なんて有り得ないし。
告白しても実ることはないだろうと予測は出来る。
だけども。
この思いを伝えたくなってしまう。
何故なのだろうか?
告白したところでカカシ先生が困るのは目に見えているし、振られるのも分かっている。
その後、自分自身が窮地に陥るであろうことも分かっている。
告白して、気持ち悪いとか言われたら立ち直れない。
第一・・・。
イルカはカカシと話している女性を見ない振りをした。
その女性はイルカと風貌がイルカによく似ていた。
新任のアカデミーの教師でイルカの後輩に当たる。
長い黒髪、大きな黒い瞳。
黒髪はイルカと同じく、頭の天辺で結っている。
背は低く年は若く、ふんわりとした女性らしい雰囲気で、何より可愛かった。
カカシ先生には女性がお似合いだ。
まさか、自分が同性の男に好かれているだろうと露ほどにも思っていないに違いない。 今のままでいい。
カカシへの思いを心の底に沈めて、イルカは受付所の仕事に没頭した。



「はー、終わったー」
受付所の仕事が終わってイルカは伸びをした。
時刻は零時を回っている。
受付所に人気はない。
「疲れるよなあ、受付」
交代した同僚が愚痴をこぼす。
「色んな人間を相手にしなきゃいけなくてさ」
「はは、まあな。でも、遣り甲斐があるじゃないか」
「それとこれとは別さ」
同僚は口を尖らせた。
「俺たち、アカデミーも兼任しているんだぜ」
忙しいこと、この上ない。
「イルカは明日は普通にアカデミーだろ?」
「そうだな」
「俺も早朝まで受付したら、午後からアカデミーで仕事だ」
「大変だな」
「イルカこそ」
二人揃って深い息を吐く。
「休みがほしいなあ」
揃って口から出た。



「じゃあ、また明日」と同僚に別れを告げ、受付所を出ると空には一面、星が瞬いていた。
夜の済んだ空気を吸い込む。
生き返った気がした。
「綺麗な空だなあ」
暫し、星空に見蕩れてしまう。
星が輝く夜空。
心が奪われる。
「流れ星ないかな」
もしも流れ星が見えたら・・・。
ささやかながらも、お願いしたいことがある。
「願い事って三回、言うんだっけ?」
「何を願うんですか」
急に背後から声がしてイルカは飛び上がらんばかりに驚いた。
「うわっ!」
余りにも驚いて後ろに引っくり返りそうになったところを、素早く手首を掴まれて前に引っ張られる。
「そんなに驚かなくてもいいでしょ」
傷つくなあ、とぼやくカカシが、そこにいた。
「だ、だって、こんな時間にカカシ先生こそ・・・」
ばっくんばっくんする胸を押さえてイルカは言う。
「こんな時間にこんなところで何をしているんですか・・・」
お化けかと思ったとは口には出さなかった。
「何って、実はこれから任務でしてね」
カカシが癖になっているのか、頭を掻く。
「任務の出掛けに、ここを通ったら偶然・・・。ほんとーに偶然、イルカ先生を見つけて」
それで声を掛けたらしい。
「そうだったんですか」
イルカの胸の動悸は、まだ治まらない。
「任務、お気をつけて」
こんな時間に出発する任務はカカシが単独で受けたランクの高い難しい任務に決まっている。
「はい、ありがとうございます」
闇夜でも、はっきりと分かるほどカカシは微笑んだ。
「イルカ先生に、そう言ってもらえると頑張れます」
「そんな・・・。俺なんて・・・」
「嘘じゃないです。帰ってきたら、一緒に飯でも食べると約束してくれたら、もーっと頑張れます」
「それは・・・」
「約束してくれますよね?」
少し悩んでイルカは頷いた。
こんな約束くらいでカカシの任務が無事に遂行されるなら、お安い御用だ。
「やった!約束ですからね」
掴まれていた手首を更に引っ張られてカカシとの距離が縮まった。
「指切り拳万!」
小指と小指で約束事をする。
「で?」
きら、とカカシが目を光らせた。
「先ほどの話の続きですけど、何を願うんですか?」
「え、願い・・・」
「流れ星を探していたでしょ」
「ああ、それは・・・」
口に出すのは躊躇われる。
カカシには言いたくない。
「内緒です・・・」
それだけ言った。
「そうですか。なら、しょうがないですね」
意外に、あっさりとカカシはイルカの手を離した。
「イルカ先生だけの秘密って訳ですね」
「秘密って程じゃないんですが」
だけど言いたくない。
「いいですよ、秘密で」
イルカを見つめるカカシの目が細まる。
「秘密を暴くのは好きですから」
何を言われたかイルカが理解する前にカカシは姿を消してしまった。
「任務に行って来ます」
約束忘れないでね。
言葉だけが風に吹かれて流れてきた。
「カカシ先生・・・」
イルカの願い事。
ほんのささやかな願い事。
これからもカカシ先生と、このままで。
このままの関係でいられますように。
決して、自分の気持ちが知られないように。
イルカがカカシを好きだと気づかないように。
今のカカシとイルカの関係でいいから。
願うのは、たったそれだけであった。



悲しいけれど、それが現実 2



text top
top