padre 後編
「パパ・・・じゃないよ?」
抱きついてきた小さいイルカにカカシは言ってみた。
イルカの父親は別にいるので、そこは訂正を入れてみる。
「パパじゃないの?どうして?」
首を傾げてイルカは不思議そうな顔をした。
可愛らしい声でイルカは素直に疑問を口にする。
「どうしてって言われても・・・」
小さい子どもの扱いには慣れてない。
目の前のイルカは本当に小さくて見たところ、五歳か六歳くらい。
「抱っこしてー」
イルカはカカシに両手を広げる。
甘える様子は丸っきり子どもだ。
「え、あ、うん」
言われるままにカカシは小さいイルカを抱っこした。
腕に抱え上げたイルカは驚くほど軽い。
それに、ふわふわとしていて頼りない。
「たかーい」
抱っこされて視線が高くなったのを小さいイルカは喜んでいる。
「たかいねー、すごいねー」
にこっと笑いかけてくるイルカにカカシは虜になったのだった。
「パパ、どこに行くの?」
どうしてイルカがカカシのことをパパと呼ぶのか気になったが、この際、それは忘れることにした。
可愛いイルカにカカシは自然、笑みが浮んでくる。
「えーとね、受付所」
「うけつけじょ?」
「そうだ〜よ」
そういえばカカシは報告書を出しに行く途中であった。
受付所に行けば、この状況を打開する知恵を火影に借りれるかも知れない。
イルカも受け付けに行くと言っていたし。
・・・ま、これじゃあ仕事は無理だろうけどね。
子どものイルカに受け付け所の仕事は無理だろう。
そこのところも説明しなければならない。
「じゃー、うけつけじょに行こー」
よく分かっていない小さいイルカは楽しそうにしていた。
受付所に到着し。
当然のことながらカカシは注目の的だった。
子どもを連れていたからである。
大事そうにカカシの腕の中にいる小さなイルカは、どうしても受付所にいる皆の好奇心が寄せられてしまう。
何しろ、あのカカシが連れている子どもだ。
カカシが子どもと一緒にいるなんて初めてだった。
雰囲気を察知して怖いのか小さいイルカは、ぎゅっとカカシに抱きついた。
「よしよし、大丈夫だ〜よ」
カカシはイルカの背を擦ってやる。
すると、ますますイルカはカカシに抱きつく手に力を込めた。
ちょっとだけ体が震えている。
知らない人が、よっぽど怖いらしい。
カカシは手早く報告書を出してから受付をしている中忍に訊いた。
「今日は火影さまは受付所にいないの?」
火影は偶に受付所にいたりする。
「本日は多忙で受付所に来られないそうです」
「そう」
頼りにしていた火影が不在となると他に誰かと、受付所内を見渡しても頼れそうな人物はいなかった。
しょうがない。
密かに溜め息を吐いたカカシは受付所の中忍に手短に言った。
「今日はイルカ先生、受付所に来れないから」
「え?」
「ちょっとしたハプニングでね」
そのハプニングを起こした張本人はカカシだ。
「悪いけどイルカ先生の受付所のシフトは今日は外れるってことで」
「はあ」
詳しくは説明せずに受付所を後にする。
内心、罪悪感でいっぱいだが腕の中の子どもがイルカだと知れれば、ややこしいことになりそうだった。
それに。
怯える小さいイルカを受付所から連れ出したかったからでもあった。
「もう大丈夫だよ」
受付所を出て離れた場所に行くとイルカは落ち着いた。
「安心していいよ」
声を掛けると、ほっとした顔で笑った。
「うん」
その顔が何とも言えず、カカシは小さいイルカを抱きしめる。
「かわいいねえ、イルカは」
イルカ先生とは呼ばずにイルカと呼ぶ。
「かわいくて食べちゃいたい」
思わず漏れた言葉に小さいイルカは眉根を寄せた。
「食べても美味しくないよ」
真面目に答えている。
その様子が、また可愛くてカカシはイルカを抱きしめた。
「本当に食べるんじゃなくて食べたいくらい可愛くて好きってことだよ」
丁寧に解説するとイルカは、こくんと頷く。
「うん、僕もパパ大好きー」
それからカカシの頬に、ちゅっとキスしてくれたのだった。
夜になった。
帰ってきたのが夕方近くで、他にも非現実的とも思える出来事が起きて目まぐるしく時間が過ぎてしまった。
報告書を出しに受付所に行ってから、散々、迷った末にカカシは自分の家に帰ってきていた。
小さいイルカを自宅に送り届けることも考えたのだが、子どもが一人家の中を想像すると寂しいだろうと良心が痛む。
結局、自分の家に連れて帰ってきて、ご飯を食べさせて甲斐甲斐しく世話をした。
小さいイルカがカカシから離れなかった所為もある。
とっても懐いていた。
でもさー。
小さいイルカに懐かれてカカシは複雑な気分だ。
パパって言われて懐かれてもねえ〜。
どちらかというと本来の大人のイルカに懐かれたい。
「元に戻るのかなあ・・・」
カカシは眠ってしまった小さいイルカの額を撫でる。
イルカはカカシのベッドで、すやすやと寝息を立てている。
「このイルカ先生も可愛いんだけど」
カカシが好きなイルカは大人のイルカだ。
子どものイルカ先生に大好きと言われて、抱きしめて抱きしめられて、ホッペにチューされて・・・。
そこまで考えてカカシは、はっとなる。
森の中で会った、あの老婆の言葉だ。
望みは叶うと言っていた。
そう、カカシの望みは叶ったのだ、一応。
パパとしてだが。
と、その時であった。
ぱあっと光が広がった。
この光はイルカが子どもになった時と同じものだ。
光源はベッドで寝ている子どものイルカである。
もしかして、元に戻るのか?
カカシの予想通り、光が止むとベッドには大人のイルカが寝ていた。
無事に元に戻ったのである。
「よかった〜」
心底から、そう思いカカシは胸を撫で下ろした。
全身から力が抜ける。
イルカが子どもから大人に戻ったのだ。
よかった、本当によかった。
寝ているイルカに異常はなさそうで、また安心する。
そうっと寝ているイルカに触れてみる。
子どもではなく大人のイルカの額を撫でてみるとイルカの目が、ぱちっと開いた。
むくりと起き上がるとカカシを見て周囲を見回した。
「あれ?ここは・・・」
「オレんちですよ」
「カカシさんの家ですか」
「そうです」
本当に大人のイルカだった。
嬉しくて、にこりとイルカに微笑む。
「あー、えっと、オレはどうしてここに?」
最もな疑問だ。
「それはですねえ」
話せば長くなる。
「おいおい、話しますよ。だけど今は・・・」
カカシはイルカに、ぎゅーっと抱きついた。
「カカシさん」
「今はこうしていていい?」
体中でイルカを実感する。
「いいですよ」
ふっとイルカが笑ったような気がした。
カカシの背にイルカの腕が回ってカカシを抱きしめてくれる。
幸せだ。
そう思ったカカシが時計を見ると深夜の十二時を過ぎており。
十月の最後の日は終わっていたのだった。
その後。
イルカはカカシに話してくれた。
「オレ、すごく良い夢見ていたような気がします」
「どんな?」
「久しぶりに父に甘えて、とっても父が優しくて」
亡き父を思い出すイルカの顔は優しかった。
「とっても嬉しかったです」
「そうですか・・・」
カカシがパパと小さいイルカに呼ばれたのは森の中で会った不思議な老婆の、ちょっとした悪戯心だったのかもしれない。
正体は解らないが。
まあ、世の中、色々あるさ、俺たち人間では説明がつかないようなこともね。
カカシは自らを納得させたのであった。
padre 前編
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