二人きり 第一話
「え、カカシさん・・・」
イルカが戸惑ったのも無理はない。
「今、なんて仰いましたか?」
カカシから出たのは思いも寄らぬ言葉だったから。
「何度でも言いますよ、イルカ先生」
魅惑的な笑みを浮かべながらカカシは言った、はっきりと。
「あなたが好きです、付き合ってください」
その言葉に呆気にとられる。
同時にイルカはカカシの笑みに見蕩れていた。
カカシさんて、こんな綺麗で格好良い人だったのか。
たった今、気がついた。
その人がイルカに言っている。
好きだと。
付き合ってほしいと。
付き合ってください・・・。
カカシさん、そう言ったのか。
にわかには信じられなくてイルカは訝しげな目をカカシに向けた。
カカシさん、もしかして。
胸に疑惑が持ち上がる。
俺のこと、からかっているんじゃないだろうか。
カカシは常に冷静でいながら、ちょっとおどけた面もある。
すごい忍でありながらも面白い人でもあった。
「あの、カカシさん」
とりあえずイルカは確認してみた。
「俺、男ですけど」
「知っています」
「女じゃないですよ」
「分かっています」
「男女じゃないと結婚できません」
「承知の上です」
カカシは、どうやら真面目らしい。
先ほど、イルカに言った言葉が真実味を帯びてきた。
イルカは少し考えて決定的なことを言ってみる。
「俺、男なので子供は産めません。もしもカカシさんが将来、自分の子供が欲しいとか思っているなら・・・」
同性同士が付き合うことがあるというのはイルカも知っている。
だが、それには異性同士が付き合うのとは別に色々な問題が生じる場合があるのだ。
だからカカシに、その問題の一部を投げかけてみた。
どう答えるのだろう?
「なんだ、そんなこと」
カカシは軽く言って薄く笑った。
「イルカ先生は、そんなこと考えていたの?」
「はい。まあ、そうです」
普通は考えるって・・・。
心の中でカカシに抗議するが、それはカカシには聞こえない。
さらり、と事も無げにカカシは言った。
「俺は好きな人と一緒にいたい。つまり、付き合いたい。それだけです」
「そう、ですか・・・」
カカシの言葉を、どう受け止めていいのか。
正直、イルカには分からない。
言葉通りに受け取っていいものか、判断がつかなかった。
「ねえ、イルカ先生」
カカシはイルカが魅惑的だと思った、その笑みを再びイルカに向けた。
「あ、はい」
呼ばれてカカシの顔を見ると瞳にはイルカの姿が映っていた。
「俺のこと嫌い?」
そう聞かれたがイルカは何とも言えない。
そんなこと考えたこともなかったからだ。
嫌いだといったら嫌いではなく、好きだといったら好きだと思う。
カカシへは尊敬の念や憧憬的なものは抱いていた。
それらは好意ではあったが、カカシがイルカに抱く好意とは違う物だ。
だってカカシはイルカがアカデミーで教えていた子供の上忍師で。
仕事上、受付所で会ったり、稀にカカシを含む複数の人と酒を嗜んだりする程度で。
恋やら愛には結びつかない。
俺のどこが良かったんだ?
イルカは首を捻ったが、さっぱり思いつかない。
俺に良い所ってあったけ?
そんなことまで思い始めていた。
「まあまあ、イルカ先生」
悩み始めたイルカにカカシの穏やかな声が聞こえた。
「そんなに悩まないでくださいよ」
「あ、ええと」
カカシを忘れて一人、思い耽っていたことにイルカは赤面した。
「すみません、つい・・・」
つい、自分のどこが良いのか悩んでましたなんていうのは、さすがに言えなかったが。
そんなイルカをフォローするようにカカシは優しく微笑んだ。
「いいじゃないですか、付き合ってみましょうよ俺たち」
なんとなく、ソフトにカカシに押されている。
「男同士で不安だと思いますが、誰にだって初めてなことはあるもんです」
「はあ」
「付き合ってみてから解ることもありますよ」
「そうですけど」
「ね?」と見つめられるとイルカに勝ち目はなかった。
心の中では既にカカシを許容し始めていた。
今の今まで何とも思ってなかった人が突如、輝いて見えたのである。
何とも、とは恋愛を含む要素がなかったという意味で。
イルカの目にはカカシが輝いて見える、ということは・・・。
恋してしまった、ということであった。
悲しいことにイルカは恋愛経験が人に自慢できるほど豊富ではなく、どちらかというと皆無に近い。
里のために働くことと子供たちの笑顔が生き甲斐にして生きてきた。
両親が亡くなってから一人きりで生きてきた。
そんなイルカが人生で初めての恋の相手がカカシだったことは吉と出るか凶と出るか皆目見当がつかない。
「いいですよね、イルカ先生」
カカシに言われてイルカは、こくりと頷いてしまった。
「よかったあ」
ほっとしたようなカカシの顔に和んでしまう。
イルカまで、これでよかったという気分になってきた。
「これからよろしくね」と差し出されたカカシの手を握る。
その手は逞しくて力強くて、でも優しい感じがした。
「あ、そうだ」
内緒の話をするようにカカシは自分の唇に人差し指を当てた。
「俺たちの付き合いなんですけどね」
「はい」
「しばらく皆に隠しておきましょう」
カカシが、そんな提案をしてきた。
付き合いを、おおっぴらにするつもりはないが最初から隠しておくのは何故だろう?
イルカの顔に浮かんだ疑問を読み取ったのかカカシは、にこやかに言う。
「ほら、男同士だと揶揄するやつも出てくるでしょう、だから」
だから隠しておきたいらしい。
なんとなく釈然としないものを感じながらもイルカはカカシの提案を了承したのだった。
二人きり 第二話
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