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あなたの背中 後編



服を着たイルカは、こじんまりとしていた。
カカシよりも背が低く、体も細い。
顔も幼くて、どう見てもカカシよりも年下だろう。
その年下のイルカは疲れたように深い息を吐いた。
よく見ると顔に疲労の色が濃い。
立ってはいるが、ふらついて足元が覚束ない。
「座る?」
カカシが気を利かしてイルカに訊くと、こくんと首を縦に振る。
座り心地の良さそうな場所を見つけるとカカシはイルカと一緒に腰を下ろした。



イルカの傷に障らぬようにイルカの体を支えて、ゆっくりと座ったのだがイルカは何も言わなかった。
「痛い?」
心配になって、もう一度訊くとイルカは、やはり「大丈夫」と答えた。
無理をしているのが見てとれる。
「そう・・・」
しかし初対面のカカシがそれ以上、追求するのも憚られる。
ただ寄り添ってイルカの隣に座っていた。
「・・・俺」
寒くないように、とカカシはイルカの肩に腕を回して体をくっ付けていたのだが、それに安心したのかイルカが少しずつ話し始めた。
「任務に失敗しちゃって、みんなに迷惑かけちゃって」
悲しい声だった。
カカシは何も言わずにイルカの肩に回した腕でしっかりとイルカの体を自分に寄せた。
イルカは相当、落ち込んでいるようである。
立てた両足を抱え込み、その間に顔を埋めていた。
「せっかく任務に抜擢されたのに役に立てなくて、怪我なんかして足引っ張っちゃって」
その声は自分を責めている。
「怪我した俺は任務の邪魔だからみんなより先に里に帰ることになって、一人で帰れるって言ったけど駄目だって言われて」
それでアスマが付き添ってきたらしい。
「なんか俺、本当に駄目な忍者だなあ」



その声が余りにも、しんみりしていて聞いているカカシの方が胸を痛くなってしまった。
「そんなことないよ」
強くカカシは否定した。
イルカを慰めたかった。
「失敗なんて誰にだってあることでしょ。一度くらいの失敗で駄目だなんてことないよ」
なんとかイルカに元気を出してほしい。
上忍で戦場では数々の修羅場を潜り抜けたカカシも失敗は多々ある。
失敗しても、それをどう乗り越えるかが一番の問題だ。
失敗した後の処理が大事なのである。
「次は失敗しなければいいんだよ」
優しく諭すように言うとイルカが顔を上げた。
泣いてはいなかったが目が真っ赤になって濡れている。
泣くのを堪えているのか。
それを見たカカシは無性にイルカを抱きしめたくなってくる。
こんなにも誰かを抱きしめて離したくないと思うなんて。
初めての衝動だ。
これが恋かもしれなかった。



「ありがとう」
イルカは健気にも薄っすらと微笑んだ。
「そうだよね、次は失敗しないように頑張ればいいよね」
自分の気持ちを吐き出して気持ちが楽になったのかイルカの体の力が、どっと抜けていく。
くっ付いていたカカシの体に遠慮なく寄り掛かってきた。
「え、あの、ちょっと、ねえ」
イルカは眠っていた、気を失うように。
寄り掛かっていたイルカの体がカカシの腕の中に落ちてきた。
体はカカシの腕の中に、すっぽりと納まってしまう。
「えっと、あー、抱きしめてもいいのかな」
落ちてきたイルカの体をカカシは抱きしめてみる。
イルカの体はあったかく、とても抱き心地がよかった。



「おっ、帰ってきたな」
カカシの姿を見つけてアスマが声を掛けた。
眠ってしまったイルカをマントに包んでカカシは腕に抱いている。
「寝ちまったのか?」
「うん、疲れていたみたい。それに落ち込んでいた」
「そうか・・・」
アスマは眉を顰めてカカシからイルカを受け取ろうとしたのだがカカシは、その手をひょいと避けた。
「俺が抱いているから」
「は?」
「だって俺の腕にしっくりくるんだもん、抱き心地抜群で」 「よく分からんが」
まあ、いいとアスマはカカシの対面に座った。
「イルカから何か訊いたか?」
「ああ、任務失敗したって」
「失敗じゃねえって言ったのになあ」
アスマが舌打ちした。
「怪我して役に立たないから先に里に帰されるんだって」
「それも違う」
眉を顰めたままアスマは簡潔にカカシに説明した。
「任務自体は総じて成功、イルカは囮役だったが事前の情報不足で敵に捕まったんだ。イルカのミスじゃねえ」
イルカは自分を責めていた。
「捕まった相手が運悪く、倒錯的な馬鹿なやつで酷い目にイルカはあっちまった」
酷い目というのはイルカの背中の傷や手首や首周りの縄の痕を指すのだろう。
「邪魔だから先に里に帰るんじゃねえ。医療品の不足で傷の治療が出来ないから里に帰るんだ」
アスマは言った。
「イルカは何も悪くない」
きっぱりと。



それからアスマは暫くしてイルカをカカシから奪い取り里に帰って行った。
二人は別れ別れになり、数年後、里で再会した。
再会した時のイルカの第一声を思い出すとカカシは笑みが浮かんでくる。
「お借りしていた服、いつ返したらいいですか?」
カカシから借りた服をイルカは後生大事に持っていたのだ。
「再会した時には、また背中に傷があったねえ」
最初にあった時の背中の傷は完治していたが、新しい傷が背中にあったのだ。
再会した時のイルカは包帯で全身が、ぐるぐる巻きになっていた。
元気そうではいたが。
それから、なしくずしにカカシとイルカは親密な関係に縺れ込んだ。
主にカカシの行動力によるものが大きかったが。
「俺」とカカシはイルカの裸の背中に頬を寄せた。
「イルカ先生の傷のない背中、見たかったな」
それは、もう見られない。
ちょっと悔しい。
「それは無理ですけどね」
カカシに背中を向けていたイルカが、くるりと体を反転させた。
お互いに正面から向き合う。



イルカはカカシを見て目を細めた、優しく。
「でも、いいじゃないですか」
声も優しい。
「俺の全部はカカシさんのものだし」
イルカはカカシの顔を両手で挟む。
目と目が交差する。
「カカシさんは俺を独り占めしているんですから」
それで満足してください、と。
「イルカ先生」
感極まったようにカカシはイルカの名を呼んで。
「大好きです!」
そう叫んでイルカに抱きつき押し倒したのだった。



あなたの背中 前編




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