両思い 余談
単独任務を終えたカカシが報告のために火影の部屋に訪れると見慣れぬものが火影の横に鎮座していた。
「・・・なんです、それは」
「ああ、これか!」
五代目火影の綱手は聞かれて嬉しかったのか、満面の笑みで答えた。
「壷だ!」
「・・・それは見れば分かります」
火影の横には大人の背丈ほどもある、極彩色だが毒々しい色合いの壷がある。
中に人が、すっぽりと入れそうな大きさだ。
しかも大きさが、どこかで見たことあるような・・・。
カカシは嫌な予感がする。
「何の壷なんですか?」
一応、聞いてみると綱手は胸を張って言う。
「金運アップの壷だ!」
「金運?」
「加えて、クジ運アップ!」
「クジ?」
「も一つおまけに、勝率アップ!」
「勝率って」
「全部揃って、ギャンブル運アップだ!」
「つまり賭け事じゃないですか・・・」
五代目火影の綱手は無類の賭け事好きだった。
しかしカモにされるほど賭け事に弱い。
負けが定番だった。
「この前、知り合いの商人に賭け事に勝てるようになる壷があると紹介されて破格の値段で買ったんだ!」
「・・・火影さま」
それってカモられているじゃ、と言いかけて止めた。
破格の値段て、いくらなんだろう?とも思う。
壷を買おうが何をしようが賭け事の弱さは変わらないだろうとも。
「で、効果はあったんですか?」
試しにカカシが聞いてみると綱手は難しい顔になった。
「全くない」
そりゃあ、そうでしょうとも、とカカシは心の中で相槌を打つ。
「余りにもないので、壷を買った商人にクレームを入れたらだな」
「クレーム入れたんですか・・・」
「いい忘れたことがあると言われて」
「いい忘れたこと?」
「そうだ。効力を発揮するためには、五月二十六日生まれ、血液型はO型、木の葉の里の生まれで黒い髪黒い目で髪を一つに括った男性にこの壷を運ばせるとより効力が発揮されるとのことだった」
「その男性って」
「うむ、条件にぴたりと当てはまる人間を探したら一人該当者がいてな」
この前、運んでもらったと綱手は頷いた。
「何でも階段の下から上へと運ぶといいとかで」
「つまり、その人は・・・」
「そう、イルカだ」
カカシが思ってとおりの人間の名前が挙げられた。
クレームを入れられた商人はおそらく推測だが、適当に返答したのだろう。
たまたま、イルカが条件に当てはまっただけで。
「この前、イルカに頼んで運んでもらったのだが」
首を傾げてカカシを見る。
「何でか、最後にカカシが運んできたがな」
やっぱりとカカシは自分の予想が正しかったのを知った。
このおかしな壷のせいでイルカは腰を怪我したのだ。
直接の原因はカカシだったとしても。
「火影さま」
「ん、なんだ?」
「で、その後は勝つことができたんですか?」
もう一度、聞く。
「いや、まだ試していないが」
イルカに運ばせた後、まだ賭け事をしていないということだ。
「じゃ〜」
カカシは両の拳を、ばきばき鳴らした。
「今、ここでジャンケン百回戦しませんか?俺が賭けるのは俺の全財産、火影さまが賭けるのは俺とイルカ先生の同時休暇。休暇は三日で我慢します」
「賭けか!」
がたん、と椅子の音をさせて綱手が立ち上がった。
「その勝負、乗った!」
「じゃー、いきますよ」
「ジャーン」
「ケーン」
「ポン!」
そうして、ジャンケン百回戦が行われた。
結果は綱手の惨敗。
百回とも全部負けだった。
ぱっぱっと手を払いながらカカシは、きっぱりと言った。
「壷の効力は全くないようですね」
「そんなはずは・・・」
綱手は苦い顔だ。
「あのですね、火影さま」
カカシは何となくイルカの仇を取った気分である。
「壷を買っても賭け事には勝てませんから」
びしっと宣言した。
「火影さまは賭け事では一生負ける運命なんです!」
「うう・・・」
がくっと綱手は崩れ落ちた。
「もう賭け事には手を出さないほうがいいですよ」
忠告も忘れない。
火影の部屋が綱手の発する空気で、どよーんとしていると扉を叩く音が聞こえた。
「火影さま、イルカです」
その声に反応したのはカカシで素早く扉を開ける。
「どうぞ、イルカ先生」
「あ、はい。あれ、カカシさん?」
カカシの登場に目を見開いている。
「どうして、ここに?」
そして綱手の様子を見て、さらに目を大きく開いた。
「ほ、火影さま!どうかなさったんですか?」
心配そうな顔して火影に駆け寄ろうとするイルカの肩をカカシは抱き寄せて止めた。
「綱手さまは心配無用です。反省と後悔の真っ最中なんです」
「反省と後悔?」
「そうです」
重々しく頷いたカカシはイルカが手に持っていた書類を取り上げて火影専用の机の上に置く。
「んじゃ、これから俺たち休暇に入りますんで」
がっくりと項垂れている綱手は虚ろな顔をしている。
「後のこと、よろしく〜」
ひらひらと手を振って、火影の部屋から出た。
扉を閉めると部屋の中から、どんがらがっしゃんと派手な破壊音が聞こえてくる。
「あの、カカシさん?何か音が聞こえましたが」
何が何だか解らないという顔のイルカにカカシは、にっこりと微笑んだ。
「気にしない気にしなーい。俺とイルカ先生は明日から三日間、お休みですよ」
「ええっ、でも仕事が・・・」
「いいのいいの、火影さまが何とかしてくれるから。これから三日間、一緒に過ごせますよ〜」
嬉しいですね、と言ってからカカシは肩を抱いていた腕をイルカの腰に回した。
「怪我した腰は、もう大丈夫ですか?」
「え、ええ、大丈夫ですけど・・・」
「でも油断は禁物。休暇の間、温泉にでも行きましょうか」
「えっ!温泉!」
温泉好きなイルカの弾んだ声がする。
いいとこ知っています、とカカシはイルカを誘う。
「腰痛や疲労に効く温泉で、ゆっくり養生しましょう」
二人きりでね。
カカシとイルカは目を合わせて嬉しそうに破顔したのであった。
両思い
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