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両思い



悲鳴とは通常、当事者本人が上げるものではなかろうか。
なのに今、目の前にいるカカシは盛大に悲鳴を上げていた。
当事者でもないのに。
「ぎゃあああああっ〜、イルカ先生っ!」
上忍らしならぬ声だ。
「わああああっ!そんなつもりじゃなかったんですっ!」
更に悲鳴らしき声を上げて喚いている。
「イルカ先生、大丈夫ですか?大丈夫?大丈夫?」
心配してイルカの体を揺すってくる。
「痛いですか?イルカ先生?」
「い、痛くない、ですけど」
イルカは腰に手を当てた。
「体を、揺すらないでくだ、さい」
言葉とは裏腹に腰が猛烈に痛い。
激痛が走っている。
一人じゃ立てないほどに。
痛くないと言いながら痛みに顔を顰めるイルカを見てカカシは眉尻を下げた。
「すみません、本当にごめんなさい」
「い、いえ、いいんです」
イルカは階段の一番上から一番下まで落ちて、したたか腰を打っていた。
頭を打たなかったのは不幸中の幸いだったが。
しかも階段から落ちるという、忍者としては少々、間が抜けたことになった原因はカカシにある。
簡単に説明すると大荷物を持ったイルカをカカシが驚かせたのだ。
イルカが階段を上がったところで廊下の陰から出てきて驚かすという、非常に古典的な驚かし方だった。
「わあっ!」なんて掛け声と共に。
驚いたイルカは階段の一番上でバランスを崩して、大荷物と一緒に階段の一番下まで真っ逆様に落下していった。
イルカが腰を打ち付けたのは荷物を庇ったせいでもある。
割れ物が入っていたらしい。
だからイルカが階段から落ちて最初に言ったのは「荷物は無事ですか?」という言葉だった。



「大丈夫みたいですよ」
イルカの持っていた荷物から割れたような音はしない。
「よ、良かった・・・」
ほっと一息吐いたイルカである。
「良くないですよ!」
カカシは動けないイルカのどこを触って、どう運ぶか考えて伸ばした手がうろうろしていた。
「イルカ先生が大変なことになっています!」
それはカカシさんが悪い、とはイルカは大人だったので口にしなかった。
「お、俺は大丈夫ですから」
イルカは大荷物を指差した。
「そ、れ、運んでくれますか?」
「いいですけど」
「火影様の部屋までお願い、します」
動こうとしたイルカが「つっ」と腰を庇う。
「ああっ!イルカ先生!」
「お、俺はいいですから」
腰の痛みがすごいのか、イルカの息が荒い。
「そ、それ、火影様のご用命なので」
「解りました」
イルカを残して行くのは忍びなかったが、渋々ながらカカシは立ち上がった。
「これ、火影様に渡したら、すぐに戻ってきますから」
荷物を持つと意外に重い。
「イルカ先生、ここにいてくださいね!」
「は、はい」
痛みに耐えているのか、イルカは目を閉じて頷いた。
「動いちゃ駄目ですよ」
念を押す。
カカシは荷物を火影に届けると、すぐに現場に戻ってきたのだがイルカの姿はどこにもなかった。



「あ、あれ?イルカ先生?」
きょろきょろと辺りを見回してもイルカの姿はない。
腰を打って痛くないと言いながら、とても痛そうにしていたのに。
しかも原因はカカシ。
「イ、イルカ先生!」
ここにはいない人の名を呼ぶ。
悲鳴に近かった。
「イルカせんせ〜いっ!」
カカシの声は遠くまで響き渡り木霊して大勢の人間が、その声を耳にした。
「イルカ先生!どこにいるんですかっ!迷子ですかっ!」
呼べども呼べども返事はない。
「俺のせいで腰を打って痛がっていたのに!俺のせいで階段から落ちたのに!」
自分が原因だとも宣伝している。
「動けないイルカ先生を誰が運んだんだ!俺が運ぼうと思っていたのに!」
自分の欲望も暴露してしまう。
「痛みに悶えるイルカ先生のじっくり看病をしたかったのに!」
余計なことまで言っていた。
「イルカ先生、どこですかーっ!
叫ぶカカシは大迷惑だった。



ほどなくしてイルカは無事にカカシに発見された。
腰を痛めているので無事にという表現はおかしいが。
「ああっ!イルカ先生、こんなところに!」
当然といっちゃ当然だかイルカは医務室に運び込まれていた。
医務室のベッドの上に体を横たえていた。
寝やすいようにベストを脱ぎ、額宛を外して。
「大丈夫ですか?」
ベッドに駆け寄るとイルカが痛みで瞑っていた目を薄っすらと開ける。
「カカシさん・・・」
「誰がここに運んだんですか?良かったですけど俺が運びたかった!」
ふう、とイルカが疲れたように息を吐いた。
「ベストは誰が脱がしたんですか?俺が脱がしたかった!」
はあ、とイルカが深く息を吐いた。
「額宛も取られていますね?滅多に取らないから俺が取ってみたかった!」
イルカは開けていた目を閉じてしまった。
「いい加減にしろ、こら」
ごち、とカカシの頭に拳骨が落ちた。
「げ!アスマ!なんで、こんなところに?」
「さっきからいたよ。俺がイルカを運んできたんだから」
「アスマが!」
ずるい、というカカシの頭に追加して拳骨を落とされる。
「偶然、通りかかったらイルカが腰を抑えて呻いていたから、とりあえず、ここに運んだんだ」
「そうだったのか」
「階段落ちしたみたいだが、イルカは原因言わねえしよう」
原因は俺だ、とカカシは心の中で思ったが口は閉じていた。
「まあ」とアスマはカカシを、じろりと見た。
「カカシがここに来るってことは大方、カカシが悪いんだろうがな」
アスマの予想は的中だ。
「聞いてみたがイルカは口を割らねえし。カカシが原因なら治るまで面倒見ろよ」
「それは大丈夫。俺が責任持ってイルカ先生の看病するから」
「やっぱ、カカシが原因なんじゃねえかよ」
ちゃんと病院に連れて行けよ、と言い残しアスマは行ってしまった。



「イルカ先生、大丈夫ですか?」
痛みのあまり額に汗を浮かべているイルカを覗き込み、カカシは汗を拭く。
「病院行きましょう」
「い、いいです」
イルカは首を振る。
「寝てれば、治りますから・・・」
「でも」
「嫌です」
頑なに病院に行くのを拒む。
「鎮痛剤飲んで、ちょっと寝てれば平気、です」
そう言うが冷や汗浮かべて、青い顔をしているイルカは傍から見ても、ちっとも平気そうに見えない。
「イルカ先生」
イルカの寝ているベッドに腰掛けてカカシがイルカの腰を試しに摩ってみると悲鳴を上げた。
「い、いたっ!や、やめてっ!触らないで!」
これはこれで、なんだか胸に、ずきゅんと来るが何しろイルカは怪我人だ。
しかもカカシが原因で腰を怪我した。
責任は総てカカシにある。
「腰は大事な部分ですから病院行って診てもらいましょう」
もし万が一のことがあったら大変だ。
決断したカカシは寝ているイルカの体の下に手を入れた。
抱き上げる。
「カ、カカシさん、ちょっ!あっ、痛いっ!」
イルカの瞳が、うるうるしている。
「す、すみませんけど」
潤んだ瞳で見つめられたら、怪我人とは頭では解っているけれど、ときめいてしかたがない。
それを一応、曲がりなりにも上忍なので理性で抑制した。
砕け散りそうな根性で。
「そ、そっと触ってもらえますか?できたら優しく・・・」
「了解しました!」
出来るだけ揺らさぬようにイルカを抱き上げて胸に収める。
イルカは痛くないように無意識にカカシに体を摺り寄せてきた。
くっ付いてきたのだ。
「じゃ、病院に行きましょうね」
優しく抱き上げて優しく囁くと、イルカは頷いた。
そうしてカカシはイルカを運んで、イルカに付き添い、病院に行った。
有り難いことにイルカの腰は打ち身で痛み止めを飲み、二、三日寝ていれば回復するということで。
カカシは一安心した。
「良かったですね、イルカ先生」
「はい」
イルカも安心したのか、ほっと一息吐いている。
「ご面倒をお掛けしました」
「いえいえ、俺が悪いんですから」
その後、カカシは宣言とおりイルカを自宅に連れ帰り、動けるようになるまで看病をした。
至れり尽くせりの。
怪我したイルカが恐縮するほどの。



ところで、とカカシは自宅で看病している最中に動けないイルカに聞いてみた。
「あのとき、どうして、あんなに驚いたの?」
ちょっと疑問に思っていた。
「そ、それは」
聞かれたイルカは口ごもる。
「急に俺が出て行って驚かしたのは悪かったと十二分に反省しましたけど」
イルカ先生の反応がすごかったなあって。
言うとイルカは恥ずかしそうにして視線を泳がせた。
「あ、あれは」
「あれは?」
「えっと」
「ねえねえ、どうして?」
動けないイルカに近づくとイルカが顔を、ほんのりと赤くした。
「その、カカシさんのことを考えていて」
「俺のこと?」
こくっとイルカは頷いた。
「カカシさん、任務でいなくて、いつ帰ってくるのかなって思っていたら」
「俺が出てきて、びっくりしたの?」
「そうです」
「どうして俺のこと考えていたの?」
カカシは突っ込んだ。
「どうしてって、だって」
「だって?」
ちょっと意地悪してみる。
「だって、なーに?」
イルカ先生、とにじり寄る。
顔と顔がくっ付きそうなほど。
「じゃあ、俺が言うね」
カカシは、にやにやしてしまう。
「俺が任務から早めに帰ってきたのはイルカ先生に会いたかったから。あんなところでイルカ先生と驚かしたのは悪かったけど、イルカ先生に早く会いたくて探していたんです」
「俺に?」
「そうだ〜よ」
イルカの顔を正面から見るとイルカが盛んに瞬きを繰り返す。
「どうしてだか解ります?」
もっと迫って、唇が今にも触れそうになった。
「それはイルカ先生が好きだから」
そのまま、唇で唇に触れる。
「イルカ先生も俺と同じ気持ちですよね、だから俺のことを考えていたんでしょ」
カカシに言われてイルカは「そうです」と、ついに認めた。
「俺もカカシさんが好きです」
「うん、俺もイルカ先生が好き」
もう一回、キスをする。
イルカが好きで、またキスをした。
そしたらイルカが可愛くて、またキスをする。
好きな人とのキスはカカシを幸せな気持ちにしてくれた。



そしてイルカが回復して職場に復帰すると。
既にカカシと好い仲になったと皆に知られていたのだった。


両思い 余談



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