非擬似恋愛的現実
そしてデート当日。
いや、デートの振りをする当日の日。
つまり9月15日。
イルカは木の葉の里の街角に立っていた、私服で。
里だったが街角である。
日頃、おしゃれとは無縁なイルカであるが今日は、それなりの格好をしてきていた。
新しく買った白いカッターシャツに、これまた新しく買ったチノパンもどきのズボンに川のベルト、ピカピカに磨かれた新しい靴を履き、緊張して立っていたのだ。
要は全身、新しく買い揃えた服に身を包んで。
見る人が見れば、一目で「あ、デートだな〜」と思える格好であった。
イルカは待ち合わせの場所に、待ち合わせの時間の三十分以上前に到着して、なにやらウロウロとしていた。
「あー、どうしよう・・・」
相当、緊張しているのか、何回も両の手の平を擦り合わせては腕時計を見ていた。
「アスマさんの手前、デートが楽しみって言ったものの」
イルカは額に手を当てて、はあと小さく息を吐いた。
「この前、デートしたのっていつだっけ?思い出せん・・・」
ドキドキする心臓を服の上から押さえる。
「デートって、どういう手順でするんだっけか。真っ赤なバラの花束でも持っていた方がいいのかな」
そわそわと落ち着かない。
「やっぱ、安易に引き受けなきゃよかったかも」
イルカが後悔し始めたときだった。
ぽん、と肩を後ろから叩かれた。
「わっ!」
イルカは非常に驚いた。
まるでお化け屋敷でお化けに遭遇したかのごとく。
そうっと後ろを振り向くと見知った顔があったので安心する。
「あ、カ、カカシ先生・・・じゃないですか」
「そ、俺です。こんにちは、イルカ先生」
にこ、と微笑まれてイルカも笑みを返した。
「こんにちは」
「今日は天気で良かったですね!」
「あ、はい」
「雨だったら、どうしようかと思いました」
「そうですね」
カカシとの取り留めのない会話にイルカは落ち着きを取り戻した。
目の前のカカシを、まじまじと見つめてしまう。
いつものカカシではなかった。
「あの〜、カカシ先生」
カカシの爪先から頭の天辺まで見ながらイルカは言った。
「今日は、すごく格好いいですねえ」
「あ、そうですか」
照れたようにカカシは頭を、がしがしと掻く。
「ほんとに?」
「ええ、本当です」
カカシは珍しく忍者の服ではなく私服で、しかも顔の覆面はしておらず、素顔が見放題になっている。
イルカもカカシの素顔は初めて見る。
初めて見たのに、なぜカカシと分かったかというと声だった。
聞き覚えのある声だったからカカシと判ったのだ。
「忍服もお似合いですけど、私服姿も一味も二味も違って男前が上がっていますよ」
「いやあ〜」
「本当です、カカシ先生のこの姿を見たら、みんな虜になること間違いなしです」
「そんなあ〜」
「俺は嘘はいいません。今日の服装は、まるでデートの行くような感じの服ですねえ」
「そうなんですよ〜」
イルカにべた褒めされてカカシは照れ照れだ。
「俺、これからデートで〜」
「あ、そうなんですか・・・」
イルカは、偶然ですね俺もです、と続けようとしたのだが突如、カカシに手を取られる。
「そう、イルカ先生とデートなんです!」
格好いい男前の笑顔がイルカの目前に迫っていた。
「・・・・・・・・・え、俺と?」
イルカは目を、ぱちくりさせる。
ついでに一歩、後ずさりした。
「あの、でも、今日のデートの相手は・・・」
女性では、と言おうとしたがカカシにタイミングよく遮られてしまった。
「俺なんですよ〜」
「し、しかし、アスマさんに頼まれて俺は・・・」
「アスマに頼んだのは俺なんです。アスマは別にデートの相手が女性だとは一言も言っていなかったでしょ」
「そ、れはまあ」
確かにアスマは一言も、デートの相手が女性だとは言っていなかった。
言ってはいなかったが普通、デートは異性同士がするものという認識だ。
男性と女性がデートする、というのがイルカの中での常識である。
「まー、それはねー」
イルカの手を離さずにカカシは巧みに話術を展開した。
「アレですよ、アレ」
「あれ?」
「ほら、デートの振りってアスマは言っていたはずですよ」
「ええ」
そんなことを言っていた、ような気がする。
そんでもって一日限定、とか。
「デートの練習なんですから異性より同性の方が、ましてや知っている人の方がうまくいくでしょう?練習なんですから」
・・・言われてしまうと、なんとなく、そんな気がしてしまうのはどうしてだろう。
「練習なんだから、いきなり本番まがいで相手が女性では成功に結びつきません」
・・・・・・そんなものだろうか?
「失敗は成功の元、とか何とか言いますけど、やはり最初から失敗したら、やる気がなくなると思いませんか」
アカデミーでもそうでしょう?とカカシはイルカの弱いところを攻めてくる。
「成功して褒めて、やる気を出させる。基本ですよね」
すっかりイルカはカカシに丸め込まれてしまっていた。
言われてみるとカカシの言っていることは間違っていない。
褒めるのは教育の基本だ。
だが、イルカはすっかり忘れていた。
今は教育の場ではなく、デートだ。
しかもカカシは、イルカとデートする、とはっきり言っていたのに。
それも忘れているらしい。
うやむやにするのもカカシの作戦のうちだったのかもしれない。
「ということで」
カカシはイルカの手を握りなおした。
俗に言う、恋人繋ぎの指と指を絡ませる繋ぎ方だ。
「では!デートに行きましょう、イルカ先生」
おお張り切りだった。
「はい、カカシ先生」
「あ、イルカ先生、今日の服装、とってもお似合いですね!素敵ですよ」
「ありがとうございます」
褒められてイルカは嬉しそうな顔になる。
「シャツもズボンも靴もベルトも、俺は一度も見たことがないですけど、もしかして新調したんですか?」
「はい、実は」
「そうですか!」
感激したのか、カカシはぎゅっと繋いでいる手に力を入れる。
「イルカ先生が俺とのデートを、そんなに楽しみにしてくれていたなんて!」
にこにことカカシも嬉しそうな顔になった。
「俺も気合を入れて、デートのプランを練ってきた甲斐があるってもんです」
それから手を繋ぎ、指を絡ませて歩くカカシとイルカ、二人の姿が里のそこかしこで見かけられた。
目撃者多数である。
その中にアスマも含まれていた。
妙に幸せそうな二人を見て、渋い顔になっていた。
「カカシのやつめ、最高の誕生日になっただろうな」
カカシは、きっとイルカに「誕生日、おめでとう」の言葉を貰うに違いない。
最後には結局、アスマは苦笑して若い恋人たちの行く末を見守っていたのだった。
非擬似恋愛的妄想
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