fever safe! 1
「ふはははははー」
カカシは盛大に笑っていた。
まるで世界征服でも成功したような笑い方だった。
「あーはっはっはっはー」
腹を抱えて笑っている。
そんなカカシを周りの暗部は薄気味悪そうに、ただ見ていた。
見ているだけ。
余計なことを言うと厄介ごとに巻き込まれそうだから。
触らぬ神に祟りなし。
そんな諺が思い浮かぶ。
「あははははー、ざまーみろってんだ!」
カカシは悪い顔になって笑う。
誰かに痛い目を見せたのかもしれない。
「・・・あのな、カカシ」
勇気を味方に暗部の一人がカカシに話しかけた。
ちなみに今は任務前の打ち合わせの前だ。
カカシは暗部に所属している。
「そんなに笑って何かいいことあったのか?」
「うん、あった!」
満面の笑みのカカシ。
「いいことあったんだよねえ」
いいこと・・・。
嫌な予感しかしない。
「この前さ、イルカが怪我したの覚えている?」
「怪我?ああ、背中の・・・」
幸いにもというか運が悪いというか、カカシに話しかけたのは以前、任務中に怪我したイルカを連れて、カカシと病院まで同行した暗部だった。
イルカは現在、中忍で暗部ではない。
ひょんなことからカカシと知り合って、仲が深まって今に至る。
カカシは恋人と称していた。
「それがどうかしたのか?イルカの怪我は治ったんだろ?」
「うん、完治して背中は綺麗だよ」
すっごく綺麗!つるつるで艶々!というカカシ。
なんで、そんなことを知っているのかという疑問は、華麗にスルーする。
自動的に聞こえないことにした。
「・・・で?それがいいことなのか?」
「ううん、違うよ」
カカシは首を振った。
「怪我を負わせたヤツラいたでしょ?」
「ああ」
イルカに怪我を負わせた賊は全員引っ捕らえて、専門の部署に渡してある。
「そいつらにさ」
カカシは楽しげに話す。
「偶然、会う機会があってさ」
偶然に会う機会なんてない、有り得ない。
希望でもして、裏から手を回さない限りは。
「イルカの顔を殴った仕返しと背中の怪我の仕返しと諸々合わせて」
にやり、としたカカシの顔は冷酷だった。
「倍返ししてきちゃった」
「倍返し・・・」
「そ、軽くーね」
カカシはイルカの敵討ちとも言うべき仕返しができて笑っていたのだ。
大事なイルカに怪我を負わせた相手に。
仕返し出来たことに満足して。
倍返しが如何ほどのものか、きっと倍ではなかったに違いない。
想像するだに恐ろしい・・・。
聞かなきゃよかった、と暗部はちょっと後悔した。
任務前の打ち合わせが終わってカカシは里中を歩いていた。
もちろん、服装は普通の忍の服で。
黒いアンダーシャツにベストという服装だ。
カカシは暗部の所属ではあるがイルカと知り合って、何やかやでイルカの家に勝手に住み着いている状態になっている。
イルカに家に帰るカカシは必然的に里中を歩くことになり、お店で買い物もする。
ゆえにカカシの姿は多くの人間に目撃されることになり。
目立つカカシの姿は人目を引き、片目を隠して覆面をしていて怪しげな風貌でも、年頃の娘さんなんかは惹きつけられたりするわけで。
告白なんてされちゃうこともあった。
簡単にいうと実はカカシは、もてていたのである。
「ただいま〜」
カカシがイルカの家の玄関を開けるとイルカが既に帰っていた。
「あ、お帰りなさい〜」
ぱたぱたと玄関まで来てカカシを出迎えてくれる。
カカシは自分が買った白いフリフリのエプロンをしているイルカをみて、にんまりとした。
「ふふふ〜、イルカ、そのエプロン似合うねえ」
若いのに、おじさんみたいだ。
「すっごく似合うよ、エプロン」
目つきに不純なものが含まれているような気がする。
しかし、イルカは気がつかない。
「今日は早かったんだね」
イルカのエプロン姿をじろじろと遠慮なく見ながらカカシはベストを脱いだ。
家では寛ぐ派だ。
「ええ、意外に早く終わって」
てれっとイルカは、はにかんだ。
「早く終わったときくらい飯でも作ろうかと思って」
いつもカカシさんに作ってもらっているから、と。
最初、会ったときはイルカは料理を全くしなかった。
お手軽、簡単なものばかり食べて。
これじゃいかんと思ったカカシは、イルカに美味しいものを食べてほしいと思い、料理をしてイルカに作っていた。
イルカの家に住んでいるので、そのお礼も兼ねて。
一宿一飯の恩義ってやつだ。
しかし・・・。
「イルカ」
カカシは料理をしようとするイルカに声を掛けた。
「気持ちは嬉しいんだけど」
イルカがカカシの為に料理を作ってくれることは嬉しいが。
イルカの料理経験は、とても浅い。
「包丁、大丈夫?」
「大丈夫ですよ〜」
まな板の上の食材が、とんとんと軽快な音を立てて切られていく。
「危なくなったら止めてね」
俺が代わるから、とカカシは心配そうにしている。
「平気です、そんなに凝ったもの作りませんから」
初心者なんで、と言うイルカはいったい何を作るつもりなのだろう。
一抹の不安が残ったがイルカに任せてみよう。
イルカを信じて・・・。
何が出来上がっても全部、食べる覚悟で。
カカシはまな板に向かうイルカの背を見ながら、冷蔵庫から冷やしてあった麦茶を取り出してコップに注いで飲む。
麦茶はカカシが作ったものだ。
「そういえばさあ」
世間話のつもりでカカシは何の気なしにイルカに話した。
「この前、女の子に告白されちゃったんだよねえ」
ごくごくと麦茶を飲むカカシ。
おいし〜とか言っている。
「里に居つくようになってから、俺って何故か女の子の目に留まるようなんだよね」
何でかなあ〜と、のんびり話している。
「この前の女の子、結構、可愛かったな〜」
その後に、カカシは続けて言おうとした。
イルカの方が断然可愛いけどね、イルカの可愛さには負けるけどね、告白されても即効、断ったけどね。
けれども、それは言えなかった。
ざくっ。
そんなような音がしたから。
食材を切っていたイルカから。
途端に漂う血の匂い。
何を切ったかなんて明らかで。
「イルカ!」
駆け寄ろうとしたカカシであったが、背を向けたままのイルカから声が聞こえた。
「告白されてよかったですねえ、その子と付き合うんですか」
発する声からは何の感情も伺えない。
背中がカカシを拒否している。
「付き合うわけないでしょ、イルカがいるのに」
「だって告白されたんでしょう?俺は関係ないですよ」
「関係ないって・・・」
頭にきたカカシはイルカの肩を掴むと自分の方に体を反転させた。
「あ・・・」
イルカは視線を逸らすことなく、真っ直ぐにカカシを見ている。
怒ってもいない、悲しんでもいない。
表情がなかった。
無表情、真の無表情という顔になっていた。
「俺とイルカは恋人同士でしょ」
「・・・さあ」
冷たい返事だ。
「それとも恋人だと思っていたのは俺だけ?」
「・・・そうかもしれないですね」
その言葉に思わず、むっとしてしまう。
「あ、そ」
大人気ないと心の隅で思いつつもカカシは脱いで、放り投げていたベストを乱暴に手に取った。
「今日は帰る」
玄関で振り返るとイルカの指先から、ぽたぽたと血が流れ落ち、床を真っ赤に染めている。
結構、深く切ったのかもしれない。
手当てがしたかった。
イルカが怪我しているのは嫌だったのに。
「帰るんですよね、はたけ上忍」
わざと、いつものように「カカシさん」と呼ばず、他人行儀にするイルカに腹が立って。
「言われなくても帰りますよ」
感情の赴くままにイルカの家から出てきてしまった。
そして気づく。
「イルカの料理・・・」
作りかけだった。
カカシのために作ってくれていたのに。
「痛そうだったな・・・」
血が出た指先。
「あー、もうっ!」
頭を、がしゃがしゃと掻き毟ったカカシは踵を返して一目散にイルカの家に引き返した。
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