fever next!5
「えー」
カカシが不満の声を上げるとイルカは、じろっと睨んでくる。
「何か?」
「寝床を提供してもらっているんだから、食事くらい作らせなさいよ」
「嫌です」
「何でよ」
「あのですねえ」
食べ終わったイルカは箸を置く。
びしっとカカシを指差す。
「もしも、もしもですよ?」
「うん」
「カカシさんの食事が美味しくて、病み付きになったら大変じゃないですか」
イルカの言っていることが、いまいち分からない。
「飯が美味しかったら言うことないでしょ」
「だからですよ」
さっぱり言いたいことが分からん、とカカシはイルカを見つめる。
「飯が美味しくて忘れられなくなった途端に食べられなくなったら困るってことです」
「・・・それって、俺がここに来なくなるかもってこと?」
「そうです」
イルカは重々しく頷いた。
「美味い飯食べ慣れてカカシさんに馴れて、ある日、突然、それがなくなったら絶望します」
「そんなもん?」
「そんなもんです、玉子ご飯に戻れなくなる俺が可哀想です」
「自分で可哀想って言っちゃう?」
カカシの突っ込みにイルカは「う・・・」と言葉を詰まらせる。
「・・・他の誰も言わないんだから、自分で言ってもいいじゃないですか」
果敢に反論してきて、ぷいっと横を向いてしまう。
「うーん」
食べ終わったカカシも茶碗と箸を置き、イルカを観察する。
・・・なんていうか。
イルカの言葉の裏には何かあるような気がする。
話の内容は食事のことだが、要は自分がが来なくなったらヤダってことじゃないのか、とカカシは考えた。
・・・だってねえ。
横を向いたままのイルカは唇噛んで、怒っているように見えるが。
拗ねているようにも見える。
いつも来ていた人が来なくなったら、寂しいとイルカは思っているのだ。
「まあ、そうだねえ」
カカシが言葉を発するとイルカの視線だけで、カカシを見る。
「美味い飯を作った俺が、ある日、突然来なくなったら困るよね」
煽ってみるとイルカの肩が、ぴくりと動く。
「困るんだったら、最初から俺を自分の家に招き入れなかったらよかったのに」
ちょっと意地悪してみた。
「それは・・・」
イルカはカカシに言われた事柄が図星だったのか、俯いてしまう。
「そうですけど」
「自分から弱みを見せてどうすんの」
更に追求してみる。
イルカが、どんな反応するか、ちょっとカカシはわくわくする。
泣いちゃうかなあとか、怒っちゃうかなあ、それともそれとも、とか。
好きな人に意地悪するなんて、趣味が悪いと自分でも解っている。
「寂しいなら寂しいって言えばいいのに」
つい、言ってしまった。
だって、イルカの顔に書いてあったから。
いつも来るようになったカカシが来なくなったら寂しいと。
人との別れがイルカには寂しくて辛いのだろう。
「・・・さ、寂しくなんてないです」
がたっと音を立てて、イルカは立ち上がった。
「ぜんっぜん、寂しくなんてないですから!」
俯いたまま、顔は上げない。
「寂しくなんてないもん!」
「あっ、イルカ!ちょっと!」
だっと玄関まで行ってしまったイルカは額宛とベストを手にしていた。
瞬時に下足を履いてカカシに言い捨てた。
「任務に行って来ますから!勝手に帰ってもいいし、俺が帰ってくる夕方まで好きなだけ寝ていてもいいですから!」
ばんっと玄関の扉を開け放つと外に飛び出して行く。
「行って来ます」も忘れずに。
「はーい、行ってらっしゃい〜」
カカシは手を振る。
それから、両手を上に上げると伸びをした。
しなやかに伸びをする様は猫に似ている。
大きな欠伸をしたカカシは朝食の食器を洗って片付けるとイルカのベッドに潜り込んだ。
暗部の次の任務は確か、今夜が出発だ。
それまで寝ていよう、居心地のいい寝床で。
くふふふ、と笑ったカカシは目を閉じた。
「あ、お帰りなさーい」
イルカが夕方、そーっと玄関の扉を開けてきたのでカカシは声を掛けた。
玄関の扉を細く開けて覗いている、自分の家なのに。
「早く入っておいでよ」
ひらひらと手を振ると、気まずそうな顔をしたイルカが扉を開けて入ってきた。
朝のことを引きずっているようだ。
「・・・ただいま」
「お帰り〜」
ちら、とカカシを見たイルカは眉根を寄せた。
「その格好は何です?」
「何ってエプロンしているだけでしょ」
「・・・なぜ、ふりふりの白いエプロン?」
「俺の趣味だ〜よ」
「そうですか」
なにやら、どっと疲れたようなイルカは、がくっと肩を落とした。
「ほらほら、外から帰ってきたら手洗いと嗽でしょ。ご飯、作って待っていたんだからね〜」
「え・・・」
「ご飯の材料買ってくるついでに、エプロンも買ってきたんだ〜よ」
ぴら、とカカシはエプロンの裾を摘み上げた。
「これ、イルカの家に常備しておくからイルカもご飯作るときに使いなね」
「あー、はい」
素直にイルカは洗面所に向かった。
その後姿を見送ってカカシは、ふっと微笑む。
朝、あれから二度寝したのだが、途中、目が覚めて夕方前だったので、夕飯でも作ってイルカを待っていることにしたのである。
エプロンは、ついでじゃくて計画的に購入した。
「さ、ご飯、食べよう〜」
準備が完了したところで、タイミングよく洗面所から戻ってきたイルカとカカシは夕飯を食べ始めた。
「ご馳走様でした」
手を合わせたイルカの皿には何も残っていない。
テーブルの上の皿は空っぽで、全部食べられていた。
「美味しかった?」
カカシが聞くとイルカは、こくっと頷いた。
「よかった、野菜もこうして食べると美味しいでしょ」
「はい」
小さな声が聞こえた。
「また、作るからねえ」
機嫌のいいカカシが言うとイルカが上目遣いでカカシを見上げてきた。
「本当に、また作ってくれるんですか?」
「うん」
「そうですか」
カカシの返答にイルカは満足したようで、嬉しそうな顔をした。
「野菜は嫌いじゃないんですけど、皮を剥いたり切ったりするのが面倒で・・・」
「まー、確かに」
イルカの言い分を聞いて、カカシも何となく共感できる。
「一人だとご飯の用意面倒だもんね」
「そうですよね」
やっと顔を上げたイルカと目が会うと、笑ってくれた。
朝の蟠りが解けたようだった。
夜。
カカシが任務に出発するとき、イルカは見送ってくれた。
「気をつけて行ってきてくださいね」
「はーい」
初めて会ったときのようにイルカが面をつけてくれた。
「キスはしてくれないの?」
カカシが、からかうと「しません」とイルカはつれない。
「あ、そ」
つれないイルカにはカカシの方からキスしてみた。
「ホッペにチュー」
イルカの頬に唇を寄せる。
「わっ、何をするんですか!」
頬を押さえたイルカが赤くなった。
「愛情表現でーす」
「ったく、もう」
赤くなったイルカが怒っても怖くない、かわいいだけだ。
「かーわいい」
「かわいくないです」
イルカはカカシの顔に面を被せた。
「ありがと」
さっと窓から飛び出した。
外は暗闇。
「行って来るね」
見送ってくれるイルカが遠ざかる。
誰かに見送ってもらうなんて、久方ぶりだ。
帰る場所もできた。
任務に行くのに心が軽い。
面の下でカカシは笑みを浮かべた、幸せそうに。
だけども。
同じ任務に行く暗部の仲間と合流して指摘された。
「・・・面がデコってあるぞ」
「は?」
「・・・かわいくなっている」
何を言っているのか、と面を外して見てみると。
怖いはずの狐の面に、黒マジックで長い睫が描かれていて。
妙にかわいくなっていた。
誰がやったのかは一目瞭然。
イルカだ。
朝、ちょっと意地悪したので意趣返しかもしれない。
「ま、いっか」
ちゃんと自分の名前を呼んでくれるし。
これはイルカからの愛情表現だ、多分。
恋人のかわいい悪戯だ。
そういうことにしておいた。
終わり
fever next!4
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