fever next!
暗部の仲間と共に森の中を失踪していたカカシは、ふと足を止めた。
装着していた狐の面を上げ、顔を森の中の空気に晒す。
くん、と匂いを嗅ぐ。
「おい、どうした?」
突然のカカシの行動に暗部の仲間は眉を潜める。
「こんなところで道草を食っている暇はないぞ」
任務帰りで早く帰還しなければならない。
「うーん、分かっているんだけどさ」
カカシは辺りを探るように見て、腕組みをする。
「なーんかさ、イルカの匂いがするんだよねえ」
「イルカ?」
「誰だ、それ」
暗部の仲間の何人かは訝しげに聞き返した。
事情を知っている仲間の何人かが説明する。
「中忍で男」
「目下、カカシの片思い中の相手」
「でも、自称恋人」
端的だったが、それで充分だったようで説明された暗部の仲間は「ああ・・・」と脱力していた。
顔に聞かなきゃよかった、と面の下の顔に書いてある。
「ここにイルカがいるはずないだろう」
年長の仲間の一人がカカシを諌めた。
「だいたい、イルカは中忍で里を拠点に活動しているはずだ。里から、こんな離れた場所にいるはずがない」
言われてみれば尤もなのだが、カカシは納得しない。
「確かに、ここは里から大分離れているけど、だからってイルカがここにはいない理由にならないでしょ」
口は達者だ。
「イルカだって遠方の任務を受けているかもしれないし」
それにさ、とカカシはある場所を指差した。
「ここに仕掛けておいた虎挟みがない」
虎挟みとは鋼鉄で出来ており獲物を捕らえる猟具の一種だ。
「ほら、この前、この近くで陣営を組んだときにトラップ係になって、虎挟みを仕掛けたんだけど回収するの忘れていたんだよねえ」
暢気なカカシだ。
「あのなあ」
先ほどの年長の暗部がカカシを叱った。
「そういうものは、ちゃんと回収しないとダメだろう。誰かが掛かったらどうするんだ」
そこまで言って、年長の暗部は嫌な予感がする。
「もしかして、その虎挟みに掛かったのがイルカだっていうのか?」
「さっきから、そう言っているじゃない」
そんなことは一言も言っていない。
「とにかく、イルカが近くにいるのは間違いない」
カカシは断言した。
くんくん、とカカシは匂いを嗅ぎ分ける。
暗部は五感が特に優れて、鋭敏になっている。
そういう風に訓練を受けているからだ。
「微かだけどイルカの匂いがする」
カカシは微かなイルカの匂いを辿って、慎重に歩いていく。
「・・・匂い消しの術が使われているな」
それに、とカカシは分析する。
「復元の術も使われている」
右目の写輪眼で足元を見る。
「なぎ倒された草が元に戻っているし」
足跡を消して追跡を逃れる術だ。
「ふーむ、なるほどねえ」
独り言を言いながらカカシは歩を進めた。
暗部の仲間は、とばっちりを受けては敵わないので黙ってカカシの行動を見ている。
気配は消して。
「ここかな?」
カカシは大きい木の根元で足を止めた。
「一番、イルカの匂いが強い」
そして写輪眼で観察する。
じーっと見ていると、徐々に空間が歪んできた。
「幻術?」
身を隠す幻術が掛けられているようだった。
それも、かなり高度な。
「どうしよっかな」
多分、ここに何かがある。
おそらく、カカシの予測通りの。
それはイルカだ。
何らかの事情でイルカは、ここに身を隠している。
予測から確信に変わったカカシは手にチャクラを集中させた。
チャクラは、バチバチと火花が飛び散らせた球体になる。
「だーっ!」
その球体をカカシは歪んだ空間に思い切りぶつけた。
「ちっ、見つかったか・・・」
歪んだ空間にいたのは括った黒髪に強気な黒い瞳を持った忍者だった。
まさしく、それはイルカで。
イルカは手に武器を構えて戦闘態勢を取っていた。
ただし、それは木の幹に体を寄り掛からせて、足を引き摺って。
引き摺っている足は何かに挟まれて出血している。
怪我を負っていた。
カカシが回収し忘れた虎挟みで。
「イルカ!」
両手を広げたカカシがイルカの構えた武器を物ともせずに抱き上げた。
腰を持って「よっこらしょ」と肩に抱え上げる。
「こんなところで、どうしたの?」
「え?は?なに?」
感動の再開とは程遠い。
「怪我までして、そんなに俺に会いたかったの?」
「ちょ、誰だっけ?」
「んもー」
担いだイルカを柔らかい草の上に慎重に下ろしたカカシは頬を膨らませた。
「ちょっと会わない間に恋人の顔も忘れちゃったの?」
「いやいや」
イルカは顔の前で手を振る。
「恋人になんてなってないから。勝手に話を進めないでもらえます?」
「つれないなあ」
言いながらカカシはイルカの足を挟んでいる鋼鉄製の固い虎挟みを両手で、ぎぎぎと開いていく。
その前にイルカの足の止血がされているか、ちゃんと確認している。
なんなく、虎挟みは口を開きイルカの足を開放した。
「・・・とっても固くて、俺じゃ開かなかったのに」
イルカは悔しそうだ。
開いた虎挟みをカカシは放り投げる。
「こらこらこら、投げるな」と年長の暗部が投げた虎挟みを拾っていた。
「どれどれ」
カカシはイルカの怪我の具合を診るためにしゃがみこんだ。
「あちゃー、ひどくやられているねえ」
痛そうと、つんとイルカの怪我を突付く。
「いったいっての!」
叫んだイルカは身を捩る。
「だいたい、あんなところにあんなものがあるのが悪いんだ!仕掛けたやつに文句言ってやる!」
ひどく怒っていた。
「・・・あー、そう」
言葉少なにカカシはイルカの足の怪我を処置していく。
応急手当だ。
「取ろうとしても取れないし、足は痛いし、里は遠いし、一人だし」
「はいはい、怖かったね」
処置の間にカカシはイルカの頭を撫でる。
もちろん、暗部の装備は外していた。
「一人で、よく頑張ったねえ」
「子ども扱いしないでください」
むっとしたイルカがカカシを睨む。
「ごめんごめん」
素直に謝るカカシ。
ここは「子どもじゃないならキスするね」等の返しがくるところなのに。
不審を抱いたのか、イルカが指摘した。
「妙に素直ですね、屁理屈言わないし」
この前は何やかやイルカの発言の揚げ足を取っていたから。
「どうしたんです?」
首を傾げたイルカにカカシは黙る。
イルカの掛かった虎挟みはカカシが回収し忘れたものだ。
カカシから目を離し、イルカは気配を消して佇んでいた他の暗部を見る。
さっと視線を逸らされた。
カカシとイルカに巻き込まれたくないとの意思表示だ。
何かある、とイルカは踏んだのかカカシを追求する。
「何、黙っているんですか?この前、会ったときはペラペラ喋っていたのに」
「寡黙な男なの、俺は」
「黙々と手当てされると怖いんですけど」
「これが俺の真の姿です」
「・・・・・・怪しい」
「怪しいのは暗部だから」
何だかんだと言っている間に怪我の処置は終了した。
「さ、これでよし!」
「どうもありがとうございます」
カカシを怪しみながらもイルカは礼は欠かさない。
「お陰で助かりました。怪我をして動けず、敵に遭遇したらどうしようかと思っていましたので」
「いえいえ、イルカの術は上手に掛けられていたので生半可な忍じゃ見破れなかったよ」
本当のことだったので、カカシはイルカを褒めた。
「血の匂いもしなかったし、姿消しも完璧だったし」
「じゃあ、何で俺がいると分かったんですか?」
にこやかに穏やかにイルカは質問した。
イルカの笑顔に油断するカカシ。
だが、それは罠だった。
「あー、それはね、イルカの匂いと俺が回収し忘れた虎挟みを思い出して・・」
「へー、そうなんだー」
「あ・・・・・・」
しーんと場が静まり返った。
元々、静かではあったが、それに輪が掛かって静寂中の静寂が訪れる。
目が笑っていないイルカと、目が泳いでいるカカシ。
中々、御目に掛かれるものではない。
珍しい光景だった。
「あー、その、なんだ」
静寂を破ったのは年長の暗部だった。
カカシの放り投げた虎挟みを拾った暗部だ。
これから何が起こるのか、自分たちへの余波を考えて早めに行動に移ったのだろう。
「俺たちは先に行くから。後から、ゆっくり来い」
それだけ言うと姿を一瞬で消す。
他の暗部たちも続いた。
残るはカカシと怪我して動けないイルカ。
「使った物は元に戻すのは基本中の基本でしょうが。それに里の備品は大切に扱わなきゃ駄目です!」
イルカの怒っているポイントは、ややズレていた。
「はい、ごめんなさい」
叱られてしまったカカシは大人しく謝る。
自分の所為でイルカが怪我してしまったのは事実だ。
「全く、もう」
肩を竦めたイルカは苦笑した。
「意外に素直で可愛いところがあるんですね」
面白そうにしている。
「もう、いいですよ」
「ほんと?」
そろそろとカカシが顔を上げるとイルカが微笑んでいた。
「本当です。だけど、責任取って、里に近いところまで連れて行って・・・」
「責任?取る取る取る!」
途端、元気になったカカシはイルカが皆まで言うまで待たずにイルカを掬うように腕に抱え上げる。
ひょいと、軽々。
「責任なら、いっくらでも取っちゃうから、俺!任せて!」
どうやらカカシの耳には『責任取って』という言葉だけが耳に残ったらしい。
「結婚でもする?あ、同性は無理なのかー。じゃ、永遠の愛を誓って一生、イルカのお世話をするよ!」
「ちっがーう!」
カカシの腕の中でイルカは、バタバタと暴れていたが。
決してカカシは落とすようなことはしなかった。
fever next!2
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