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fever happy!【後編】



カカシが連れて行った店の前でイルカは引いていた。
「ここ、ですか?」
「うん、美味しいんだ〜よ」
事も無げにカカシは頷く。
「抜かりなく、予約もしてあるから入ろう」
店の前で固まっているイルカの手を引いた。
「でも、ここって・・・」
イルカは何故か動こうとしない。
「めっちゃ高い店なんじゃあ」
店構えは立派で豪奢で、イルカが来たこともないような店。
どう考えても高いに違いない。
イルカの感覚では高級料亭とかいう店だ。
「そんなの気にしなくていいよ」
今日はイルカの誕生日でしょ、と。
「値段のことなんか気にしないでいいから」
「そうは言っても」
「大丈夫、俺が責任持つから」
渋るイルカを強引にカカシは店の中に引き込んだ。



「ご馳走さまでした、美味しかったです」
店を出るとイルカはカカシに深々と頭を下げた。
「こんなお店で食べるなんて、この先きっとないです」
いい経験させてもらいました、と殊勝に言う。
「そんなこと言わないで、また来ようよ。俺と」
どこか浮かない顔のイルカにカカシが笑って言うと、イルカは黙って微笑を浮かべた。
「では、俺はこれから任務に行って来ます」
「うん、気をつけて」
カカシも召集に行かなければならない、暗部の。
「じゃ、俺も行くから」
「はい」
頷いたイルカは、もう一度、頭を下げると行ってしまった。
それを見送るカカシは頭を、がりがりと掻く。
「うーん」
イルカの後ろ姿が、どんどん小さくなっていく。
「誕生日に美味しいご飯・・・」
間違えたかな・・・。
腕を組んで考える。
確かにご飯は美味しかったのだが、食べたイルカは嬉しそうにしながらも浮かない顔で。
始終、静かに食べていた。
借りてきた猫みたいに。
家で食事をする時は何かしら会話があるのに。
まるで緊張でもしているみたいに。
「どうしてだろ?」
考えてみたのだが、答えは導き出されなかった。



「は?キャンセル?延期?」
カカシが暗部の召集場所へ行くと他の皆は既に集合していた。
そこで、暗部の任務がなくなったことを聞かされる。
「いつ、決ったの?」
「さっき」
隣にいた暗部がつまらなそうに答える。
「さっきって、ドタキャンじゃないの」
「そんなこと言ってもなあ」
別の暗部がぼやく。
「依頼主がキャンセルって言ったら、それに従うしかないだろ。相手の都合が最優先」
「そうだけどさー」
カカシは不満げだ。
「まあ、いいじゃないか。休みが増えたと思えば」
「そうそう、また急に召集が掛かるかもしれないしな」
気楽に構えている。
「まー、いいけど」
カカシもイルカといる時間が増えるのだから、まあ、いいかと思い直した。
そして、答えの出なかった問題を思い出す。
「ねえねえ」
成り行きのままにカカシは隣の暗部に話しかけた。
「美味しいご飯って何だと思う?」
「・・・唐突になんだよ」
「いや、ね」
カカシは簡単に事と次第を話す。
「今日はイルカの誕生日で美味しいご飯が食べたいって言うからさ、お店に連れて行って一緒に昼ご飯を食べたんだよね」
「ふーん」
「お店っていっても、そんじゃそこらの店じゃなくて格式高く歴史と伝統を重んじる、いい値段するけど味には絶対に自信を持っているところ」
「へええ」
「お店ではお願いして誕生日のケーキも出してもらったし」
なのに、とカカシは眉根を寄せる。
「イルカも美味しいって言っていたのに、ちょっと違うみたいなんだよねえ」
「それは、あれか?」
聞いていた暗部は悔しそうな声を出した。
「デートの報告か?惚気か?自慢か?恋人がいない俺への当て付けか?」
話が変な方向に向いてしまう。
「へ?そんなこと一言も言ってないけど」
「そうとしか聞こえない」
不穏な空気が流れそうになっていると「ちょっと待て」と別の暗部が割り込んできた。
イルカのことも知っている年長の暗部だ。
「恋人がいるとかいないとか、モテるとかモテないとかは置いといて」
何気に、ぐさっと胸に突き刺さるようなことを言っている。
「今日はイルカの誕生日なのか?」と聞いてきた。
「うん、そう」
「それで、イルカが美味しいご飯を食べたいと、おねだりされて店に連れて行ったと」
「そうだ〜よ」
「でも、それはイルカの求める美味しいご飯ではなかった。そういうことか?」
「多分ってか、そうかも」
「なるほどな」
「ふむふむふむ」
「恋人の微妙な心理を読むのは難しいものだな」
「恋人がいるってのも大変だな」
「恋人がいない俺たちは、そういう気苦労とは無縁だな」
「俺たちとか言うな」
他の暗部たちも、いつの間にか混じってきている。
任務がなくなって暇なのかもしれない。



「でもさー」
カカシの話は続く。
「何が違うのかなー。イルカの言っていた美味しいご飯て何なんだ?」
さっぱりカカシは解らない。
「そりゃ、あれだろ」
誰かが言った。
「値段が高いばっかりが美味い飯とは限らないだろ」
「豪華であればいいってもんでないしな」
「高いから美味いってのは間違いだ」
「確かに口に合わないのもあるからな」
「それに場違いの場所へ連れて行かれて、イルカはストレスを感じて飯を味わえなかったとか」
「いつも、リラックスして家で食べる飯の方が美味いんじゃないか」
「誰かが自分のために作ってくれる飯って最高だよな」
最期に暗部の誰かが言った言葉で、ようやくカカシは納得がいった。
「そっか」
ぽんと手を打つ。
「イルカが、いまいち嬉しそうにしていなかった、なんか理由が解ったよ、うん」
「本当か?」
年長の暗部が疑わしげにカカシを見る。
「えっと大体・・・」
「大体じゃダメだろ」
更に駄目出しをされた。
「それにイルカに誕生日のプレゼントはあげたのか?」
「プレゼント?」
「そうだ」
年長の暗部は、とうとうと語る。
「誕生日なんて恋人たちの一大イベントだぞ。ここで恋人のハートを射止めないでどうする?誕生日に本人が希望するものを贈るのもいいが、他に自分が贈りたいと思うのはないのか?相手が喜びそうなものだ。贈ったら、きっとイルカは感動するぞ」
そうやって恋人の心は掴むものだ、と持論を展開していた。
「イルカが欲しいものねえ」
うーん、とカカシは考えて、はっとしたように顔を上げた。
「昨日、イルカの家の食器を割っちゃって、そのまんまだ」
「・・・それは生活必需品の部類だろ」
「ってか、割ったんなら、ちゃんと買い直せよ」
「どんなシチュエーションで割ったんだ?」
「馬鹿、そんなの聞くな。仲良くじゃれ合っていて弾みに、とか聞いたら俺たちが悲しくなるだろ」
「俺たちって言うな」
暗部たちは口々に言う。
「うん、ありがと」
騒がしい暗部たちにカカシは暗部に似つかない爽やかな笑みを見せた。
まるで、普通の青年に見える。
「色々と不明な点が判明したよ。やっぱり年の功だね。聞いてみてよかった」
去ろうとして最後に置き土産を残す。
「じゃあね、おじさんたち」
颯爽と姿を消した。
後に残った暗部は、もめた。
「誰がおじさんだ、誰が」
「アンタだろ、俺じゃない」
「おじさんじゃなくて、お兄さんだ」
「違う、ヤングだ」
もめる暗部たちを年長の暗部が締める。
「おじさん『たち』って言っていただろ。つまり、ここにいる全員だ」
一斉に沈黙した。
「カカシが一番年少だからな・・・」
呟き声は、ちょっと悲しげであった。



「とは言ったものの・・・」
カカシは未だに考えていた。
「じゃあ、美味しいご飯ってあれでいいのかな?それとも、あれかなあ」
任務がなくなったカカシはイルカの家に帰り、夕飯作りに勤しんでいた。
白いふりふりのエプロンをつけて。
「あれでもないとしたら・・・。うーん、悩むなあ」
独り言オンパレードで料理を作っている。
「冷蔵庫には、とりあえずイルカがお気に入りのメロンを買ってきたから冷やしてあるし」
それに、テーブルに準備した食器類を見やる。
「割った食器も買い揃えてきたし」
ちょーっと多かったかもだけど、とカカシは満足そうにしていた。
「さてと」
作り終わってエプロンを外す。
「後は、イルカが帰ってきたらいいだけだな」
カカシの願いが通じたのか、ちょうど、そこへタイミングよくイルカが帰ってきた。
「・・・たーだいま」
声に疲労が滲んでいる。
「はー、疲れたー」
ばたっと玄関先に倒れ伏して動かない。
「イルカー、お帰りー」
動かないイルカに焦れてカカシが先に声を掛けた。
「お疲れさま〜」
「あー、カカシさん・・・」
イルカはカカシを見ようとせず、顔を横に背ける。
「まだ、いたの?」
ふて腐れ気味だ。
「・・・えっと、どしたの?」
「さっさと任務に行けば」
冷たい。
「あー、任務ね」
カカシは頭を掻いて苦笑いする。
「なくなっちゃった、キャンセルされた。当分は、ここにいると思うよ」
「ほんと!」
倒れていたイルカが、がばっと起き上がった。
「今日は任務ないの?どこにも行かない?」
「うん、そうだよ」
「そっかー」
ぱっとイルカが明るい顔になった。
「カカシさん、家にいるのかあ」
とっても嬉しそうで。
カカシは思わず聞いてしまった。
「もしかして、イルカが俺がすぐに任務でいなくなるから嫌だったりしたの?」
「え・・・」
イルカは目を瞬かせる。
「そんなことは・・・ないですけど・・・。いてくれたら、嬉しいかな〜って」
「そう」
にこっとカカシが笑うとイルカは目を逸らす。
照れているようだ。



「早く起きて」
カカシはイルカを手伝って起き上がらせた。
「ご飯の用意してあるから」
「はい!」
ばたばた、とイルカが洗面所に駆けていく。
顔を洗って手を洗って、嗽をしたイルカが急いで食卓に着いた。
「わあ、すごい!」
テーブルの上には所狭しと皿が乗り、ほかほか料理が湯気を立てている。
カカシの料理のバリエーションも、だいぶ増えた。
野菜料理に魚料理もお手の物で今日は、それらがメインで並んでいるのだ。
一見、地味な料理だが手は掛けてある。
「美味しそう〜」
「さ、食べよう」
「はーい」
元気良く返事をしたイルカは手を合わせて食べ始めた。
ぱくぱく、もぐもぐと料理を食べていく。
「これ、美味しー。これも美味しー」
大喜びだ。
食べながらイルカは気がついた。
「あれ?食器類が新しくなっていますね」
「そ。割っちゃったから、新しいの揃えたの。誕生日プレゼントってことで」
「へー、かわいい感じですね」
料理が盛ってある皿は淡い花柄とハートマークで彩られている。
「なんか」
ごくん、と口の中のものを飲み込んでイルカは言った。
「新婚さんみたい」
「ん〜ふふふふふ〜」
それを聞いてカカシは、ほくそ笑む。
「でしょ?」
得意げだ。 また一歩、イルカとの距離を詰めたと。
カカシはイルカのことを大切な恋人だと思っているが、イルカの意識はまだカカシと同じではない。
カカシを嫌いではないと思うのだが、すっごく好きではないような。
いったい、イルカにとってカカシは、どんな存在なのだろう。
まずは周囲からイルカが逃れられない雰囲気を作って、恋人としての地位を固めていけばと姑息なことを計画していた。
その計画は、おそらく長い道のりだ。
気長に行こう。
幸いにしてカカシは気が長い、イルカに関しては。
「イルカ」
「はい」
嬉しそうにご飯を食べているイルカに言った。
「ご飯、美味しい?」
「はい、とっても」
「冷蔵庫にメロンも冷やしてあるからね。デザートに食べようね」
「わー!本当ですか!」
イルカの瞳がきらきら輝く。
「カカシさんも一緒に食べましょうね!」
「もちろん」
「カカシさんと食べると、とってもご飯が美味しいです」
「・・・そっか」
その一言で。
カカシの胸は満たされて。
イルカが言った美味しいご飯の真意が解ったのだった。




fever happy!【前編】




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