fever happy!【前編】
「カカシさーん」
朝、イルカが、いつもの如くカカシを起こしていた。
「あっさですよ〜」
起きて〜とベッドで布団を被っているカカシを揺さぶっている。
「うーん、あと五分〜」
お決まりの台詞をカカシが吐いていた。
「ダメです、カカシさん、起きて」
ゆさゆさと揺さぶるイルカの手に力が入る。
「起きて起きて起きて、カカシさんカカシさんカカシさん」
今は揺すっているというよりは、がくがくと揺す振っているというのが正しい。
船酔い、いやベッド酔いしそうな感じで。
「お、きる、起きるって」
昨日は遅く帰ってきたのに、とぼやくカカシは、知る人ぞ知る暗部だ。
イルカに降参したカカシは眠そうな目と顔で上半身を起こした。
髪は寝癖で、ぼさぼさで重力に逆らっている。
なのに、上から見ても下から見ても、どんな角度から見ても格好よく見える。
それがカカシだった。
「・・・・・・ずるい」
起き抜けで寝ぼけ眼で髪は寝癖だらけなのに好い男は、いつ見ても好い男だ。
それで、イルカは「ずるい」と呟いたのだ。
「カカシさん、朝飯食べましょう」
それだけ言うとイルカはエプロンの裾を翻して、台所へと行ってしまった。
エプロンはカカシが以前に買い求め、イルカの家へ置いていったもの。
白いふりふりのエプロン。
そんなエプロン姿のイルカを見て、寝ぼけた振りをしていたカカシが、にや〜っと笑ったのなんてイルカが気づくはずもなかった。
イルカが用意してくれた朝ご飯を食べながらカカシは、ふと壁に掛かっているカレンダーに目がいく。
五月か・・・。
なんの気なしに見ていると特定の日付に赤いペンで花丸が、ぐるぐるとしてある。
なんだ、あれ?
他にも何も印がないのに、その日だけ赤い花丸印。
その赤丸印は明日だ。
「ねえ、イルカ」
玉子焼きを口に入れながら、イルカに聞く。
「あのカレンダーのさあ」
行儀悪く、ひょいと箸で指す。
「花丸って何の日?どうして、あの日だけ印があるの?」
「えっ・・・」
明らかにイルカが挙動不審になった。
視線が落ち着かず、きょろきょろ。
麦茶のグラスを倒しそうになっている。
「え、え、えっと、あれは、その〜」
「試験か何か?」
「そうじゃないですけど」
「んじゃ、特売の日?」
「違います」
イルカは、よく特売の日に玉子を買いに行っていた。
なぜって玉子が好きだから・・・。
というより、ご飯のおかずが玉子料理しか作れなかったから。
「ふうん。じゃ、なんなのよ」
ぐびり、とイルカの淹れてくれた冷えた麦茶を飲みながらカカシは身を乗り出した。
食事をしているテーブルは小さい。
身を乗り出せば、イルカの顔先に届いてしまうほどに。
「な、なんでもいいでしょ」
カカシの質問に、どうしても答えたくないのかイルカは、そそくさとテーブルの上の食器を集めて流しに持っていこうとする。
「待ちなさいよ」
咄嗟にイルカの腕を掴んだカカシ。
だが、イルカは腕を掴まれてバランスを崩した。
がしゃがしゃ、がっしゃん。
イルカの持っていた食器が床に落ちる。
「あーっ!」
中には割れてしまったのもあった。
「もう、なんてことするんですか!」
イルカはお冠だ。
両手を腰に当てて仁王立ちだ。
「カカシさんの所為だ!」
びしっと人差し指を突きつけられた。
「ごめんなさいは?」
「・・・ごめんなさい」
自分が悪かったのは事実なのでカカシは素直に謝った。
「ごめん。まさか、あれしきで食器を落っことすなんて思わなくて。忍者なのに、もう少し反射神経あってもいんじゃないの」
余計なことを一言じゃなくて、二言三言言ってしまい、更にイルカの怒りを買っている。
「今は俺の忍者としても資質を問うているのじゃなくて。そりゃあ、俺は忍者として、まだまだ未熟だと自分でも思っていますよ。そんなの自分が一番解っているからこそ、日々、努力して勉強鍛錬修行任務をしているわけで。かといって努力が実るのは、また別の問題ですけど。最初から諦めていたら何も出来ないわけで」
自虐的だ。
「あー、ごめんごめん。イルカ、ほんとーっにごめん。食器は俺が片しておくから」
本当に悪いと思ったカカシはイルカに手を合わせて、許しを請う。
イルカの切ない独り言を聞いていたら、罪悪感で胸が痛くなってしまった。
「俺が悪かったです、イルカ許して。大丈夫、イルカは立派な忍者になるから。俺が保証する」
「・・・別にいいですけど」
そうは言うがイルカは許しているようには、いまいち見えない。
「なんでも言うこと聞くからさ」
カカシの言い方も大概で大雑把だ。
「だったら」
イルカは何か思いついてようだ。
「俺の誕生日に・・・」
ぴん、ときた。
「あ、もしかして花丸の日ってイルカの誕生日?」
だったら頷ける。
「自分の誕生日に記し付けていたの?」
かわいいねえ、とカカシの顔が綻ぶ。
「自分で自分の誕生日、楽しみにしていたんだ〜」
すると見る見るうちにイルカの顔が赤くなっていく。
「いいじゃないですか・・・」
なんだか、今にも泣きそうで。
「誕生日くらい楽しみにしたって」
ぎゅっと唇を噛むと、だーっと玄関に走って行く。
走ってといっても狭い部屋の中なので、玄関はすぐだ。
「あ、こら!」
「任務に行きます!」
「待ちなさいってば」
カカシが慌てて追いかける。
失言してしまったのを後悔する。
ここで、謝っておかなければ遺恨が残る。
「からかったのは悪かった。もう二度としないから」
玄関の外に出て玄関扉を外から閉めようとしたイルカが、ぴたりと動きを止める。
ちなみにカカシは内側から玄関扉を開けようとしていた。
「本当に?」
「うん、本当」
「もう笑わない?」
「笑わない」
玄関先で扉を押し合っていたイルカは、そうっとカカシを見上げた。
カカシはイルカが警戒心を解くように微笑んでみせる。
「誕生日にしてほしいことあるんでしょ?」
言いなさいよ、と促すとイルカは細く開いた玄関の隙間から要望を述べた。
「・・・美味しいご飯をお願いします」
美味しいご飯が食べたい。
それがイルカの誕生日の希望であった。
次の日。
イルカの誕生日。
カカシは珍しく早起きしていた。
といっても、太陽は既に真上に近かったが。
イルカは、まだ眠っていた。
イルカによると今日の任務は午後かららしい。
そこら辺は把握してある。
カカシも午後から召集が掛かっていた。
「イルカ、起きて」
カカシは相変わらず、ベッドで寝ているがイルカは床に布団を敷いて寝ていた。
イルカが言うには、一人じゃなきゃ眠れないということで。
いつか、一緒の布団で寝れたらとカカシは思っていたのだが。
変なところにイルカは拘りがある。
「起きてよー」
布団を頭まで被ったイルカは何やら唸っている。
「ねみー・・・」
「ほらほら」
カカシが布団に潜り込むと、がばっと布団を跳ね除けて飛び起きた。
「はっ!朝じゃなくて昼だ!」
「・・・ちょっと傷つくんだけど」
少し添い寝させてくれたって、とカカシは口を尖らせている。
「こんなことなら、さっさとお目覚めのキスでもしとくんだった」
「何を言っているんです」
「何って、俺の欲望」
「他に欲望ないんですか?」
「うふふふ、あるよー。でも、ひーみーつー」
多分、かわいく笑った風なカカシを横目で見ながらイルカは身を引く。
太古の昔に失われた野生の本能とかいうやつで。
「で、なんです?」
「うん」
カカシはイルカの前に正しく座した。
つまり正座だ。
にっこりと笑ったカカシはイルカにお祝いの言葉を述べた。
「イルカ、誕生日おめでとう」
おめでとう誕生日、早く大人になるといいね。
今年も一つ年を取って、来年も年を取るのが楽しみだね。
来年も俺が祝うから。
来年だけじゃなくて、再来年も再々来年も再々再来年も。
これから、ずっと。
約束する。
自分の小指とイルカの小指を繋ぐ。
「大好き、イルカ」
「ありがとうございます」
照れながらも嬉しそうなイルカ。
「さ、イルカ」
カカシはイルカの脇の下に手を入れると、子どもにするように軽々と体を持ち上げ立たせた。
「美味しいご飯を食べに行こう」
もうすぐ、昼で。
昼食には、いい時間だ。
二人は仲良く連れ立って、カカシのお勧めの店へと繰り出したのだった。
fever happy!【後編】
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