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イルカが、その想いに気がついたのは何気ないカカシの一言であった。
その夜。
カカシに誘われてイルカは、カカシと二人で食事がてら酒を飲みに来ていた。
最近はカカシに誘われることが事のほか多い気がする。
昼の食事、夜のお酒、そして特別、何もない日の帰りなども一緒に帰ろうと誘われる。
休みの日にも買物やカカシの家になど誘われていた。
階級は違うが年が近い所為か、カカシといると楽しいし、相性がいいのか一緒にいると気分が安らぐ。
気が合うとはこういうことを言うのだろうか。
誘うカカシも丁重で決して無理強いはしてこない。
いつも丁寧な言葉遣いと、心配りをしてくれてイルカを気遣ってくれた。
カカシさんは優しい、とても。
イルカは、そう思っていた。
「ねえ、イルカ先生。」
少し酒を飲んだカカシが、ほんのりと顔を染めて嬉しそうな顔になった。
上機嫌のようである。
カカシとイルカはカウンターに並んで座っていて、二人の距離は近い。
「俺ねえ。」
秘密を打ち明けるが如く、顔を寄せてイルカに囁いてきた。
「イルカ先生に会う前はねえ。なんとなく、いつかは俺も結婚するのかなあ、って思っていました。」
「結婚!」
その言葉にイルカは息を飲んだ。
びっくりしてカカシを見るとイルカを見て口元だけで微笑んでいる。
「うん、そう。」
頷いてカカシはお猪口の酒を飲み干し、手酌で酒を注いだ。
「結婚してねえ。」
夢見るように頬杖を突いてカカシは話した。
「こんな俺でも、いつかは家庭を築き、そのうち子供もいるようになるのかなあと思ったりして・・・。」
今夜のカカシは饒舌であった。
「そーんな未来を、ぼんやりと描いていました。」
「そ、うですか・・・。」
目を瞑って、ふうと息を吐き出したイルカは自分もお猪口に入っていた酒を、ぐーっと飲み干した。
すかさず、カカシがそこに酒を注いでくる。
その酒を何となく見つめたまま、イルカはカカシの話を聞いていた。
聞いていたが、もはや話の内容は頭に入ってこない。
適当に相槌を打ち、やり過している。
結婚・・・。
その言葉にイルカは、ひどく打ちのめされていた。
カカシさんが結婚・・・。
胸中に苦いものが込み上げてくる。
ああ、そうか。
俺、カカシさんのことが好きなんだ。
イルカは気がついた。
カカシは同性だったけれども、そんなことが気にならないくらい好きになっていたのだ。
だが気がついた途端に落胆した。
それは自分のカカシへの想いを自覚したと同時に。
失恋したという事実でもあったのだった。
自分でも展開が急すぎて気持ちが現実に追いついていけない。
動揺を隠すために酒を飲んだ。
しかし飲んでも飲んでも一向に酔いはこない。
それどころか頭は冴え渡ってくるばかりだ。
結婚、カカシはいつか誰かと結婚してしまう。
考えれば当たり前のことなのだが今は、そればかりがイルカの頭の中を駆け巡っている。
「イルカ先生。」
急にハイスピードで酒を飲みだしたイルカにカカシが心配そうな瞳で尋ねてきた。
「どうかしましたか?急にお酒を飲みだして・・・。」
「どうも・・・。」
掠れた声を辛うじて出してイルカは無理やり笑顔を作った。
「別に、どうもしません。ただ・・・。」
「ただ?」
その先は言えなかった。
言うことが出来なかった。
「ただ、お酒が飲みたくなっただけです。」
乾いた笑いを浮かべてカカシを見て、顔を逸らせる。
「イルカ先生・・・。」
カカシの手が伸びてきてイルカの肩に触れようとしたところを避けて、すっと立ち上がる。
「もう、今日はお開きにしましょうか。」
どうしてもカカシの顔が見れない。
見たら涙が出そうになるに違いない。
「そうですか、じゃあ。」
隣でカカシも立ち上がる気配がした。
「名残惜しいけど、今日はこれで。でも、イルカ先生、明日のこと約束しましたからね。」
そんなことを言ってきた。
「え?約束・・・。」
何を言っているのか、と振り返るとカカシが先ほどとは打って変わった出で立ちでイルカを見ている。
そこはかとなく真剣さが漂っていた。
「アカデミーの仕事が一段落したら、次は受付所の仕事でしょ。その前に俺と二人きりで会ってくれるって約束したじゃないですか。」
「あ、ああ、そうでした、っけ。」
カカシの話しに適当に相槌を打つうちに、そんな約束をしていたらしい。
二人きりで会うなんて、気が滅入って仕方がない。
「もうイルカ先生ってば、ちゃんと聞いていてくださいよ〜。」
茶化したようにカカシに対してイルカの身は竦むような思いだった。
「す、すみません。」と、とりあえず謝ってしまう。
「いいんですよ。」
カカシはイルカに場所と時間と、もう一度告げた。
必ず来てほしい、とイルカに念を押した。
そしてカカシは微笑んだ。
その笑みは。
いつもと変わらず、優しいものであった。
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