超直感 前編
木の葉の里に久しぶりに帰ってきたと思ったら下忍を指導する上忍師になった。
下忍は皆、子供だ。
生意気だが、それなりに可愛いところもある。
ある日の休憩時間だった。
ようやく任務にも慣れて、互いに下忍、上忍師として馴染んできた頃。
子供たちは話していた。
イルカ先生のことを。
「イルカ先生は怒ると、すげー恐いってば!」
「怒られるようなことする方が悪いのよ」
「そんなのお前だけだ」
何かと『イルカ先生』ってのが子供たちの話題に上る。
普段は仲が悪いのか険悪なムードを放ったりしているのにイルカ先生のこととなると和気藹々といった風に。
最後は決まって子供たちは言っていた。
「イルカ先生、どうしているかしら」
「イルカ先生だから元気にしているだろ」
「イルカ先生、大好きだってば」
どうやらイルカ先生は子供たちに人望厚く懐かれているようだった。
そんな訳で俺は子供たちが話すイルカ先生の話に知らず知らずに耳を傾けて、イルカ先生について詳しくなってしまった。
イルカ先生は黒髪、黒い目の髪を一つに括っていて、顔に一文字の傷がある。
それを知って俺は、あ!と思いついた。
もしかして受付所の、あの人か、と。
いつも任務が終わると受付所に言って報告書なるものを出す。
それは決まりで、みんな同じ。
俺も当然、報告書を出すわけで受付所に行く。
受付所で受付をしているのは中忍で顔見知りは一人もいない。
でも、なんとなく気になる人物がいた。
黒い瞳が愛くるしい人物。
その人物は男だったのだが時折、俺を見る黒い瞳がつぶらで、きらきら光っていて思わず頭を撫でたくなるような衝動に駆られた。
もちろん、理性で押しとどめていたが。
そんなことを知らない誰かにいきなりしたら変人扱いされてしまう。
そんなのは絶対に嫌だった。
だから一応するのを止めていた。
そういえば、と俺は思い出した。
黒い瞳にばかり目がいっていたが顔に傷があったなあと。
思えば、頭には尻尾があったような気がする。
正しくは尻尾みたいなようなものが。
よし、と俺は決めた。
今日は受付所でイルカ先生を、よく見てみようと。
その日もイルカ先生は受付にいた。
よしよし、と俺はイルカ先生に報告書を提出した。
「お願いします」と報告書を出すと指先が何かにぶつかったのを感じる。
あれ、と思ってみるとイルカ先生が、はっとしたように目を見開いていた。
黒い瞳が大きくなって小さくなる。
「すみません」
素早く手を引っ込められた。
「いえ」
俺は、びっくりした。
びっくりしてイルカ先生の真似して目を見開いてしまった。
だってさ、だって。
指先が触れた瞬間に解った。
びびびっときたんだ。
ああ、この人、イルカ先生は俺のことが好きなんじゃないって。
直感で思った、というより超直感だった。
指先なんて忍者にとって敏感な場所を触らせるなんて、ちょっとない。
偶然でもない。
偶然じゃなけりゃあ、なんだろう?
運命・・・。
そんな言葉が浮かんだ。
しっくりくる。
俺は優しい気持ちになってイルカ先生を見て微笑んだ。
「いえ、いいんですよ」
イルカ先生は急に顔を赤くして報告書を見る振りをして顔を伏せてしまった。
残念、もっと見ていたかったのに。
その顔を。
一心不乱に報告書をチェックするイルカ先生を俺は、まじまじと見詰めた。
なるほど、頭には尻尾がある。
尻尾は、ゆらゆらと左右に揺れていた。
触られるのを待っているかのように。
欲をいえば、尻尾に触ってみたかったが我慢した。
尻尾はまだだ、今はだめ。
イルカ先生が報告書をチェックし終わり不備がないことを告げられた。
本来なら、そこで終わりなのだが俺は、うずうずとする欲求が体の奥から湧き上がってきてイルカ先生の前から動けずにいた。
イルカ先生に触ってみたいという欲求だ。
俺のことが好きなら触っても怒らないはず。
いきなりだと怒るだろうから手順を踏んで、まずは手から触りたい。
イルカ先生は俺に手を触らせてくれるだろうか?
テーブルの上にイルカ先生の手に、そっと触れた。
怒らない。
じゃあ手を撫でてみよう。
自分の手の平の上にイルカ先生の手を置いて、恐くないよ、と撫でてみる。
撫で撫でしてみた。
あ、これって犬に似ている。
イルカ先生と犬を同列にするつもりはないんだけど忍犬を飼っているので、それなりに犬に詳しい俺は思った。
犬も信じた飼い主には自分の敏感な場所を触らせてくれる。
足の先とか鼻先、耳の先とか尻尾とか。
イルカ先生は敏感な場所を俺に触らせてくれる。
それは俺のことが好きだからに違いない。
考えてみればイルカ先生のつぶらな黒い瞳は犬を連想させたのかも。
俺が手を撫でるとイルカ先生は怯えたように手を引こうとしていたけど撫でていると安心したみたいで落ち着きを取り戻した。
それに俺は満足してイルカ先生の手を元の場所に戻すと受付所を後にした。
大満足だった。
里に帰ってきて暇していたし独り身の生活を寂しく思っていたから、いい人に巡り合えてよかったなあと思ってしまった。
イルカ先生は俺のことが好きみたいだし俺も、あんな目で見られたら好きならずにはいられない。
胸の中が、ぽかぽかとしてきて。
恋という字が頭を掠める。
ああ、これが恋なのかと実感した。
次の日。
任務を終えて受付所に行くとイルカ先生はいた。
昨日の今日で、すぐに撫でたりしたらイルカ先生も嫌かもしれない、と俺は思った。
しかし撫でたい触りたい。
どちらかというと人目につかない場所で触ってみたい。
そうだ、と俺はひらめいた。
イルカ先生が仕事が終わるのを待っていよう。
そうすればイルカ先生を独り占めできる。
いい案だった。
なので俺は普通に報告書をイルカ先生に提出して受付所を後にした。
イルカ先生が仕事を終えて出てくるであろう、アカデミーの玄関で待つことにしたのだった。
つまり待ち伏せ。
イルカ先生の仕事が終わるまで、時間がだいぶあるけれど時間つぶしはお手の物だ。
何より待っていればイルカ先生に会えるんだから。
俺はうきうきとしながら、ひたすらイルカ先生を待っていたのだった。
超直感 後編
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