AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


敏感



手が触れた。
指先が、ちょっと。
それはごく有り触れた感じで、どうして指先が触れたかというと報告書を渡してもらう時にはずみで偶然に触れた、それだけだった。
「あ、すみません」
俺は慌てて手を引っ込めた。
「いえ・・・」
触れてしまった相手は驚いたように目を開いた。
その人は片目だけを出しているので、その目が僅かに大きくなったんだ。
それから目を細めて優しげに笑った。
「いえ、いいんですよ」と言ってくれた、その人は。
アカデミーでの元教え子たち、今は下忍の上忍師となられたカカシ先生だった。



実はカカシ先生に関しては、よく知らない。
すごい忍者だってことくらい。
あとは二つ名を持っていて隠しているもう片方の目は写輪眼だということ。
写輪眼は見たことないけれど。
最近、里に戻ってきたらしい。
それまで、いったい、どこで何をしていたのか俺には分からない。
風の噂では暗部にも所属していた経験があるんだそうで。
なんだか本当にすごい人だった。
そんなにすごい人だったけれど。
俺は教え子たちからカカシ先生の話を聞いただけで、ろくすっぽ話もしていない。
もちろん個人的に知り合いという訳ではないし、その人柄もよく分からん。
カカシ先生って呼んでいるのだって、教え子たちの真似して俺の心の中だけで呼んでいる。
口に出して「カカシ先生」って呼ぶほど親しくはないんだ。
報告書を提出しに受け付け所に来て俺のところに来た時も、お決まりの挨拶をして終わり。
今まで直接、接触したことなんてなかった。



「どうも・・・」
そんな訳で初めて見るカカシ先生の笑顔に、どきどきしながら報告書を受け取った。
今度は手も触れることなく普通に報告書を受け取ってチェック。
特に問題はない。
「大丈夫ですよ、お疲れ様でした」
俺が、そう言うとカカシ先生は頷いた。
頷いて受付所を去って行くのがパターンなのだが。
その日は何だか違っていた。
報告書を受け取ったら後は何もないのにカカシ先生は俺の目の前から動かない。
・・・どうしたんだろう。
俺、何かヘマしたか?
それとも気がつかないうちに失礼なことしたとか。
でも、そうではないらしい。
カカシ先生は笑顔のままだったから。
うーん・・・。
悩んでいるとカカシ先生が俺の手を取った。
なんで!と俺は、ぎょっとしてしまう。
反射的に手を引っ込めようとしたが、さすが上忍、俺の力では無理だった。
俺の手を取ったカカシ先生は何をしたかというと・・・。
ただ撫でた。
撫で撫で撫で撫で、笑顔で。
同じ男の手を撫でるカカシ先生、何を考えているのかさっぱり分からなくて不気味だった。
そんな俺たちに受け付け所の皆が注目していたが見ているだけで誰も助けてくれようとはしない。
俺が硬直しているとカカシ先生は満足したのか、じき手を離し颯爽と受付所を出て行った。
何事もなかったかのように。



俺は唖然呆然。
なんだったんだ、今のは。
何がどうしてどうなったんだ!
カカシ先生が俺の手を撫でるとは!
何のために?
今まで、こんなことなかったのに。
大して面識もない俺の手を撫でるカカシ先生の心境は如何に?
って面識があって親しくしていも男の手なんて撫でるなんてことはしない。
少なくとも俺はしないし、しているところを目撃したこともない。
心臓が猛烈に、どきどきしてきた。
意味の分からない行動って、時として大きな謎だと実感した俺だった。



次の日のカカシ先生は普通だった。
受付所に報告書を出しに来て、俺に普通に提出して普通に受付所を去って行った。
よかった、とほっとした。
昨日の出来事を知っていた人たちもカカシ先生と俺の間で何もなかったので、もう関心を示さなかった。
昨日は散々にカカシ先生とのことを、あれやこれやと訊かれたが。
訊きたいのは俺の方だ、どちらかというと。
でも、まあ。
俺はカカシ先生が去ってしまった受付所の出口を見つめた。
昨日の一件は何かの間違いで、夢でも見ていたんだろう。
そう結論づけた。
何しろカカシ先生は、すごい忍者で性格は冷静沈着だっていうし。
冷静な人が男の手を撫でて笑顔って図はないよな。
昨日のことは俺の記憶から抹消しておこう。
周りも時期に忘れてしまうに違いない、いずれ風化するだろう。



ところが。
俺の予想に反したことが起きてしまった。
仕事を終えて、さあ、帰ろうとアカデミーの職員用の玄関を出たところに人影があった。
こんな時間にこんな所に誰だろう?
誰かを待っているのかな。
夕闇に霞む人影に目を凝らした俺は驚いた。
びっくり仰天。
「カ、カカシ先生・・・」
あ、間違えた!
俺は慌てて言い直した。
「は、はたけ上忍!」
慌てる俺を見てカカシ先生は、くすっと笑った。
あ、こんな笑い方もするんだ・・・。
子供みたいに人懐こいような笑顔を。
ちょっと意外。
なんだか一気に親しみがわいた。



「待っていたんですよ」
カカシ先生の口から言葉が出た。
「俺を?」
確認するとカカシ先生は頷いた。
「イルカ先生を」
初めて名前を呼ばれた。
知っていたんだ、俺の名前。
ちょっと感動。
「あ、子供たちが呼んでいたので俺もイルカ先生って呼んでしまったんですがいいですか?」
カカシ先生は丁寧に俺に了承を求めてきた。
「あ、はい。どうぞ!」
子供たちってカカシ先生の元で指導を受けている、きっと元教え子たちのことだろう。
「じゃあ、俺のこともカカシ先生って呼んでくださいね」
柔らかく言ったカカシ先生は俺に一歩、近づいてきた。
そういえば、俺を待っていたって言っていたっけ?
なんでだろう、と思う間もなくカカシ先生の手が、するっと俺の手を取った。
瞬間、また撫でられる!と思ったんだけど。
そうじゃなくてカカシ先生は俺の手を握った、ぎゅっと。
握ってきた手はあたたかくて、妙な安心感が俺に生まれたのも束の間。
カカシ先生は握った俺の手を引いて歩き出した。
・・・カカシ先生が俺を待っていた理由って。
まさか、もしや、と思うけど手を握るためなのか?
昨日に引き続きカカシ先生の行動の意味が全く分からず、呆然としている俺がいた。


敏感 後編



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