あなたへの言葉12
「そうだったんですね。」
カカシは至極、自然に相槌を打ち、イルカの肩に自らの腕を回した。
さり気なく自分の方に引き寄せる。
「そんなことで悩んでいたなんて。」
カカシは自分とイルカの缶コーヒーを取り上げて屋上の手すりの上に置くと、にっこりと笑った。
「俺、ずっと待っていたんですよ。」
「待っていたって、何をですか?」
「何をじゃなくて、誰を、です。」
イルカはカカシの言っている意味が分からなくて、盛んに瞬きを繰り返した。
「まあ、俺の話も聞いてください。」
カカシは、よく声が聞こえるようになのか、イルカを自分の腕で囲って胸に収めてしまう。
「俺には忘れられない人がいて、最初、出会った時の印象は面白い子だなあと単に思っていたんですけど。それが、偶然にも次の年にも同じ場所で会いましてね、その次の年にも会ったんですよ。偶然にしては出来過ぎのような、それでいて何か因縁めいた運命のようなものを、その人に感じるようになったんです。」
イルカは大人しく黙って聞いていた。
「何年かして再会した時には、その人は、もう立派に成長していて俺は驚きました。それから、まあ、俺は再会を喜んだんですけどね、その人は何だか冷たくて。迷惑なのか照れているのか、忘れたいのかと色々考えたんですけど、やっぱり、その人を諦め切れない。だからね、俺のことを好きになってくれたらと思って色々頑張りました。」
カカシは、イルカをそっと伺い見た。
「それって、誰だか分かりますか?」
余りにもカカシが自分を優しい眼差しで見るものだから、イルカはそれが誰だか直ぐに分かってしまった。
カカシが自分のことを好きだと言ってくれているのだ。
「でね、俺は里に常駐するまでは任務任務で任務に明け暮れて、忙しくて忙しくてしょうがなくて恋愛する暇もなくてねえ。任務中、辛い時はその人のことを思い出しては心を慰めていたんですよ。」
そうだったのか、とカカシの告白にイルカは少し胸が苦しくなった。
「その時は、自分をこき使う里を恨んだりもしましたが、結果的に良かったかなあって。」
カカシは嬉しそうに微笑んだ。
「俺は、最初にキスした人を、最初に好きになったから。」
それから、少しだけカカシに寂しそうな表情が浮かんだ。
「でも、俺が最初にキスした人は他の人と何回もキスしたって聞いて、ちょっと嫉妬してちょっと残念で、でも、しょうがないかと思いました。」
カカシの言葉を聞いて、イルカの胸は、締め付けられた。
そのことに関しては嘘をついていたからだ。
「あの、俺の話も聞いてほしいんですけど、いいですか。」とイルカは、おずおずと切り出した。
心臓の鼓動が早くなり息も止まりそうなくらい緊張してしまうが、ここで言わなければいけないことがある。
「その、俺は・・・。」
どきどきとしてしまって、思わず手を握り締める。
その手をカカシが、ゆっくりと擦ってくれた。
イルカを勇気付けるかのように。
ごくりと唾を嚥下して、イルカは覚悟を決めて言った。
「俺、さっき、好きな人がいるって言いましたよね。それで・・。」
「それで?」
「それで、その人に嘘をついてしまって。」
「嘘?」
僅かにカカシの眉が、ぴくりと動きイルカは、その気配に体を強張らせた。
「嘘というか、その場の成り行きで言ってしまったというか・・・。」
「何を言ったの?」
カカシは、それが早く知りたいらしい。
ぐっとイルカの方に顔を寄せて聞き耳を立ててきた。
「キスの・・・。」
「キスの?」
カカシが声を潜めて尋ねてくる。
釣られてイルカも声を潜めた。
「回数を偽って言ってしまって。」
「本当は何回なの?」
カカシが内緒話でもするように小さい声で言う。
「二回です。俺の生涯で、たった二回。」
「そう。」
それを聞いたカカシの声は、これでもかというほど嬉しそうであった。
「そうなんだ。」
ほっとしたようにイルカの体を遠慮なく抱き締めてくる。
「イルカ先生はファーストキスとセカンドキスしか、してないんだね。」
「あの、恥ずかしすぎるので口に出さないでください。」
懇願したイルカは、それでも恥ずかしいのかカカシの腕の中で身を捩って逃げ出そうとした。
しかしカカシの腕はイルカを、すっぽりと捕らえて離さない。
「だって嬉しいんです。」
カカシがイルカに身を、すりすりと摺り寄せる。
「諦めないで頑張って良かったな〜って。」
「ねえ、イルカ先生。」と、カカシが真正面からイルカの顔を見つめた。
二人の顔は夕日に照らされて輝いている。
「いいこと教えてあげる。」
「いいこと?」
「うん。」
カカシは頷いて、訝しげな顔をするイルカの耳元に囁いた。
「あのねえ、好きな人に何て言えばいいのか分からない時はね、行動あるのみです。」
「行動・・・。」
「そうです。」
顔を覆う布を取ったカカシは自分の唇を指差す。
「ここにキスして、イルカ先生。」
「・・・本気ですか?」
目を丸くするイルカにカカシは本当なんだと本気を見せた。
「イルカ。」
出会った頃の、懐かしい呼び方でイルカを呼ぶ。
「大好き。すごく好き、ものすごく好き、とっても好き。」
それからイルカの両手を自分の両手で掬い上げて、キスを強請るように目を閉じた。
「俺もカカシ先生が・・・。」
「カカシさんがいい。」
カカシの訂正されて、イルカは言い直す。
「俺もカカシさんが好きです。」
そしてイルカは目を閉じてカカシに唇を近づける。
二人は出会ってから三回目のキスをした。
カカシもイルカも初めてキスした人と恋をして、そうして結ばれて幸せになったのだった。
終り
あなたへの言葉 11
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