雨
任務が終わって報告書を出して家に帰ろうとした時、急に雨が降り出した。
最初は小雨だったのに、雨脚は次第に強くなってくる。
任務帰りで疲れているのに、この上、雨にでも打たれたら余計、疲れること間違いなしだ。
そう思った俺は雨を避けるために、どこかの家の軒先で雨宿りをしていた。
雨、止まないかなあ。
俺の望みとは裏腹に雨は、これでもかと大降りになってきている。
空を見上げると黒くて、どんよりとした雲が空を覆っていて雨は止みそうにない。
はあ、と溜め息をついた俺は、しょうがないと諦めて雨の中、足を一歩踏み出した。
もう、濡れて帰るしかない、と。
そんな俺に声を掛ける人がいた。
「カカシ先生!」
その聞き覚えのある声に、どきりとする。
呼ばれて振り向くと雨の中、傘を差したイルカ先生が立っていた。
片手には傘、片手には何か持っている。
イルカ先生は、いつもと違って忍服は着ておらず髪を降ろして、ラフな格好をしていて若者らしく見えた。
「どうしたんですか?」
近づいてきたイルカ先生は俺に傘を差し向けた。
「濡れますよ。どうぞ、傘に入ってください。」
そう言って近づいてきた時、イルカ先生から温かい空気とふんわりとした、いい匂いが香ってくる。
その匂いに、くらくらしてしまう俺だ。
だって、まあ、密かに俺はイルカ先生に想いを寄せていたから。
誠実な人柄や前向きさや、ひた向きさ、何事にも頑張るところなど俺を魅了する。
同じ男性なのにも関わらず。
だから俺はイルカ先生の誘いを断らなかった。
否、断れなかった。
「すみません、じゃあ。」なんて言いながらイルカ先生との相合傘のチャンスを逃すことはしない。
狭い傘の中でイルカ先生と肩を、くっ付けながら話しをする。
「カカシ先生、見たところ任務帰りですか?」
「ええ、まあ。イルカ先生は、お休みですか?」
「俺?」
イルカ先生は笑って答える。
「俺は非番で、さっき家に帰ったんです。で、風呂に入って冷蔵庫を開けたら何もなくて・・・。」
買出しです、と傘とは違う、もう片方の手に持った何か、袋を上げて俺に見せた。
「腹、減っちゃって。」
袋の中身は食料らしい。
そして先ほどのイルカ先生から香った、いい匂いは風呂に入った後の石鹸の匂いだったらしい。
イルカ先生が持っていた袋から食欲を促す美味しそうな匂いが漂って俺の素直は腹の虫は、途端に存在を主張するがごとく、ぐーっと盛大に鳴り響いた。
くす、とイルカ先生が笑うの分かった。
物凄く、恥ずかしい。
人生で一番、恥ずかしい瞬間もしれない。
好きな人の前で腹の音がなるなんて。
だが、イルカ先生は違った。
「よかったら。」と俺に言う。
「俺の家、近いので寄っていきませんか。多目に食料を買ってきたので、一緒に食べるとかどうです?」
実に魅力的なお誘いだ。
確かに自分の家に帰っても迎えてくれる人も誰もいず、飯の支度もしていない。
第一、冷蔵庫なんて、ここ最近開けてないから、何が入っているのかも思い出せない。
・・・冷たく暗い家に帰るより、少しだけでもイルカ先生の家に寄らせてもらったら、こんなにいいことないよなあ。
そう思った俺はイルカ先生の家に、少しだけお邪魔させてもらうことにした。
その後。
結局、俺はイルカ先生の家で飯ばかりか、風呂まで入らせてもらって、一向に止まない強い雨と任務の疲れから家に帰るのが億劫になって、イルカ先生の家に一晩厄介になった。
「布団が一つしかないので。」
すみません、と言ったイルカ先生は俺に一つしかない布団で寝させようとしたのだが、それではイルカ先生は休めない。
「いいじゃないですか。」
俺はイルカ先生の手首を掴んで布団の中に引き込んだ。
「一緒に寝ましょう。ほら、こうすると狭くないですよ。」
どさくさに紛れてイルカ先生と腕に囲って、布団に二人で潜り込む。
「二人で寝ると、あったかいし。」
俺の心も、あったかくなるし、幸せだ。
うとうと、と夢見心地に襲われる。
自然と瞼が落ちていった。
イルカ先生も「そうですね。」なんて言って俺に、ぴたりと体を密着させてくる。
ああ、ずっと、このままで、なんて思ってしまった。
・・・でも、できたら俺とイルカ先生の関係を、より親密に発展させてからが好かったなあ、と欲張ってしまう。
そんな感じで寝ようとした寸前にイルカ先生の呟きが聞こえた。
寝ようとしていた俺の頭が、ちょっと覚醒する。
「・・・ああ、父さんと寝ているみたい。」
イルカ先生が安らかな寝息がたて始め、眠りに落ちたのが分かった。
子供みたいな顔で安心して眠っている。
「父さんねえ・・・。」
俺は、そんな安全な人間じゃないんですよ〜と言いたかったが、如何せん、眠すぎた。
眠りに落ちながら俺は、イルカ先生と一刻も早く親密な関係になろう、と心に誓い、イルカ先生をより強く抱きしめて、ぬくぬくとした心地よい場所に幸福を感じたのだった。
雨2
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