納涼大会余談恋一夜物語
「いったい、何だったんでしょうね」
納涼大会は速やかに解散となり、カカシとイルカは薄暗い道を歩いている。
手は、しっかりと握ったまま。
時刻は明け方に近い。
「さあねえ」
カカシは非科学的なものは信じない性質なのだが。
「恐い話につられたか、呼ばれたかして出てきたんでしょうね、何かが」
その何かが解らないのが恐い。
正体不明のものの方が恐ろしいのだ。
ぶるっと体を震わせてイルカはカカシに身を寄せた。
「恐いですね・・・」
「そうですね、恐いですね」
「イビキさんの双子のお兄さんとか弟さんとか」
「あいつに兄弟はいないんじゃないかな?」
「生き別れになった、存在も知らなかった御兄弟が現れたとか・・・」
「存在を知らなかったから、現れられないと思いますが」
「世の中に似た人が三人はいるらしいので、そのうちの一人とか」
何としてでもイルカは理由をつけたいらしい。
「そのうちの一人だとして、何で、あの場に?」
「うーん、それは」
しかし、悉くカカシに論破されてしまう。
ぎゅっとカカシはイルカの手を握った。
「あまり、深く考えない方がいいですよ」
ふと、蝋燭の火が消える直前に見た顔を思い出した。
邪悪な笑みに見えた。
きっと忘れた方がいいに違いない。
「ほら、イビキも言っていたでしょ、この世には科学では説明できないこともあるって」
カカシも、それらの不思議な現象を信じているわけではないのだが。
「単なる怪奇現象。納涼大会には、もってこいだったなって」
俺も体験したかった、と後からイビキは漏らした。
肝が据わったイビキらしい発言であった。
あの後。
恐怖でカカシに抱きついたままのイルカの腕は中々、剥がれなかった。
「す、すみません」
慌てて離れようとするイルカであったが、カカシの背中にイルカの回った腕は、がちがちになってしまっていて。
しかも真正面からカカシに抱きつく体勢になっている。
焦って動かそうとすればするほど、深みに嵌っていくようで。
「そんなに焦らなくていいですよ」
落ち着いて、と言うカカシの声にイルカは恥ずかしくなってしまったらしい。
「恐いくらいで、こんなことになるなんて」
「本当に恐かったんだから、しょうがないですよ」
「だろ、俺の主催する納涼大会は毎年、盛り上がるんだ」
主催者のイビキは後始末のために、最後まで残っていた。
「来年もやるつもり?」
「もちろんだ!」
カカシの問いに胸を張る。
今年、起こった不可思議な出来事については、全く意に介していない。
「来年も何か起きたら、と思うと止められないじゃないか」
「・・・そんなもん?」
「来年も来てくれよな」
イビキは恐い話好きらしい。
ちっとも懲りてない。
「あ、取れた!」
変に力が入って、凝り固まっていたイルカの腕がカカシの体から離れる。
「すみませんでした、カカシさん」
イルカは、やっと離れた腕を揉んだり、伸ばしたりしていた。
「いえいえ、ちっとも構いませんよ。」
にっこりと笑ったカカシは本心を、さらりと告白する。
「イルカ先生だったら、いつまでも俺にくっ付いていてほしかったのに」
「はあ・・・」
カカシの発言の意図が判らないイルカは生返事だ。
しかし。
イビキは、ぴんと来たのだろう。
カカシとイルカの二人に言った。
「もう帰れ。せっかく涼しくなったのに、また暑くなるじゃないか」と。
「で、イルカ先生」
身を寄せてきたイルカにカカシは、わざと耳元で囁いた。
吐息がかかるくらいに。
「さっき、言ったこと覚えてますか?」
「さっき言ったこと?」
首を傾げるイルカ。
「ほら、恐いなら俺と一緒に・・・」
「ああ、寝るってやつですね」
イルカは、しっかりと覚えていた。
「そうですね。ご迷惑でなかったら、暫く一緒に寝てほしいなあって」
駄目ならいいですけど。
「いいんですか!」
思いも寄らないイルカの返事にカカシは色めきたった。
一人で盛り上がる。
「ほんとにほんとに、俺と一緒に寝るって。寝ていいんですか?」
「だって、一緒のベッドで寝るだけですよね?」
逆にイルカに聞かれた。
「まあ、そうですけど」
カカシが歯切れ悪く答えるとイルカが、ふっと微笑んだ。
「俺、嫌いな人とは、こんなことしませんよ」
繋いだ手を掲げて見せた。
「それに納涼大会にだって誘いませんし」
言われてみれば、そうだ。
「リクエストされたからって、浴衣なんて着ませんし」
浴衣はカカシが内緒でイルカ用に、と誂えたものだ。
要はプレゼントしたということで。
それはイルカに、よくに会っていた。
「一緒に眠ったりしませんしね」
「イルカ先生!」
もしかして、もしかして、もしかするのか・・・。
ものすごく、期待をこめてイルカを見つめる。
イルカもカカシを見つめて、甘い雰囲気が漂い始めたような気がしたのだが。
「ふわあああ〜」
甘い雰囲気を一気にかき消す大きな欠伸をイルカがした。
「眠くなってきちゃいました」
へへへ、と照れ笑いをしている。
「そう言われれば俺も・・・」
イルカの欠伸が移ったのか、カカシの口からも欠伸が出る。
「少し眠りたいですね」
「はい」
「だったら」
カカシはイルカの手を引っ張った。
「ここからなら、俺の家が近いです」
自然と足が速まる。
「俺の家で一眠りしましょう!」
「え?」
「俺と一緒に寝てもいいって言ったじゃない」
「それは夜、恐くなったらの話で」
朝や昼間は平気です、と主張するイルカ。
「まあまあ、いいじゃないですか。この際、細かいことは抜きにして」
「細かくないですって」
もはや、イルカはカカシに引き摺られている。
「カカシさん、ちょっと待ってください」
「待てません」
「落ち着いてください」
「落ち着けません」
ぐっとイルカの渾身の力で、引っ張り返されてカカシは足を止めた。
くるっと振り返る。
「落ち着いていられますかっての!」
「ど、うしてですか?」
カカシの迫力に押されてイルカが、一歩退く。
「だって、イルカ先生!言ったでしょ!」
「言ったって?」
「俺を好きだって!」
「す、好きだなんて、そんなこと・・・」
嫌いじゃないと言っただけで。
「そんなこと言いました。俺は好きな人に好きだって言われたら、待てないし落ち着けません!」
それが男心というものである。
カカシの言った言葉の意味を理解したイルカは、ぱっと顔の色が変わって俯いた。
俯いたイルカの耳は赤い。
曝け出されている項も赤い。
まともカカシの顔を見れないらしい。
「納涼大会に誘っただけなのに・・・」
「納涼大会から初まる恋もあります」
立ち止まり動かないイルカは、ずずずっとカカシに引っ張られて。
腕の中に収まった。
「好きです、イルカ先生」
カカシの告白にイルカは何と応えたのか・・・。
返事は一つに決っているが。
その返事を聞いたのはカカシだけであった。
次の年。
またまた納涼大会は開かれて、怪談が語られた。
そこにカカシとイルカは仲良く、去年より実に仲良さそうに参加していた。
イルカの恐がりは相変わらずであったが、そんなイルカをカカシは優しく腕に受け止めたりして。
怪談をしても涼しくなるどころか、一部の場は涼しくならなかったらしい。
そして、去年の夏に起こった出来事は結局・・・。
謎は謎のままだったのであった。
納涼大会怪談九十九物語
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