ふたつ 前編
明日はバレンタインという日。
里の街中で、偶然、元教え子のイノとヒナタに出会った。
二人ともアカデミーにいた頃とは違い背も伸びて、姿も雰囲気も女性らしくなっている。
「イルカ先生!」
俺を見つけた二人は、手を振って駆け寄ってきた。
「お久しぶりです!」
「元気でしたか?」
イノは元気よく、ヒナタは恥ずかしそうに言ってくる。
「ああ、元気だったぞ。」
俺は二人の髪を乱さないように気をつけながら、軽く頭を撫でた。
実は、この前サクラの頭を撫でたら髪型云々で怒られてしまったのだ。
かといって頭を撫でずにいたら、それはそれで何故か、ふくれっ面をされてしまわれる。
年頃の女の子は難しい。
「先生に会えて丁度、良かった!」
イノは弾んだ声で言って「これ。」とある物を差し出してきた。
ヒナタも「私も。」と小さい声でいい、ある物を差し出てくる。
「これってチョコか?」
二人の手の平にある、小さな箱は綺麗にラッピングされていた。
時期的なことを考えると、バレンタインのチョコに間違いないだろう。
「俺にくれるのか?」
教え子から、例え義理だと分かっていてもだ、チョコを貰えるなんて。
先生、嬉しいぞ。
「はい、明日はバレンタインなので。」
「イルカ先生に渡そうと思って。」
「そうかそうか。」
俺は、もう大喜びだ。
こんなに慕われているなんてなあ。
「先生、長生きしてね。」
「先生のお給料があがりますように。」
変なことまで心配されていた。
それでも俺は受け取ったチョコを胸に、じーんときてしまう。
「ありがとうな。すごく嬉しいよ。」
でも、貰ったチョコの数を見て疑問がわいた。
「何で同じものが二つずつ?」
イノとヒナタはそれぞれ、同じラッピングをした箱を二つずつ俺にくれた。
つまり、合計四個だ。
外見は同じでも中味は違うのかな?
「あ、それはカカシ先生の分です。」
「カカシ先生?」
「イルカ先生、カカシ先生とよく一緒にいるでしょう?」
「あ、ああ。」
「だから渡してほしいんです。カカシ先生にお世話になることもあるし。」
「頼んでしまって悪いんですけど。感謝の気持ちをいうことでお願いします。」
「そうか。いや、別にいいよ。」
俺がカカシ先生に渡すことを了承すると、少女たちは喜んだ。
「ありがと、イルカ先生。じゃあねー。」
「カカシ先生によろしく。」
二人は手を振って去って行った。
「ああ、またな。」
それを見送ってから俺は、ふうっと息を吐き出す。
イノとヒナタを会話中、背中に冷や汗が出ていたのだ。
だって、実はさ、俺。
カカシ先生と付き合っていたりするんだ。
付き合ってから結構、長い時間が過ぎている。
隠しているわけじゃないけど公言することもないので、少数の人だけが知っている、半ば公然の秘密を化していた。
だからイノとヒナタは知らないはずだ。
俺がカカシ先生と付き合っているのを。
なのに女性の勘故なのか、俺にカカシ先生へチョコを渡すことを頼んでくるなんて。
侮れない。
着実に、くの一として成長していっているってことかなあ。
カカシ先生とはバレンタインは、お互い、いい年だからチョコは要らないってことで了解している。
そっか、と、ちょっとだけ残念に思った俺に、カカシ先生は澄まして言った。
「バレンタインは、ここにキスしてください。」なんて自分の頬を指差しながら宣ったのだ。
大好きって言いながら、お願いしますって。
なんてことを言い出すんだ、この人は!
「あ、俺もちゃあんと、イルカ先生愛してますって言ってキスしますからね。」
それってそれって、バレンタインは二人で愛の告白しながらお互いにキスするって事か!
簡単なようだけどチョコをあげるより、難しくて恥ずかしいことなんじゃないだろうか?
カカシ先生は今、任務に行っていて、明日帰ってくるけど忘れていてくれないかな。
俺は言われた時のことを思い出して、急に頬が熱くなってきてしまう。
きっと赤くなっているはずだ。
でも、ここはまだ街中、周りに人も大勢いる。
赤くなった顔を見られないように下を向いて急いで、その場を立ち去った。
ふたつ 後編
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