二人の家 4
ああ、そのことか。
ごめんね、ってクリスマスことを気にしているんだ。
そんなこといいのに。
俺は柔らかい仕草でイルカの額の髪を撫で付けた。
「気にしなくていいよ。」
優しく穏やかな声で言う。
「クリスマスは来年も再来年も、この先、ずっとあるよ。」
そりゃあ、まあ、恋人同士の甘い時間を過ごせたらと思っていたけど。
イルカが俺の手にそっと触れてきた。
労わるように。
なんだか、とても罪悪感を感じているようだ。
俺は指を絡ませてイルカの目を覗き込んだ。
「二人で一緒にいれば、この先クリスマスは何回だって訪れる。」
きらりとイルカの目が揺らめいて顔が歪んだ。
「そうだね。」と答えてくれるけど無理しているみたいだった。
イルカも楽しみにしていたんだな。
俺との時間を。
でも、さあ、クリスマスよりイルカの方が大事だから。
俺にとって、この世にイルカは一人しかいないから。
これでいいんだ。
俺はイルカの目元に唇を寄せて、元気付けるように囁いた。
「言われたとおりにケーキは買ってあるし、ワインも買ったよ。それに蟹も買ってあるから。」
だからクリスマスを二人でやり直そうと言いかけたのに、イルカがそれを遮った。
「蟹?」
目がきらきらと輝き始めている。
とても嬉しそうな顔になっていた。
「蟹があるの?」
「うん、大きいやつ買ったよ。鍋にでもしようと思って。」
「ケーキも一番大きいやつ?」
「・・・うん。」
「ワインは甘いの?」
「・・・・・・うん。」
「やったあ!」
さっきのしんみりしていたイルカは空の彼方に消え去った。
元気溌剌になっている。
「早く家に帰ろうよ!もう元気だから。」
「・・・そうみたいだね。」
元気になった源が俺じゃないのが悔しいけど。
蟹に負けたらしいのが悔しいけど。
でも、まあ、いいか。
元気なイルカが一番いい。
退院手続きなんて、すぐ終わるし、荷物も少ないし。
帰ることに異存はない。
「じゃ、帰ろうか。」
俺が手を出すとイルカが握ってくる。
「うん、帰ろう。」
帰って二人で遅いクリスマスをしよう。
プレゼントは後で落ち着いてからイルカに欲しいものを聞いてみよう。
それからだって、いいだろう。
今は帰ろう。
二人の家へ。
終り
二人の家 3
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