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寄り道



それは、ほんの偶然だった。
任務帰り、何の因果か敵に囲まれ攻められている。
めんどくさいな、もー。
それがカカシの感想だった。
こんなはずじゃなかったのになあ。
敵に遭うなんて予想外というか、予定外であった。
早く里に帰って寝たいのに〜。
ただでさえ、下忍の指導と単独任務で疲れている。
今回は特に疲れる任務だったのになあ。
頭では別なことを考えながらも、体はひらりひらりと敵を交わしていく。
訓練された反射神経の賜物だ。
そして、確実に急所に狙いを定めて攻撃をしていた。
あー、暫く本も読んでないよ。
忙しくて、愛読書を読む時間もない。
せっかく、この任務が終わったら休暇をもらえるのに。
「あっ!」
戦闘中に余計なことばかり考えていたツケが回ってきたのだろう。
カカシは足を滑らせた。
相手はカカシと同じ忍者。
一瞬の隙を逃すはずはなかった。



「げっ!」
一斉に敵が襲ってくる。
そのときだった。
はらり。
落ち葉が舞い落ちるように誰かがカカシの前に降り立った。
カカシに襲い掛かろうとしていた敵が瞬く間もなく蹴散らされる。
中々、腕が立つ。
たった一人で複数の敵を相手にしているが、怯む様子は微塵もない。
無駄のない綺麗な動作で闘っている。
お手本みたいな動きだ。
ややあって、敵は退散した。
「大丈夫ですか」
振り向いた、その顔には横一文字の傷がついている。
額宛には木の葉のマーク。
カカシと同じ里の忍者だ。
「手練れなお方を見受け、助けは不要かと思っておりましたが」
カカシが滑って転んだのを見て飛び出してきてくれたらしい。
「余計なことを致しました」
頭を下げられた。
天辺で結った黒髪が、さらりと揺れる。
「いや、いいよ」
立ち上がったカカシは服を叩いて土や埃を落とす。
「こちらこそ、助かりました」
どうもありがとう、と正面から相手の顔を見ると思い出した。
「あれ?もしかしてイルカ先生」
「なぜ、私の名を?」
首を傾げられた。
「だって」
カカシは肩を竦めた。
「俺が今、担当している下忍の子供たちのアカデミーでの担任の先生はイルカ先生だったでしょ」
「あ!」
かっとイルカは赤くなった。
イルカの教え子たちはアカデミーを卒業した後、下忍となり上忍師の元で修行中だ。
その上忍師の一人がカカシだった。
「カカシ先生でしたか、お噂は兼兼承っております。すみません、ご挨拶が遅れて・・・」
「いいよ、そんなの」
カカシの口元が上がる。
「これから、よろしくね。イルカ先生」
手を差し出すと快くイルカは握ってくれた。
あたたかい手だった。
その時はイルカと手が触れ合っても、ただそれだけで。
あたたかい、としか思わなかった。



気の所為だろうか。
最近、カカシと帰ることが多くて、カカシと一緒にいることが多いと思う。
隣を見れば、高確率でカカシがいる。
仕事帰りに食事、酒となるとカカシが横にいたり正面にいたりと必ず、イルカの近くにいる。
別にそれは、ちっとも嫌なことじゃない。
カカシのことは偶然、カカシを助けたことを切っ掛けに教え子を縁に知り合って、それ以来、細々とした交流が続いているとイルカは思っていた。
カカシはすごい忍者で人格も高潔、いつも落ち着いていて、一見クールそうに見える。
だけどその実、仲間思いな人だ。
とても尊敬していた。
助けたときに自分が丁寧に礼を述べた後に、よろしくと手を差し出されたことは今でも鮮明に覚えている。
大きくて力強い手だった。
カカシの話は面白くて楽しくて興味深くて、話していて飽きることはない。
気遣いも細かく、親切で。
逆にカカシは自分と話していて退屈しないだろうか、と思ってしまうほどだ。
そして、いつの間にかカカシに詳しくなっているのと否めない。
今日もカカシはイルカの正面に座っていた。
穏やかな笑みを湛えてイルカを見つめている。
そんなに見つめられると照れてしまう。
実際にイルカは照れた。
「あの、カカシさん・・・。俺のこと観すぎじゃないですか?」
呼び方も仲の深さを示すのだろうか、当初のカカシ先生からカカシさんへと変化していた。
「そう?減るもんじゃないでしょ」
「う・・・。まあ、そうですけど」
減るものではないが、何となく居心地が悪い。
そんなイルカを見ながらカカシは酒を飲んでいる。
まるでイルカを酒のアテにしているようだ。
今日はカカシと仕事帰りに夕飯も兼ねて、少しだけ酒を飲みに来ていた。
明日も仕事がある。



夕飯を食べ終わると店を出て、夜道を歩く。
お互いの家への分かれ道まで一緒に帰るのが習慣になっていた。
カカシといると穏やかなときを過ごせる。
いつから、こんな風になったのかイルカは思い出せない。
始まりはカカシを偶然に助けたことからだけど。
肩を並べてカカシと話をして。
笑うカカシが横いて。
何か面白かったのか、カカシが笑いながらがしがしと頭を手で掻いた。
手・・・。
頭を掻いた手は下ろされる。
それを、ついイルカは目で追ってしまった。
カカシさんの手。
今、あの手に触ってみたら、どんな感触がするのだろう。
やはり、大きく力強いと思うのか。
それだけなのか・・・。
下を向いたままのイルカの気がついたのか、カカシが足を止めた。
「どうしたの?イルカ先生」
「え」
「下ばっかり見ちゃって」
地面に何か面白いものでも?と訊かれる。
「え、いや、その、あの」
まさか、カカシの手を見ていたとか、どんな感触なのか想像していたとか。
そんなこと言えない。
言う気もない。
あたふたしているとカカシが、にこりを笑った。
意味深な笑顔だ。
唐突にカカシはイルカの前で、いつも手にしている指なしの手袋を外した。
「はい」
その手がイルカに差し出される。
「触ってみる?イルカ先生」
心を読まれたのか・・・。
戸惑ってカカシの手とカカシの顔をイルカの視線が何度も往復する。
カカシの手は触ってみたい、触れてみたいが。
でも、どうして自分の考えていたことがカカシに解ってしまったのだろう。
「だってですねえ」
疑問が口に出ていたらしい。
カカシが困ったように眉を潜めて、困ったような顔に薄っすら赤みがさしている。
「俺もイルカ先生と同じことを考えていたみたいなんですよね」
「同じこと?」
「そ」
同じこととは、それは・・・。
イルカの顔に熱が集まる。
「俺もイルカ先生の手に触りたいと思っていたの」
もう一度、触ったらどんなかなって思って。
触りたいのは手だけじゃないけどね、とそんなことも言われる。
カカシの差し出された手にイルカは視線を戻す。
手に触れたい。
触れたら、多分それだけでは終わらない気がするけれど。
その先があると思うけれど。
この感情は何だろう・・・。
まだ、名前はない。
感情の名前も解らぬまま、イルカの手はカカシの手に伸びていき。
先ずは指先が触れたのだった。





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