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欲求と欲望の果て



中忍の頃、イルカは髪の毛がギンギラ銀のド派手な暗部に命を助けてもらった。
中忍に成り立てで一人で任務に就き、敵に襲われたのだ。
危ういところで命を落としそうになったイルカを突然、現れた暗部は華麗に戦い命を助けてくれたのだ。
中忍のイルカには天使か女神か、神様のように思えた。
何しろ、命が風前のともし火だったのだから。
「本当にありがとうございました」
多少の怪我をして倒れてイルカが立ち上がって、丁寧に礼を述べると面の下で暗部はイルカを見下ろした。
二人の背はイルカが暗部を見上げてしまうほど違う。
面の下で暗部は、ニヤリ、と笑ったような気がした。
「アンタ、かわいいねえ」
「は?」
思いも寄らぬ言葉を言われてイルカは目を瞬かせた。
かわいい、って俺が?
・・・変な人だなあ。
イルカはごく普通の感想を抱いた。
命を助けてもらった恩人なのだから、その言葉は心にしまっておいたが。
「うんうん、かわいいかわいい〜」
暗部はイルカの頭を撫で繰り回した。
結んでいた髪が解けそうになる。
それでも暗部特有の鍵爪を備えた手でイルカを傷つけないように撫でているので、暗部なりに気を遣っているのかもしれない。
「あの」
イルカは初めて会った暗部の人だけれども、助けてもらったという恩を返したい、と素直に思った。
素直に思ったものだから、素直に口に出した。
「もし、よかったら何かお礼を・・・」
言ってからイルカは密かに後悔した。
先ほど面の下で、ニヤリ、と笑った暗部が再び、ニヤリ、と笑った気がしたのだ。
それも結構、邪悪・・・ではなく人の悪い笑い方で。
あながち、イルカの推測は間違っていなかった。
なぜなら、暗部は次のように言ったからだ。
「じゃーあ、お礼は体で払ってよ」
「え・・・、えっと、カラダ?」
やっぱり意味が解らなくてイルカは目を瞬かせる。
カラダって体?
体で払うって肉体労働?
首を傾げていると暗部は「あーはははははー」と大笑いしている。
意味が解らないイルカは、少しだけ、むっとする。
「あのですね、意味が解るように言ってもらえませんか?」
暗部相手に強気だった。
「そうだ〜ねえ」
笑いを収めた暗部は肩を竦めた。
「大人になったら意味が解る〜よ」
そう言って姿を消してしまった
それからイルカは、その暗部に会っていない。



最近になって、その暗部らしき人が現れた。
暗部の面はつけていない。
髪はギンギラ銀だった。
その人は言った、ニヤリ、と笑って。
「お礼は体じゃなくて心がいいな」
欲求が変わっていた。



カカシが暗部だった頃。
任務中、若い中忍を助けた。
明らかに中忍に成り立てで戦闘経験が浅いのか、闘い方が不味く、敵に追い詰められて死にそうになっていた。
助けたのは、ほんの気まぐれだったが。
中忍のマックロ黒な髪にマックロ黒な目が印象的で。
助けたことに、たいそう感謝された。
「ありがとうございました」なんて目をキラキラさせて言う。
そこでカカシに悪戯心がわいた。
まだ純真そうな中忍をからかってやろうと。
いつも読んでいる本に出てくる台詞を言ってみたかったのもある。
カカシは面の下で、悪趣味な笑みを浮かべた。
「じゃーあ、お礼は体で払ってよ」
品のないことを言い放ち、姿を消した。
中忍は言われた意味が解ってないようで、きょとんとして目が瞬かせていた。
見当はずれなことを考えているのが一目瞭然だ。
その様子が思いのほか、かわいくて面白くてカカシは久々に大笑いしてしまった。
そんなカカシの様子に不審を抱いたのか、中忍は「意味が解るように言ってもらえませんか」なんて反論してきたが。
意味なんて、言葉そのままだ。
だが、カカシは急いでいたことを思い出した。
ついでに説明が面倒で。
そして中忍にうやむやなことを言って姿を消したのだ。
その後、その中忍と直接に会うことはなかったが遠くから姿を眺めたりしていた。
笑う顔に惹きつけられて、元気の良さに憧れた。
頑張る姿に応援もしたくなった。
何もかも気になって、気に入った。
あの中忍を手に入れたい。
心も体も、次第にそう思うようになっていたのだった。



この中忍とカカシは数年後、やっと再会する。
遠くから見ているのだけではなく、直接、会って話した。
中忍は、会った頃より背は伸びていたがマックロ黒な髪と目は、ちっとも変わらず、純真そうな面持ちもそのままだ。
遠くから見ていた時と同じようにカカシにも笑いかけてくる。
笑う顔は屈託なく、裏表がない。
それを見た途端、カカシは真に己の欲するものが何か悟った。
だから言ったのだ。
「お礼は体じゃなくて心がいいな」
本心だった。



「お礼は体じゃなくて心がいいな」
言った瞬間にイルカは固まっていた。
大きく目を見開いてカカシを凝視している。
びっくりしている顔だ。
イルカがアカデミーで教えていた子供たちの上忍師としての仕事に就いてから、しばらく経っている。
それまでイルカはカカシの正体に気がついていなかったようだった。
何回か、食事も酒も共にしているというのに。
暢気なものだ、と思ってカカシは薄っすらと笑みを浮かべた。
ま、そこがいいんだけど。
「あ・・・、お礼って」
ようやっとイルカが声を出した。
「ま、まさか、あの時、助けてくれた暗部の人・・・」
カカシを指差し、激しく動揺している。
「そうだ〜よ」
にっこりとカカシは笑ってみせた。
「思い出してくれた?」
尋ねるとイルカは、コクコクと首を縦に振る。
「思い出しました!」
「そ」
「あの時は!」
カカシに詰め寄ってカカシの両手を自分の両手で握り締めてきた。
感激のあまりといったところか。
あの時のように目をキラキラさせている。
「本当にありがとうございました!」
また、お礼を言われた。
「いえいえ、なんのそのですよ〜」
「助けていただかなかったら今の俺はありません」
助けてもらった思い出はイルカの中で、だいぶ美化されているようだった。
「ありがとうございました」
と急にイルカはカカシの手を離して持っていたカバンの中を、ゴソゴソと漁り始めた。
「あった!」
カバンの中から何かを取り出し、カカシに渡してきた。
小さな冊子だ。
「通帳?」
銀行か何かの通帳のようだ。
開くとゼロがたくさん並んでいた。
イルカは言った。
「俺、あれから体を使って任務に励んでお金を貯めたんです」
いつか助けてもらった暗部に会ったら渡そうと思って、と。
カカシが別れ際に言った言葉をイルカは変な風に解釈していた。
「・・・いえ、そうじゃなくて」
カカシは頭痛がしてきた。
こめかみを押さえる。
・・・面倒がらずに、ちゃんと説明しときゃあよかった。
そんなことを思っても、もう遅い。
「言ったでしょ、体じゃなくて心の方が欲しいって」
カカシの欲求と欲望が叶えるためには、まだまだ道は遠そうである。
イルカの心が欲しい、という言葉の意味はイルカに解らせるには・・・。
手始めにカカシはイルカを引き寄せると、ぎゅっと抱きしめてみたのだった。






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