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約束



天気のいい日は好きだ。
朝の目覚めの良かったイルカは外の天気を見て上機嫌だった。
晴れの日は気持ちが、晴れた空と同じく晴れやかになる。
何でもできそうな気分になるし、何でもやりたい気分になった。
今日のイルカは、やる気が充分に漲っている。
朝ご飯もしっかりと食べてイルカは準備を整えるとアカデミーへと出勤した。
必要以上に元気だった。
晴れている、という、それだけの理由でだ。



「イルカ先生。」
出勤途中に誰かに話しかけられた。
「あ、カカシ先生。おはようございます。」
イルカがアカデミーでの元教え子の指導をしている上忍の畑カカシである。
ぺこり、とイルカが頭を下げるとカカシも軽く頭を下げて挨拶を返してきた。
そして聞いてくる。
「おはようございます。イルカ先生、嬉しそうな顔してますけど、何かいいことでもあったんですか?」
「え?」とイルカはカカシが自分の気分を当てたことに少々驚き、次に照れくさそうに笑った。


「いや、いいことってほどでもないんですけど。今日、天気がいいでしょう?」
「そうですねえ。」
「天気が良くて、気分がいいなあって思って。それだけなんですけど。」
まるで子供のようだ、とイルカは言わなきゃよかったと思ったのだが、それに反してカカシは同意するように頷いた。
「ああ、からりと晴れていて、太陽の光りを浴びるとやる気がでますよね。」
「ですよね。」
カカシに、そう言われて更に嬉しくなりイルカは、にこりと笑う。
そのイルカの笑顔を見て、目を細めるカカシは何故か眩しそうにしていた。



カカシは受付け所に行くと言うのでイルカも途中まで一緒に行くことにした。
歩きながらカカシと他愛もない話をする。
「ナルトたちは元気ですかね、任務は、ちゃんとやってますか?」
「ええ、まあ、それなりにやっていますよ〜。」
「そうですか、よかった。」
「イルカ先生とラーメン食べに行きたいって言ってましたよ〜。」
「あははは、変わりないですね。」
「俺もイルカ先生とラーメン、食べに行きたいなあ〜。」
カカシが、つと、強請るようにイルカの方を見る。


その仕草がなんだか可愛くてイルカは微笑んだ。
「カカシ先生と行くならラーメンじゃなくて、大人同士ですからお酒の飲めるところでもいいですね。」
「えっ!本当ですか?」
やけにカカシが驚いている。
「ええ、まあ。あ、あのう、例えで言っただけですから。その、行けたらいいなあっていう感じで・・・。」
「じゃあ、予定がないなら、今日の夜にでも、どうですか?今日のイルカ先生の仕事は忙しいですか?」
俺、今日の夜の予定はがら空きなんです、とカカシは勢い込んで聞いてくる。
「今日は午前中はアカデミーで午後は受付けです。俺も予定は特にないですけど・・・。」
しかし、イルカは迷ってしまう。


カカシとはナルトたちを通して数回会っているだけで、食事や飲みには他の人を交えてなら二、三回行ったことがあるきりで、カカシと二人で、なんて初めてだ。
前から一度、カカシと話せたらと思っていたけど、何も今日でなくとも、と思ってしまう。
上忍のカカシと二人きりになって話をするのには心の準備がいる。
何を話したらいいんだろう?
二人きりを想像してイルカは、少し緊張して顔が僅かに強張った。


なのに、カカシは今度はイルカの気持ちを察してはくれず、任務が終わったら迎えに行きますね〜と、にこやかに手を振って受付け所に行ってしまった。
まるで断る隙を与えないように。
「あ、ちょっと、カカシ先生!」
イルカは呼び止めようとしたのだが、別れ際のカカシの嬉しそうな顔を思い出して、まあ、いいかと思い直した。
「これを機にカカシ先生と少しでも親しくなれたらいいしな。」
思考をプラスに切り替えて、イルカはアカデミーへと足を速めた。



午前中、イルカは受け持つ授業がなく、アカデミーの備品の整理、点検、補修をすることになっていた。
教材室にある授業で使うクナイを、同僚と共に刃先を点検する。
低学年のクラスが使う場合は切れ味が良くてもいけないし、高学年のクラスが使う場合には切れ味が悪くてもいけない。
「イルカ、その上の方にある『伍』って書いてある木箱にクナイが入っているから取ってくれないか?」
「ああ、いいよ。」
同僚に言われてイルカは少し背伸びをして箱を取ろうとした。


箱を取ろうとしながら、イルカは今朝のカカシとの会話が思い出していた。
カカシ先生とお酒を飲むか・・・。
緊張してしまう面もあるが嬉しい気持ちもある。
箱はイルカの頭より上にあり手を伸ばせば、もう少しで届きそうだ。
「おいおい、イルカ。脚立にでも乗って取った方がいいんじゃないか。」
先に別のクナイの点検をしていた同僚は声を掛ける。
「大丈夫大丈夫。」
考えが他にいっていたイルカは気軽に、そう答えて箱に手を伸ばした。


箱には手が届いた、だが、箱は予想以上に重かった。
「あ・・・。」
イルカが、やばい!と思った瞬間、箱は均衡を崩して引っくり返る。
ばらばらばらばら、とクナイの雨がイルカの頭に落ちてきた。
「イルカ!」
慌てた同僚がイルカに駆け寄る。
「平気か?何してんだよ。」
「ごめん。」
面目ない、とイルカは謝った。
「それはいいけど。イルカ、右腕、切れてるぞ。」
指摘された右腕を見ると、二の腕の部分の忍服がすっぱりと切れて、中の腕も同じくすっぱりと切れていた。
「痛そうだな。」
イルカの血の出ている右腕を同僚は素早く止血すると「医務室へ行け。」とイルカに指示する。
「いいよ、これくらい。平気だって。」
「駄目だって。いいから、行けよ。」
怖い顔をする同僚にイルカは項垂れ、もう一度「ごめん。」と言うと教材室を後にした。



気持ちが浮ついていたのかな。
医務室で治療を受けたイルカは、猛烈に反省していた。
朝は晴れていたから絶好調だと思った。
カカシと会って飲みに誘われて突然のことだけど嬉しいと思った。
はあ、と溜め息をついて包帯を巻かれた腕の傷を見ると、急速に気持ちが沈んでしまう。
俺って、まだまだだなあ。
深い溜め息が出た。



午後から、受付けに入ったイルカは淡々と仕事をこなしていた。
切れた服も予備の服に着替えたのでイルカが怪我をしていることは分からない。
血の匂いも消している。

気持ちが沈んでしまったイルカは、今日のカカシの誘いは断ろうと思っていた。
カカシ先生には悪いけど、また日を改めて仕切り直しさせてもらおう。
怪我のことは伏せて、どうにか理由を作ってカカシ先生に気遣いさせないようにして断りたい。
でも、とイルカは思った。
折角、誘ってくれたのに断ったら、もう誘ってくれないかもなあ。
それなら自分から誘えばいいのだが、一度、誘われたのにも関わらず、誘いを断った人を誘うのは難しい。
同じ考えが何度も頭に浮かび、その度に消えていった。



「イルカ先生。」
名を呼ばれて、はっとして顔を上げると、そこにはカカシがいた。
「あ、カカシ先生。」
カカシは報告書を出しにくるということは、もう任務は終わったということだ。
時計を見ると夕方、五時を過ぎていた。
どうしよう・・・。
報告書を受け取り、チェックしながらイルカの心は揺れる。
何て言って断ったら・・・。
「ごめん、イルカ先生。」


カカシが思わぬことを言った。
「な、何がですか?」
謝れる謂れが分からず、イルカはカカシを見つめる。
「あのですねえ。」
カカシは頭を、がしがしと掻いた。
顔を顰めて残念そうに息を吐く。
「実はですねえ、急に今夜、任務が入ってしまったんです。」
カカシに任務ということは単独の高ランクの任務だろうか。


「だから、朝の約束は延期ってことにしてもらえますか?」
「え、ええ。」
こくこく、とイルカが急いで首を縦に振るとカカシが、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「良かった〜。」と、にっこり笑う。
「イルカ先生と二人きりになれるチャンスが、やっと巡ってきたと思って、やった!と喜んでいたのに。」
任務が入るなんてついてないなあ、と呟いている。
「だから、今日の約束は延期っていう約束してもらえますか。」
カカシが小指を差し出してきた。


受付け所で成人の男性同士が指切りをするということは、少々、いやかなり特殊なことのように普通は思うものだが、イルカは約束を自分から断らなければいけないという重荷から開放されて、深くは考えず、受付け所でカカシを指切りを交わした。
皆がカカシとイルカの指切りを、ばっちりと見ていたというのに。

「じゃ、任務から帰って来たら二人きりで食事か飲みに行きましょうね。」
カカシは、二人きりを強調しているように感じる。
「はい。お気をつけて。」
イルカは安心して返事をした。
それまでにはカカシを二人きりになる心の準備もできているだろうし、と。



「じゃ、また。」とカカシは踵を返して立ち去ろうとしたのだが思い出したように振り返り、すすすと近寄って来てイルカの耳元に囁いた。
「クナイには気をつけてね。腕の傷、お大事に。」
それから、イルカにだけ分かるように、唯一出ている左目で、ウインクすると受付け所を出て行った。



「び、びっくりした・・・。」
イルカは、どきどきとする左胸を抑えた。
心臓の鼓動が早い。
カカシが、どこで自分の腕の傷のこと知ったのかということにもびっくりしたのだが、それよりもびっくりしたことがある。
「カカシ先生って、かっこいいんだな〜。」
ウインクするところなんて、俺がしたら笑っちゃうけどカカシ先生がすると様になるってすごい!
妙に感動したイルカだったが、どきどきの理由が他にもあるということに、その時はまだ、思いも寄らないのであった。









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