若さゆえ
「バババッーンとやって、ドドドッーンてすればいいんだよ。」
イルカがまた、無理なことを言っていた。
「バカだなあ。」
カカシが呆れたようにイルカの額を指で弾く。
「そんなんじゃ敵に見つかるじゃん。」
「じゃあ、どうすればいいってのさ。」
イルカが食って掛かるとカカシはバカにした口調でさらっと言う。
「そんなん、ダーッと行って、バーッとやって、ガーッとすればいいのさ。」
カカシの言っていることもイルカと大差ない。
聞いていた俺は、知らず、盛大に溜め息が出た。
「あのなあ、バーッとかガーッじゃ全く分からねえんだよ。」
俺の言い分に二人は口を尖らせた。
「何で分からないのさ。」
「おかしいんじゃないの?」
こういう時だけ二人の調子は合っている。
他の時は犬猿の仲、反発したり対立ばっかりしているというのに。
場所は戦場。
敵の陣地に攻め入るには、どうするかという作戦会議中なのに。
一応、隊長の俺としては毎度毎度、頭が痛かった。
どこのどいつだ、このガキ共を寄越したのは。
幾ら戦力が足りないからって、ギャアギャア騒ぐ子供が来ることないだろうに。
これでは纏まるものも纏まらない。
確かにこいつらは強いが、今のところ、それだけだ。
精神的には未熟で、どうしようもない。
始終喧嘩ばっかしてやがるし、喧嘩するなら引っ付いていなきゃいいのに、何故か一緒にいないと駄目らしい。
ところがだ、任務の関係で一人がいなくなるとする。
そうすると、イルカがいないとカカシが不機嫌になるし、カカシがいないとイルカの元気がなくなる。
おかしな話だ。
それとも、これが最近の流行なのか。
近くにいたイルカを、じっと見ているとカカシがいちゃもんを付けてきた。
「ちょっと。何、イルカのこと見てるのさ。やめてよね。」
「何故、お前が言う?」
「言っちゃ悪いの?」
「悪くないが・・・。」
「なら、構わないでしょ。」
「構わないが。」
口ではいつも負けている。
しかも理由が無く負けている。
これが若さってやつか、もしかして。
若いやつには理由が特にいらなくて、勢いだけで生きているに違いない。
若さって無敵だな。
と、そこまで考えて自分がとても年を取ったと感じた。
任務も終了間近になり、戦場からイルカを含め何人かが先に里に帰還することになった。
「イルカが先に帰れるようになって良かったよ。」
カカシは里に帰るイルカを労わっているのかと思いきや。
「これで足手まといがいなくなる。」と憎まれ口を叩いていた。
「何だよ、その言い方。別にカカシに迷惑かけてないだろ。」
イルカが反撃している。
もう、別れ間際だってのに、この二人はもう。
「ここにイルカがいること事態が迷惑なの。」
カカシの方は容赦ない。
「里に帰ったら、しばらく大人しくしていなさいよ。俺が帰るまで。」
「分かった。」
なんと、イルカが初めてカカシの言ったことに頷いた。
明日は雨か、もしかして。
「イルカが安全なところにいれば、俺は安心できるんだからね。」
カカシは子供に言い聞かせるように、イルカの頭を撫でながら言う。
そこには、優しさと云うか愛おしさのようなものが垣間見えて。
そして、最後にイルカが里に発つ時、カカシは皆に見えない素早さでイルカの頬に顔を寄せた。
俺は、運良くというか運悪く見えてしまったのだが。
あれは何だったのだろうか?
もしかして、白昼夢?
戦で疲れて幻でも見たのだろうか?
だって、あれは世間一般で言うところの所謂、キスってもんじゃないのか。
いや、待て待て待て。
カカシとイルカは、男同士で同性だろう、有り得ないだろ。
同性同士の親交の証と云うか、友情の現われと云うか、きっとそれだ。
漸く結論付けた俺に、イルカを見送っていたカカシが振り返り言った。
「イルカは恋人だよ。」
「え?」
「さっきから、一人でぐちゃぐちゃ言ってるのが聞こえたけど。イルカは恋人。」
幻聴か?
「幻聴じゃないって。」
「だって、お前達あんなに喧嘩ばっかりしていたじゃないか。」
「恋人が危ない処にいるんだから、当たり前でしょ。イルカってば、ぜんぜん言うこと聞かないんだもん。」
新事実に俺は口をパクパクとさせるしかない。
「戦場はイルカにはまだ早いって言ってるのに、行くって言って本当に来るんだもん、気が気じゃなかったよ。」
カカシは肩を竦める。
その仕草は大人びていた。
「やっと、里に帰ってくれて肩の荷が下りたっていうか、ほっとしたよ。」
まあ、お互い忍びだからこんな心配するのはおかしいけど、やっぱ心配なんだよね、怪我とかしないかって。
俺もイルカには甘いなあ、とカカシは言うが。
つまり、任務中、お互いから離れるとカカシが不機嫌だったりイルカが元気がなかったりしたのは、お互いのことを心配していたから、か?
聞くと、カカシの「そうだよ。」と言う返事。
もう、何をどう返せばいいのか、分からない。
分からないから口から素朴な疑問が飛び出てしまった。
「だって、カカシとイルカは男同士だろう?」
俺の素朴な疑問にカカシは呆れた顔になった。
「好きなら、そんなの関係ないの。古いなあ、おじさんは。」
・・・どうせ、俺はおじさんさ。
若者にはついていけないさ。
俺の葛藤も知らずに、カカシはイルカが里に帰って寂しそうにしていたものの嬉しそうだった。
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