AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


バレンタインデー



近頃はいい時代になった。
俺は、ほくほくしながら手の中にあるチョコレートを見た。
チョコレートは簡素ながらも綺麗にラッピングしてある。
そのチョコレートを見て俺は、ほくそ笑む。
今日はバレンタインデーだった。
最近はチョコレートを渡す形態が色々出来ていて、決して女性から男性にだけ渡すものではなくなっている。
愛の告白だけでなくて友情チョコだの感謝チョコだのがあって男性から渡す例だって多々あるのだ。
なので男性がチョコレートを買っても特に誰も何も思わないし思われない。
いい時代になったもんだと俺は再び、思った。
俺がそれに便乗してチョコレートを買っても何も不思議に思われない。
といっても俺がバレンタインデーにチョコレートを買った理由は一つしかないけど。



ある人にチョコレートを渡して俺の積年の想いを告白するんだ。
俺の手の中のチョコレートは正真正銘、愛を告白するためのチョコレートだったのだ。
その人の名は海野イルカ、イルカ先生だ。
俺もイルカ先生も男性で同性なんだけど。
俺はイルカ先生が好きなので告白してみたい。
想いを受け入れてくれなくてもいい、告白するだけで・・・。
いや、できたら告白を受け入れてくれて恋人になって、その先もと夢見てしまう。
しまうけど、一番怖いのは告白してイルカ先生に嫌われてしまうことだよな。
男からの告白をイルカ先生は、どう受け取ってくれるのか。
不安が目白押しだったが俺は、その日、イルカ先生を食事に誘うのに成功した。
まずは第一段階クリアだった。



イルカ先生とは時々、ご飯を食べたりお酒を飲んだりする間柄だ。
結構、親しい方だと思う。
上忍、中忍をいう階級を超えてお付き合いしているし。
念のために言っておくが、お付き合いっても友人としてのお付き合いだ。
決して恋人としてではない、悲しいことに。
俺はイルカ先生と食事をしながら、いつチョコレートを渡して告白しようか、とタイミングを見計らっていた。
チョコレートは俺の懐に大切に仕舞ってある。
しかし中々、いいタイミングは訪れない。
歯痒い、イルカ先生は目の前にいるのに。
「カカシさん、どうかしましたか?」
落ち着かない俺を不思議に思ったのかイルカ先生が訊いてくる。
「いいえ、何も」
笑顔で、そう答えたのだがチョコレートのことを考えていたので半分、上の空だった。
「そういえば、今日って」
イルカ先生の言葉に、どきっとする。
「バレンタインデーですね」
無邪気にイルカ先生が、そう言った、
「カカシさんは、いくつチョコレート貰ったんですか?」なんて訊いてくるから俺はショックを受けてしまった。
俺のことを何とも思ってないから、そんなことを訊くのだろうか。
俺は一個も貰ってない。
もしも貰えるならイルカ先生だけから欲しい、切実に。



「やだなあ、イルカ先生」
俺は、はははは〜と乾いた笑いを漏らした。
「チョコレートなんて誰からも一つも貰ってませんよ」
イルカ先生は意外そうな顔をしている。
「え、そうなんですか?てっきり山ほど貰っているのかと・・・」
食事のついでに少し酒も飲んでいたので、仄かに頬が色づいていたイルカが更に色づいた気がした。
「だってカカシさん、カッコいいから」
カッコいい・・・。
確かに、そう聞こえた。
イルカ先生が俺の容姿を褒めてくれるなんて初めじゃなかろうか。
技や術に関して褒められたことは、たくさんあるけど容姿を褒められるってのは。
いや技や術に感じて褒めてもらえるのも嬉しいよ、とっても。
でも、カッコいいだなんて嬉しい!
俺は天にも昇る心地だ。
好きな人にカッコいいって言ってもらえて、すごく幸せ。
イルカ先生の言葉に、ぽーっとしているうちに食事は終わってしまって店を出た。
結局、食事中はチョコレートを渡すことが出来なかった。



店を出て道々、俺は計画を練った。
このままではイルカ先生と途中で別れてしまう。
俺とイルカ先生の家は別の方向だから。
「あ、そうだ」
俺は自然を装って提案した。
「イルカ先生、よかったら、これから俺の家に来ませんか」
「カカシさんの家に?」
イルカ先生が訝しそうに俺を見る。
そりゃそうだ、だって俺の家に誘うの初めてだから。
突然、家に来ないかと言われたら警戒するよな。
「ええ、まあ、少し飲み足りないな〜と思って」
よかったら俺の家で酒でも飲みませんか、と。
断られたら、どうしようと思っていた俺の心配を余所にイルカ先生は、にっこり笑って頷いた。
「はい、そうですね。もう少し飲みたいなあ、と俺も思っていたところです」と言ってくれた。
やったね!
そういうことで俺の家に行くことになった。



「ここがカカシさんの家なんですね」
イルカ先生が俺の家を珍しげに見ている。
「あ!この本のシリーズ、全巻持っているんですね」
やっぱり、とイルカ先生が俺の書棚を指差した。
「ええ、まあ。好きなんで」
酒の用意をしながら俺が答えるとイルカ先生が、え?と動きを止めて俺を見た。
驚いた顔をしている。
俺、変なこと言ったかな?
俺の顔を見ていたイルカ先生は、はっとして「なんでもないんです」と真っ赤になって手を横に振っていた。
どうしたんだろ?
「イルカ先生、ここに座ってください」
座布団を勧めるとイルカ先生は「あ、はい」と頷き、座ろうとしたのだが、その時・・・。
イルカ先生のポケットから、ぽろっと何かがこぼれ出た。
小さくて可愛い包みのそれは。
「チョコレート?」
俺の方へ転がってきたので反射的に拾ってしまった。
拾ってしまえば匂いも判る。
甘い匂いは確かにチョコレートの匂いだった。



「あ、あの、それは、その・・・」
イルカ先生は慌てふためいている。
「返してください」と手を伸ばしてきたけれど俺は、ひょいとその手を避けた。
このチョコレートってこのチョコレートってこのチョコレートって。
ひょっとしてもしかしてもしかしたら。
・・・・・・バレンタインの?
「イルカ先生」
俺は絶望的な目をしてイルカ先生を見た。
「誰かに貰ったの?」
手にしたチョコレートを振りかざす。
暗い声が出た。
「このチョコレート、誰に貰ったんですか?」
誰かに告白されてイルカ先生がチョコレートを受け取ったんだとしたら、それは。
相手の告白を受け入れたってことだ。
受け入れて、つまり恋人としての一歩を踏み出したってことだよな?



「違います」
イルカ先生が小さくか細い声で否定した。
顔は俯いている。
「それは貰ったんじゃありません」
貰ったんじゃない?
「じゃあ、何でチョコレートを・・・」
きっとした感じでイルカ先生が顔を上げて俺を見る。
「それは、あげるためのチョコレートです」
きっぱり言い切った。
「あげるため?誰に?」
思わず訊いてしまった。
だって訊くだろう、ここまできたら。
男心としては訊かざるを得ない。
好きな人のことは気に掛かる。
例え、それが俺が振られる前提だとしてもだ。
しばらく俺の顔を見つめていたイルカ先生は、そっと息を吐いた。
覚悟を決めたように。
一度目を閉じて、また開ける。
俺を、しっかりと見た。
そして言った。



「俺、カカシさんのことが」
俺?
俺がどうしたって?
「カカシさんのことが実は・・・」
イルカ先生は先ほどとは比べられないほど赤くなって耳まで赤くなっている。
瞳は潤んで可愛くみえる。
多分に緊張しているようだった。
「実はカカシさんが・・・」
すーはーと息を吸ったイルカ先生は叫ぶように言う。
「好きなんです!」
言ったイルカ先生は肩で息をしていた。
「びっくりしたと思いますが気がついたらカカシさんのことが好きになっていて」
恥ずかしさを隠すようにイルカ先生が早口で説明する。
「この想いをカカシさんに伝えたいと思っていたのですが踏ん切りがつかず。 バレンタインということもあり、それに乗っかって気持ちを伝えようかと」
イルカ先生は不安そうに俺を見た。
「俺は気持ちを伝えられたらと思っていたんですが。」
とてもとても不安そうな顔をする。
「・・・男に好きだなんて言われて気持ち悪い、ですか?」
嫌いになりました?と俺が思っていた同じ不安を口にする。



「そんなことありません」
そんなことない、俺は今、すごく喜んでいる。
嬉しくて仕方がなかった。
イルカ先生が俺と同じ気持ちでいてくれたなんて。
こんなに嬉しいことはない。
俺は懐に仕舞っていたチョコレートを取り出してイルカ先生に手渡した。
「イルカ先生、俺からのチョコレートです」
「カカシさん・・・」
「好きです、イルカ先生」
俺からも、きちんと告白した。
イルカ先生が好きだってことを、大好きだってことを。
「ほんとに?」
半信半疑でイルカ先生が聞き返してくる。
「冗談とかじゃ・・・」
「冗談じゃありません」
俺は勢いのままにイルカ先生を引き寄せ抱きしめた。
「冗談で告白なんてしませんよ、俺」



抱きしめたイルカ先生は俺の腕の中にいる。
信じられないような表情をしているので俺は信じさせるためにイルカ先生の頬へ軽くキスをした。
「こんなことしてしまうくらい好きです」
好きです、と今度は瞼にキスをする。
米神に額に耳朶にとたくさんのキスをした。
最後に。
「イルカ先生、大好きです」と囁いて。
唇にキスをしたのだった。



終わり



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