うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 あの子の手作り
「あ〜、これさあ」
カカシは暗部の任務が終わった後、仲間たちにある物を差し出した。
「これ、遅くなったけどバレンタインのお返しだって」
綺麗な紙に包まれた小さな箱。
カカシは何とも言えない複雑な顔をしている。
「イルカの手作りクッキーなんだけど」
暗部の仲間たちが一斉に色めき立つ。
「イルカから?」
「手作り!」
「クッキー!」
「バレンタインのお返し!」
ホワイトデーという日は過ぎたものの暗部たちが、こんなにも盛り上がったのは初めてであった。
「うん、そうなんだけどね」
カカシは浮かぬ顔をしている。
「正真正銘、イルカの手作りだ〜よ。作るところを最初から最後まで見ていたけど、きちんと手は洗っていたし変な物も入っていない」
「なんだなんだ、カカシは恋人の手作りのお菓子を誰にも食べさせたくないのか?」
鋭く察した仲間の一人がからかう。
「うーん、ちょっとはそれもあるけどね」
しかしカカシが言わんとするところは別にあった。
「これ、本当に食べる?」
食べるかどうかを訊きたかったらしい。
「せっかく作ってくれたなら食べるぞ、俺は」
「俺も」
「食べてみたいな、手作りクッキーってやつを」
「手作りの物を食べるなんて人生で初めてだしな」
「手作り、甘美な響きだなあ」
「生きてきて良かった・・・」
感涙している暗部もいる。
「まー、いいけどね」
カカシは包みを開くと箱を開けた。
箱の中にはハート型のクッキーが甘い匂いを漂わせて陳列されている。
見た目も可愛く、美味しそうだ。
暗部の仲間たちは次々に手を伸ばしクッキーを一枚ずつ手に取った。
「あー、えっとね」
食べる前にカカシが忠告してきた。
「それ、ものすっごく甘いから」
ものすっごく甘い、それは本当だった。
「イルカ、何しているの」
家の台所で何やら、がさごそとやっているイルカにカカシは声を掛けた。
「何か作るの?」
作る、それは料理をすると言う意味だ。
何故ならイルカは頭には白い三角巾をして、更にカカシの買ってやった白いエプロンをしていたからだ。
その姿はカカシには魅力的に映る。
可愛らしい。
「うん、そうだよ!」
イルカは元気よく返事をした。
「ほら、前にチョコ貰ったでしょ。カカシさんの知り合いの人から」
たっくさん、とイルカは顔を綻ばせる。
「ああ、うん。そだね」
暗部の仲間がカカシを通じてイルカに大量のチョコをバレンタインにくれたのだ。
「そのこと言ったらさ、スリーマンセル組んでいる女の子がお返ししなきゃって駄目だって言うんだ」
「ふーん」
お返し、と聞いてカカシの眉が、ぴくりとする。
義理で貰ったチョコにお返しなんて必要ない、と言いたげであった。
「でね、簡単に作れるクッキーを教えてもらったから挑戦しようとおもって」
イルカはやる気満々だ。
「なんでも売っているホットケーキの素を使えばいいんだって!」
ホットケーキはイルカも大好きだ。
たっぷりと蜂蜜とメープルシロップと練乳をかけて食べている。
見ているだけで胸焼けしそうなほど。
「頑張って作るから出来たらカカシさん、渡してくれる?」
「うん、いいよ」
少し不本意だったがカカシは了承した。
本心ではイルカがカカシ以外の誰かのために料理を作るなんて言語道断だ。
例え、料理が苦手でも。
しかし、この時カカシはイルカのやる気と笑顔に拒否することができなかった。
惚れた弱みというやつで。
楽しそうにイルカはクッキーを作り始めた。
面白そうに卵を割ったり、泡だて器でボールの中味をかき回したり。
非常に、ほのぼのする光景をカカシは和みながら見ていた。
いいなあ、こういうの。
うっとりとしてしまう。
なんだかんだでクッキーは出来上がった。
美味しそうな匂いが立ち込めて焼きあがっている。
「わあ、すごーい!」
クッキーをオーブンから出したイルカは歓声を上げた。
「ちゃんとクッキーになっているよ、カカシさん!」
興奮している。
クッキーを作っていたのだからクッキーになっていていいんじゃないか、とカカシは密かに思ったが突っ込まないでおいた。
「美味しそう!」
オーブンから出した焼きたてのクッキーを一枚、取るとイルカはカカシの口元に持ってきた。
「はい、カカシさん。あーんして」
にっこり笑って言われると逆らえない。
素直に口を開けたカカシにイルカがクッキーを食べさせた。
そして自分も食べる。
「美味しい!」
再び、歓声を上げた。
「俺ってお菓子作りの才能あるかも!忍者じゃなくてお菓子職人目指した方がいいかなあ」
パティシエってやつ?とはしゃいでいる。
「いや、イルカは忍者がいいよ」
口を押さえたカカシはクッキーを飲み込むと急いで言った。
「イルカは絶対、忍者になるべきだから!」
強く勧めたのだった。
イルカの作ったクッキーは途轍もなく甘く、まるで砂糖の塊を食べているみたいだったとカカシは思う。
見た目は普通なのに。
どうして、こうなった?みたいな感じであった。
無論、イルカにそのことは言わず「美味しい」と感想は述べたが。
そして、そのままクッキーを持ってきたという訳だ。
「うまい!」
「おお、これが手作りの味!」
「感激だな!」
「すごく美味しいじゃないか!」
「さくさくクッキーだな!」
「甘さも丁度いい!」
「愛情たっぷりってやつだな!」
カカシが、ものすっごく甘いと忠告したのにも関わらず暗部の仲間たちには大好評だった。
「もう一枚食べたい」
「一枚もらうぞ」
「あ、俺も」
「俺も食べる」
見る間にカカシの持っている箱からイルカの手作りクッキーは消えていく。
「そんなに美味しいの?」
最後に残った一枚をカカシは、おそるおそる食べてみた。
さくっとクッキーが割れてカカシの口の中に入る。
咀嚼して嚥下する。
「おいしい、すっごく」
イルカの作ったクッキーは美味しかった。
お世辞ではなく、本当に。
「作りたては甘すぎって感じだったのに」
なんで?と首を傾げるカカシに暗部の仲間たちは指摘した。
「そりゃあ、イルカと二人きりの甘い空気の中で食べりゃあ、倍以上甘く感じるんだろうよ」
「イルカといると甘々に拍車がかかるっていう法則だ」
「つまり恋人と食べると、より甘く思えるってことだ」
「それだけカカシとイルカが仲が良いという証明だな」
「恋人か・・・」
「恋人がいるって・・・」
「いいよなあ〜」
暗部たちは挙って深い深い溜め息を漏らす。
己の独り身を嘆いていた。
しんみりとした哀愁が、そこかしこに漂う。
そんな空気の中、一人カカシだけは嬉しそうにしていた。
そっかそっか、俺とイルカはラブラブってことだ〜ね。
イルカの顔を思い浮かべているカカシは幸せそのものだった。
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