うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 おれの誕生日
イルカが熱心にテレビを見ていた。
テレビでは異国のデザートが紹介されていて、そのレシピや作り方を流している。
イルカは甘いものが好きだからなあ。
微笑ましく思いながらカカシはイルカを見ていた。
砂糖を入れないブラックのコーヒーを飲みながら、イルカの家で。
テレビを見終わったイルカは振り返ってカカシを見た。
目が、きらっきらっと輝いている。
「カカシさん!」
弾んだ声が聞こえた。
「もうすぐカカシさんの誕生日だよね?」
「あ、うん。」
イルカがカカシの誕生日を覚えていてくれたのは嬉しかった。
でも・・・。
なんだか嫌な予感がする。
「俺さ。」
イルカは、にこにことして言った。
「カカシさんの誕生日に手作りのデザートを作るね!ケーキは難しそうだから来年にして。」
張り切っている。
「すっごいやつ!びっくりするようなデザート作るから!」
すっごいやつって。
冷や汗がカカシの背中を流れる。
イルカは甘いものが好きなのだ。
そして料理が得意ではない。
そのイルカが作るデザートとは、すっごいデザートとはいったいどんなものだろう。
できれば気持ちだけ受け取りたいような・・・。
だが、そんなこと勿論言えず。
「あ、そ、そう〜。」
乾いた笑いをカカシは浮かべた。
「じゃあ、楽しみにしてるね〜。」
カカシの予感は、ずばり的中したのだった。
イルカはカカシが任務で家に不在時に、デザート作りの練習をしているらしかった。
任務が終わり家に帰ると、そこかしこに甘い匂いが漂っているのだ。
頑張ってくれているんだな〜。
嬉しい思いと裏腹に、どんなデザートを作っているのが若干、心配になった。
しかし、現物の練習で作ったデザートは食べてしまったのか、見ることは出来なかった。
「どんなデザートなんだろう〜。」
不安に思いながら、近づいてくる自分の誕生日を楽しみにしてしまうカカシであった。
誕生日が近づいてきた、ある日。
任務の休憩時間、カカシは暗部の仲間に言われた。
「カカシ、お前、もうすぐ誕生日なんだってな。」
「そうだけど。なんで知ってんの?」
カカシは、一度だって仲間に自分の誕生日がいつだとか漏らしてことはない。
「そりゃあ、あれだ。」
暗部の仲間は肩を竦めた。
「イルカに聞いたんだよ。」
「イルカに。」
突然、出てきたイルカの名前に暗部の面で眉を顰めてしまう。
確か、この暗部の仲間は夏の祭りで迷子のイルカ一緒にいたりしてイルカと面識があった、多少だが。
「なんでイルカが、あんたに俺の誕生日を言うわけ?」
イルカはカカシの恋人だ。
現在、心と体の成長を大事に見守っている可愛い恋人なのだ。
ちょっと子供っぽいところもあるけれど。
その恋人が自分の知らないところで、誰かに会っていたら面白くない。
暗部の同僚と中忍のイルカが仕事関係で会うとは思えないので、プライベートで会っていたに違いない。
そのことを思うとカカシは不機嫌になった。
「どこでイルカに会ったのさ。」
「まあ、落ち着け、カカシ。」
仲間は、ぽんぽんとカカシの肩を叩く。
「問題は、そこじゃない。」
「じゃあ、どこよ。」
カカシは不機嫌そうに言う。
「問題はイルカの手作りデザートだ。」
「・・・ああ。」
それはカカシも、とっても気になっていた。
どんなデザートを作るのかと。
イルカのことだから、普通のデザートじゃないような気がする。
「里中で、偶然にもイルカと会った俺は、その手作りデザートの試食を頼まれた。」
「へ、へえ〜。」
「カカシさんの誕生日が、もうすぐだからデザートを作ってお祝いしてあげるんだと、嬉しそうにな。」
お祝いしてくれる気持ちは、とても嬉しい。
「で、何回もデザートを作って練習しているんだけど、美味しいかどうか試食してくれないかと頼まれた。」
「・・・ふ、ふーん。」
先を聞くのが怖くなってくる。
「いいか、カカシ。」
仲間は力強く、言った。
「どんなものが出てきても驚いたりせず、動揺しても顔に出さず、嬉しそうに食ってやれよ!」
更に念を押すように繰り返す。
「イルカはカカシのためだけに作っている。精神修行だと思って食べれば、なんてことない。」
「・・・一体全体、何を食べたの。」
「それはだな。」
暗部の仲間は、怪談でも話すような低い声になる。
「・・・・・・聞きたいか?」
「うん、まあ。」
「聞いて後悔しないか?」
「多分。」
「じゃあ、言うが。」
仲間は恐ろしいことを話し始めた。
「イルカがカカシの誕生日に作ろうとしているのはデザートは、だなあ。」
「もったいぶらずに早く言えって。」
「なんでも、異国のデザートをテレビで見たとかで、その改良バージョンの斬新で新食感の創作デザートみたいなやつだ。」
なんだか聞くに恐ろしくなってくる。
「いいか、俺はなあ。」
仲間は悲しげな声を出す。
「甘いコーヒーで炊いたご飯の上にプリンを乗せて、その上からカラメルをたっぷりとかけられたものを食べさせられた。」
イルカの作るものはカカシの予想を越えていた。
「なんでも異国のデザートでライスプディングとかってやつをテレビで見て、思いついたとか言っていた。」
「あんた、食べたの?」
一番、訊きたかったことをカカシは訊いた。
「あったり前だ!」
暗部の仲間は叫ぶように答えた。
「食べてみてと言う、無邪気なイルカに勧められて食べるのを断れるか?食べている真ん前で正座して首を傾げて心配そうに顔を覗き込まれて、美味しい?と可愛く何度も訊かれて否定できるか?」
「・・・うーん。」
どうだろう、とカカシは考える。
「・・・無理かも、しれない。」
「だろ?無理だろ。だから俺は死ぬ気で食べた。不味いことはないが、できたら別々に食べたかったのが本心だがな。」
そこで暗部の仲間の話は終わった。
「だから誕生日に何が出てきても、心の平静を保て。」
それが言いたかったらしい。
とりあえず、暗部の仲間にイルカと二人で会わないように釘を刺してカカシは、どきどきとある種の緊張感を持って自分の誕生日を迎えた。
誕生日当日まで任務であったので、当日の昼頃帰るとイルカは家にいなかった。
テーブルの上イルカにメモが残してあった。
そこには任務に行くことと夕方には帰宅する旨が書かれてある。
「いないのか・・・。」
イルカに家にいないことに、ちょっと寂しくなった。
ふと、メモの横に一枚の紙が置いてあった。
どうやら、カカシの誕生日を祝う為に作るデザートか何かの材料が書いてあるらしい。
そこには、板チョコ一ダースやらメープルシロップたくさんやら、バニラアイスに生クリームやらが書いてあった。
「イルカは何を作るつもりだったんだろう・・・。」
途中まで考えてみたがカカシにイルカの考えることは想像できなかった。
夕方には帰宅するメモにはあるのにと暗くなってもイルカは帰って来なかった。
そのことにカカシはやきもきしてしまう。
イルカが任務で怪我してないかとか、要らぬ心配をしてしまっていた。
今日は帰って来ないのか、と思った時、家の外で人の気配がした。
「イルカ!」
その気配はイルカであった。
カカシが間違うはずはない。
イルカの気配は何故か、玄関先から動かず家の中に入ろうとしない。
しばらく待っていたのだが、焦れたカカシが玄関の扉を開けてしまった。
「イルカ、何をしているの?早く入ってきなさいよ。」
「あ、カカシさん。」
玄関の灯りで照らされたイルカは任務を頑張ってきたのか、あちこち汚れていた。
服も顔も、泥だらけだ。
手には擦り傷がある。
「た、ただいま。」
「お帰り、イルカ。」
イルカは後ろ手に持っていた何かをカカシに差出してきた。
小さな白い紙の箱だ。
甘い香りがする。
「えっとね、これケーキ。任務の帰りに買ってきたの。」
「・・・ケーキ?」
「ほんとは手作りしたかったんだけど、急に任務が入ちゃって・・・。」
もごもごとイルカは小さい声で話す。
「手作り出来ないから、それでケーキ買おうと思って。任務が終わってから、お店に行ったら閉店間際で大きい円いケーキがなくてショートケーキしかなくて・・・。」
イルカは申し訳なさそうにしている。
「カカシさんの誕生日、盛大にお祝いしたかったのに。」
悔しそうな顔をしていた。
「ありがと、イルカ。」
イルカの優しい気持ちにカカシは胸があったかくなり、イルカの差出してきたケーキの箱を受け取った。
そしてイルカの手を引っ張る。
「さ、家に入って。そんなところで、いつまで立ってないで。」
家に入ってきたイルカの肩に手を回す。
「俺はイルカの気持ちだけで、十分過ぎるほど嬉しいんだから。」
家に入り、手と顔を洗ったイルカは買ってきたケーキの箱を開けた。
「苺のショートケーキ一個しかなかったんだ。」
「いいよ、それで。」
「じゃ、ロウソウ立てるね。」
イルカは店から貰ってきたと思われる、カカシの年の分だけのロウソクをショートケーキの上に立てていく。
「ああっ!」
「どしたの?」
「ロウソクが・・・。」
ショートケーキの上にカカシの年の分だけのロウソクを立てるのは無理だったらしい。
「どうしよう、せっかく、ロウソク貰ってきたのに〜。」
悲しそうな声をイルカは出した。
本気で悲しがっている。
「いいっていいって。」
カカシはイルカの頭をな撫でてしまう。
「立てた分だけ火を点けて消すから。」
「でも・・・。」
ちょっとイルカは納得がいかないらしい。
誕生日には年の分だけケーキをロウソクに立なきゃと思っているのだ。
「じゃあさ。」
カカシはイルカを抱き寄せると、そっと耳に囁いた。
「ロウソクが足りない分はイルカが俺にキスしてよ。」
その言葉にイルカの体が、ぴくっと反応した。
「え、と、キス・・・。」
そんなこと言葉だけで恥ずかしいのか、ほんのりと顔が赤くなる。
恋人だからキスはしているけれど、そんなに頻繁にはしていない。
一日一回くらいだ。
それでもイルカには多いらしく、キスしようとすると逃げられてしまうことが多い。
「イルカがしてくれないなら、俺がしちゃおうかな〜。」
そう言うとイルカは更に赤くなったのだが。
カカシの望むとおりキスをしてくれた、それもたくさん。
イルカにキスされると、とても幸せな気持ちになる。
俺のあの子は本当に可愛いなあ。
思わず、イルカを抱きしめるとイルカもカカシに抱きついてきた。
そして耳元で言われたのだった。
「誕生日おめでとう、カカシさん。」
最高の誕生日であった。
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