うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 あの子の誕生日
里の商店街に夕飯の買い物に来ていたカカシは、ある店の前で足を止めた。
その店は可愛い感じの店で中からは、甘い香りが漂ってくる。
店の中のショーウィンドウには見た目も可愛く、色も鮮やかな華やかで美味しそうなケーキが陳列されていた。
「ケーキか・・・。」
きっとイルカも好きなんだろうな、とカカシは思った。
自分は甘いものが苦手であるが。
華やかな見た目につられてケーキを見ていると、あるケーキが目に止まった。
円くて白くて赤い苺が飾られたケーキ。
それは所謂、誕生日ケーキというものなのだろう。
「そういえばイルカ、十四歳になったって言っていたっけ。」
誕生日は、とっくに過ぎたけどケーキを買っていったら喜ぶかもしれない。
遅くなったけど、イルカの誕生日をお祝いしてあげたら・・・。
イルカは、どんな顔をするだろう。
考えると楽しくなってきたカカシは店の中に足を踏み入れた。
言うまでもなく、イルカの誕生日ケーキを買うために。
誰かのために誕生日のケーキを買うなんてカカシの人生で初めて経験である。
うきうきしながら店員にイルカの名前と誕生日の祝いの言葉をケーキの上のチョコレートの板に書いてもらう。
それは、とても楽しいものだった。
勿論、イルカの年の数だけ蝋燭を貰うのも忘れなかった。
「じゃーん!見て、イルカ!」
夕方、任務から帰ってきたイルカにケーキの箱を見せるとイルカの目は、きらきらと輝いた。
星でも飛び散るがごとく、輝きを発している。
「これ、なーんだ?」
カカシが言うとイルカが、はい!と元気よく手を挙げた。
「ケーキでしょ?すっごく甘い匂いがするもん!」
箱を抱えたカカシに飛びついてくる。
「ねえねえ、そうでしょう?カカシさん。」
イルカに飛びつかれたカカシはケーキを落とさないように箱を、しっかりと持つ。
「当たり〜。そう、ケーキだ〜よ。」
箱をイルカの頭上に翳した。
「そう!ケーキなんだ!」
ぱぱっとイルカの顔は明るくなる。
余程、ケーキが好きらしい。
それともケーキという単語に弱いのか。
「すごーい!カカシさんが買ってきたの?」
「うん、そう。」
夕飯後に食べようね、と言い掛けたカカシだったがイルカの次の発言は軽くカカシの予想を上回っていた。
「じゃあ、今日はケーキが夕飯なの?」
「・・・・・・え。」
「ケーキ食べたい!」
イルカは熱心な目でカカシを見つめてくる。
その瞳は情熱的だ。
「あ、あのね、イルカ。」
イルカの情熱に、かなり圧倒されながらカカシは、何とか言った。
「ケーキは夕飯の後です。ちゃんと夕飯食べたら、食べていいよ。」
「ええ〜。」
がっかり、とイルカは肩を落とした。
「夕飯、食べたらお腹いっぱいになっちゃうよ〜。そしたらケーキが食べられない・・・。」
無意識なのか意図的なのか、瞳をうるっとさせてイルカはカカシの腰に抱きついてくる。
腰に抱きついてきてカカシを見上げた。
「ケーキ、今、食べたい。夕飯は明日、食べるから。」
「あの・・・。イルカ?」
「ケーキ食べたいなあ、駄目?」
ねえ、カカシさん?と小首を傾げて、ケーキを食べたいと訴えてくる。
強請るイルカが妙に可愛く見えてカカシは、くらくらっときてしまった。
ケーキを食べてはいけないと言っているカカシの方が悪者に思えてくる。
このままだと、やばい・・・。
夕飯も食べさずに、イルカにケーキだけを食べさせてしまう危険性がある。
イルカの術中に嵌ってしまう・・・。
そう予感したカカシは素早くケーキを冷蔵庫にしまった。
一先ず、イルカの目の前から消してしまう。
冷蔵庫を、ばたんと閉めると未だ腰にしがみ付いたままだったイルカを、ひょいと抱き上げた。
「夕飯、食べてからね。ケーキは。」
優しく言い聞かす。
「はーい。」
ようやく、イルカも諦めたようだった。
「夕飯はイルカのリクエストのカレーだよ。」
カレー生活は結局、二週間目に突入していた。
暗部の仲間から差し入れされた本で他の料理も作ってはみたものの、イルカには受けが悪く、結局カレーに行き着いていた。
まあ、イルカが好きならいいか・・・。
半ば、諦めの境地、というか悟りの境地に入っているカカシである。
イルカも結構、食べるようになったしね。
と、いってもカカシが食べる量よりは断然、少ないし、食べるスピードも余り早くなっていないけれど。
イルカはカカシと食事をするのが楽しいようなので、そこはいいかなと考える。
楽しい食卓ってやつかなあ、これが。
漠然と思ったりした。
「ごちそうさま!」
頑張って夕飯を食べ終えたイルカが手を合わせた。
「美味しかったです!」
カカシに食事の感想を述べ食べた皿を流しで洗うと、にこにこしながら再び食卓に着いた。
「ご飯、ちゃんと食べたよ。」と言っている。
つまり、カカシに、それとなく催促しているのだ。
お待ちかねのケーキを食べていいか、と。
「うん、偉い偉い。」
カカシが褒めてイルカの頭を撫でると嬉しそうにする。
イルカの熱烈なラブコールに応えてカカシは冷蔵庫からケーキを持ってきた。
それと切り分けるための包丁や食べるためのフォークやお皿。
ケーキを箱から取り出そうとしていると、わくわくとした様子でイルカがカカシの手元を覗き込んできた。
そしてケーキが姿を現すと感嘆の声を上げた。
「すっごーい!大きくて円いケーキだ!」
それからケーキの上のチョコレートの板に目がいく。
「あっ!俺の名前が書いてある!それに・・・。」
イルカが目を、ぱちぱちとさせる。
「誕生日おめでとうって。」
なんで?という顔してイルカはカカシを見た。
「俺の誕生日って、もう終わったよ。」
「まあ、そうだねえ。」
カカシは、ケーキに蝋燭を立てながら言う。
「イルカの誕生日に俺はいなかったし。遅くなったけど、イルカの誕生日のお祝いしたいなって思ったんだよねえ。」
小さな火遁で、ケーキの上の蝋燭に器用に火を点ける。
「さ、イルカ。蝋燭の火を消して。」
部屋の明かりを消すと蝋燭の火、十四個が部屋を照らした。
蝋燭にイルカが顔を近づけると、ふーっと一気に吹き消した。
蝋燭の火が消えると部屋には明かりが戻る。
部屋に明かりが戻るとイルカは珍しく、もじもじとしながらカカシに近寄ってきた。
頬が、ほんのり赤くて照れているようだ。
「ん、どうしたの?イルカ。」
カカシが訊くとイルカが、わっとカカシに飛びついてきた。
「カカシさん!」
「えっ、ちょっとイルカ!」
飛びつかれたカカシは、その小さい体の思わぬ力で床に倒される。
だがイルカは、そんなことに構わずにカカシの体の上に乗り抱きついてきた。
「誕生日ケーキだなんて、すっごい嬉しい!」
「そ、そう?」
「うん、ありがとうカカシさん!ありがとう!」
「なら、よかったです・・・。」
「カカシさん、大好き!」
その言葉にカカシの体は固まった。
大好き、と言われたことに衝撃を受けていた。
そんなカカシに気づかず、イルカは尚も繰り返す。
「本当に嬉しい!カカシさん、大大大好き!」
大好き・・・。
イルカが自分を大好きって言った・・・。
それはケーキを発端としてイルカが発した言葉だって言うのは判っていたが・・・。
ケーキを別にしてもイルカがカカシのことを好きだというのも本当だと思うのだが・・・。
イルカに大好きと言われて、自分の中に沸き起こってくる、この感情は何なのだろう。
カカシが、その答えを突き止める前に、その感情の原因となった本人は、あっさりとカカシから離れて本命のケーキの方へと行ってしまった。
ケーキを嬉しそうに眺めて「全部食べていいの?」なんて言っている。
フォークを手にして構え、有言実行しそうな勢いだ。
「あっ!こら、待ちなさい!」
慌てて駆け寄ったカカシは急いでケーキを切り分けた。
「一度に全部食べたら、お腹壊すでしょ。」
残りは明日ね、とケーキを冷蔵庫に、さっさと入れてしまう。
イルカは嬉しそうにケーキを食べ始める。
カカシは甘いものが苦手なのでイルカに一口だけ貰った。
嬉しそうなイルカにカカシの心は温かくなる。
ケーキ買ってきてよかったなあ。
遅くなったけど誕生日のお祝いしてよかったなあ、とそこまで考えて、まだ言っていなかった言葉を口にした。
心をこめてイルカに伝える。
「イルカ、誕生日おめでとう!」
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