うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 あの子のプレゼント
「あー、もう。嫌になるなあ」
カカシはぶつくさ言いながら里への道を急いでいた。
「こんな時期になんだって里から離れた任務しなきゃいけないわけ?」
「それは任務だからだ」
隣を走っていた暗部の仲間が、ぼそりと呟く。
「里から離れれば帰るまで時間は掛かるし任務は予定以上に長引くし」
カカシの不満は続く。
「今時期は色々と準備しなきゃいけなこと盛り沢山で忙しいってのに、
恋人たちの仲を引き裂くようなことして・・・」
走りながら、ぐっと拳を握り締めてカカシは叫ぶように言う。
「楽しいのか上層部?よりによって今日が里への帰還日になるなんて!」
今日とは、十二月二十四日。
世間でいうところの所謂、クリスマスであった。
カカシは暗部の任務で里を離れ、しかも任務が長引き里へ帰ってくるのが帰還予定日より遅くなっていた。
十二月に命令された任務なので嫌な予感はしていたが、それがドンピシャで当たるなんて、
とカカシはがっかりする。
「あー、イルカにあんなことやこんなこともしてあげたかったのに〜」
カカシは嘆く。
イルカとはカカシの恋人で年は下で三度の飯よりもお菓子やジュースが大好きな、少々困った性癖の
持ち主である。
しかし、そんなことを差し引いてもカカシにとってイルカはかけがえのないほど愛しく可愛く、
まだまだ子供なイルカを色々な意味で傷つけたくないばかりに恋人としてのあれこれ最低限に我慢している毎日なのだ。
イルカといると日々、精進、精神修行と称した様々な試練があり、それを耐えている。
そんな中、恋人たちの一大イベントとも言えるクリスマスが到来した。
恋人たちの一大イベント、そう思っているのはカカシだけかもしれないが少なくとも本当にカカシは、そう思っており
クリスマスだから少しだけ、いつもよりちょっぴり大胆にしてもいいよね、とか考えていた。
何がちょっぴり大胆なのかカカシにしか分からないことだったが。
「なーのーにー!」
カカシは走りながら悔しげに器用に、じたばたした。
「入念に、この日のために準備してイルカを喜ばせようと思っていたのに!あわよくば俺からイルカに、いやイルカから俺に・・・」
危うい発言をしそうなところで仲間からタイミングよくストップが入る。
「カカシ、それ以上は言うなよ・・・」
「え〜、なんで」
「あのなあ、カカシ」
仲間の恨みがましい低い声が聞こえた。
「お前、今年は暗部のクリスマス会は欠席だろ?」
「うん、まあ」
「恒例のプレゼント交換会も出ないだろ?」
「そうだ〜よ」
何を言うのかとカカシは仲間の暗部を見る。
暗部は面の下から悲しい声を出した。
「カカシ、ここにいるやつ、全員な、クリスマス会に出席するんだぜ」
「あー、そうなの」
「なんでか分かるか・・・」
「さあ〜」
そして悲しい現実が告白された。
「ここにいるやつ全員が生まれてこの方、恋人なんていないからだよ!」
しーんと静まり返る暗部の仲間たち。
沈黙が肯定を意味していた。
「えっと、ごめん」
とりあえずカカシは謝った。
なんだか、ひどく悪いことをしたような気がする。
「分かればいい」
短く言った仲間の暗部は小さく溜め息を吐いた。
他、全員もいっせいに溜め息を吐く。
もしかしたら自分たちの悲しい現実とカカシの愚痴と称した幸せそうな惚気を聞いて、密かに面の下で涙していかもしれなかった。
「ただーいまー」
ばん、とカカシがイルカ宅の玄関扉を勢いよく開ける。
時刻は夜、遅い。
「イルカー」
愛しい人の名を呼んだ。
「帰ってきたよ、俺。ぎりぎり、クリスマスイブになっちゃったけど」
クリスマスイブは十二月二十四日だが、もう深夜を回っている。
十二月二十五日なりそうな時間帯だった。
部屋の中は真っ暗でイルカは寝ているかもしれない。
イルカは明日、任務があるのかもしれず起こすのは忍びなかったが、それでもカカシはイルカに会いたかった。
寝ているイルカの寝顔を見るだけでもいい。
せっかくのクリスマスだし、任務で離れていたから傍にいたい。
「イルカー」
そっと名を呼び、暗い室内にカカシは足を踏み入れた。
イルカを起こさぬように静かに気配まで消して。
だが、しかし。
カカシが室内に数歩、足を踏み入れると、すぐにぐしゃと何かを踏み音を出してしまった。
何だ?と思って暗い室内に目を凝らす。
目が暗闇に慣れ、室内の様子が分かるにつれてカカシの顔が険しくなる。
眉間に皺がより、目がつり上がった。
ばちっとカカシは容赦なく電気を点けた。
室内が明るくなる。
一目でイルカの部屋の様子が把握できた。
それを見てカカシは夜なのにクリスマスなのに大声を出していた。
余りにびっくりして・・・。
「なんじゃ、こりゃ!」
そう言いたくなるほどイルカの部屋の床にはゴミが散乱して散らかっている。
ジュースのペットボトルと紙パック、それにお菓子の袋は包み紙が所狭しと投げ出されていた。
さきほどカカシが踏んだのはチョコレートの包み紙の銀紙である。
自分がいなくなった数日の間に何があったのか・・・。
自分が任務に出る前は少なくとも、こんな状態じゃなかったのに。
ゴミはゴミ箱に、いつも言っていたのに。
カカシが呆然としているとベッドの方から声がした。
「ん〜、なにー。」
眠そうな声で目を擦っていたのは、この部屋の持ち主、イルカであった。
ふわあ、と大きな欠伸をしたベッドの上で起き上がりイルカは薄目を開けて、ぼーっとカカシを見ている。
「だれー?」
寝ぼけているのか今にも、また寝そうな感じであった。
「イルカ、俺だよ。帰ってきたよ」
床に散らばるゴミを避けてベッドにいるイルカに素早くカカシは近づく。
そしてイルカの寝ているベッドに腰を下ろす。
部屋の散らかりようは後で訊くとしてカカシは、やっと会えた恋人に目を細める。
やっぱり、いつ見ても可愛い。
起きていても寝ていても可愛いなあ、とにやけていた。
「カカシさん?」
「うん、そう」
「ほんとに?」
「そうです、本物だよ」
「・・・嘘」
「本当だってば」
いまだ夢の中にいるイルカに痺れを切らしたカカシはイルカの手を取って自分の顔を触らせた。
「ほら、俺でしょ」
ね?と顔を覗き込むとイルカの目が大きく見開いた。
ようやくカカシを認識したらしい。
「カカシさん!」
ぱちっと目を開いたイルカはカカシの名を呼ぶと、ばっとカカシの首に抱きついてきた。
抱きついてきたイルカを当然、カカシは受け止めた、しっかりと。
「帰ってきたんですね!カカシさん」
カカシに会えて嬉しいと全身でイルカは喜びを表す。
「うん、遅くなってごめんね。もう夜も遅くて眠っていたのに起こしちゃって」
「そんなのいいんです」
ぶんぶん、とイルカは首を横に振った。
「カカシさんが帰ってくるの、ずっと待っていたから」
会いたかった、とイルカに言われてカカシは、じーんときてしまう。
「イルカ・・・」
「カカシさん・・・」
二人でなんとなく見つめあって、いいムードになりそうで。
カカシとイルカの顔が近づいてキスに一歩手前までいったのに。
「ああっ!」とイルカが引きつったような声を出した。
「どうしたの、イルカ」
思い切り残念そうな感じを滲ませた声でカカシは訊く。
「何かあった?」
「何かっていうか、ええと、その」
抱きしめられたカカシの腕の中でイルカは、もじもじとしている。
「あの、俺」とごにょごにょと口に中で呟いた。
「カカシさんが帰ってくるまで部屋の掃除しようと思っていたのに・・・」
結局、実行できなかったらしい。
「そうだねえ。」
部屋を見回し、カカシは肩を竦めた。
「どうしたの、これ」
腕の中にイルカを問い詰めるように見る。
「お菓子やジュースのゴミばっかりだけど」
カカシの腕の中でイルカの体が小さく竦む。
逃げ出そうとしてカカシの胸を押してきた。
しかしイルカを逃すカカシではない。
「もしかして俺が任務でいない間、飯も食べずに、お菓子やジュースだけで過ごしていたなんて・・・」
にっこり笑ったカカシの顔が空恐ろしい。
「言わないよね?」と有無を言わさぬ迫力で言われた日にはイルカは総て白状せざるを得なかった。
「・・・というわけで、決っして故意にそうした訳じゃなくて」
しどろもどろにイルカは言い訳する。
「年が明けたらアカデミーの先生になるための筆記試験が控えていて」
その受験勉強をイルカはしていて食事が疎かになってしまったらしいのだ。
イルカがアカデミーの先生の職を希望しているのはカカシも知っていた。
夜中、遅くまで一生懸命に勉強しているのも知っている。
要するに食事を二の次三の次にして熱心に勉強していたのだ。
「まあ、分からなくもないけどねえ」
勉強を優先した結果がイルカの部屋の有様だった。
食事を取らずに、代わりにお菓子やジュースを主食にしていた。
「勉強していると食事が面倒になっちゃって」
小さい声でイルカは最後に、こう言った。
「それに一人だとご飯、どうでもよくなっって、まあ、いいかな〜って」
一人なると食事が面倒になる気持ちはカカシも分からなくはない。
「気持ちは分かるけど食事は、きちんと取らないと駄目だよ」
優しく諭すとイルカは素直に返事をした。
「はい」
「忍者は体が基本なんだから、それはアカデミーの先生になっても同じでしょ」
「うん」」
「それにイルカが食事をしなかったら俺が心配するよ、すっごく」
「ごめんなさい」
項垂れたイルカの頭をカカシは、よしよしと撫でる。
「もしも次、俺が任務でいなくても一人でも、きちんと食事はしてね」
指切り拳万で約束した。
「それより」と今度はカカシが謝る番だった。
「イルカ、ごめんね」
抱きしめたままのイルカに詫びる。
「クリスマスなのに俺、イルカにプレゼント、何にも用意してないよ」
「え、プレゼント?」
イルカが不思議そうな顔をした。
「うん、イルカに欲しいものを訊いて、今日、贈ろうと思っていたんだけど」
あいにくとカカシは任務で里からもイルカからも離れたところにいたのだ。
事前に準備するのは無理だった。
しかも時間も零時を過ぎて二十五日になっている。
イルカを喜ばせたかったのに、と肩と落とすカカシにイルカは言った。
「プレゼントなら、もう貰ったよ」
明るい声だった。
「え、いつ?」
「たった今」
「何を?」
誰に?いつ?というカカシの質問が続く。
イルカは、その質問に元気に答えた。
「サンタさんが今日、カカシさんに会わせてくれたこと!」
「サンタさん・・・」
イルカの言うサンタさんとはサンタクロース、異国でクリスマスに子供にプレゼントを贈る人のことを指していると思われる。
「イルカ、サンタクロースを信じているの?」
もう十九歳なのに、と疑問がカカシに口から自然に出た。
逆に訊かれた。
「カカシさんは、サンタさんを信じてないの?」
「え、いやあ、そう言われるとねえ、見たことないし」
「サンタさんはいるんだって!本当に」
イルカは力説した。
「姿は見えないけどクリスマスに必ず、何か好いことをプレゼントしてくれるんだ!」
「例えば、どんなこと?」
「ええっとねえ」
きらきらっと子供のように目を輝かせてイルカは話す。
「去年は一年間買い続けた当たり付きのアイスが、やっとクリスマスに当たったし!」
「うん」
「一昨年は商店街のクリスマスのくじ引きで新発売のジュース、1ケース当てたし!」
「うんうん」
「その前は当たり付きのガムが二連続、当たったんだ!」
総て、お菓子やジュース関係なのがイルカらしい。
「そして今年はクリスマスにカカシさんが帰ってきて会えたよ!」
にこにこしてイルカは言った。
「毎年、クリスマスには好いことあるもん。だからサンタさんはいるんだよ」
それがイルカの理論らしい。
「そっか」
なんとなく・・・、なんとなくイルカの気持ちがカカシにも分かった。
姿を見たことがないからといって、そのサンタさんの存在をと否定することもない。
むしろ姿を見ないことが存在すると信じることに繋がるのかもしれない。
それに・・・。
「イルカが言うなら、そうなんだろうね」
イルカの言うことならカカシも信じたくなる。
一緒に同じものを信じることによって絆が深まる気がした。
「じゃああ」
ぎゅっとカカシはイルカを抱きしめた。
「部屋の掃除は明日、一緒にやろうか」
「はーい」
「それからクリスマスは終わったけどケーキを買いに行く?」
「行く行く!」
ケーキの言葉にイルカは瞳をきらめかせる。
「ケーキ食べたい!」
「それはご飯をちゃあんと食べてからね」と釘を刺してカカシはイルカの顔を覗き込んだ。
「イルカはクリスマスにプレゼント貰ったけど、俺も欲しいなあ」
ねだる様に甘い声を出す。
「プレゼントってカカシさんは何が欲しいの?」
無邪気に訊いてくるイルカにカカシは自分の唇を指さした。
「ここにイルカから・・・」
魅惑的は笑みを浮かべてカカシはイルカに耳元で囁く。
「キ、ス、し、て」と。
わざと区切って強調した。
「あ、そ、そう」
カカシの意図を理解した途端にイルカは真っ赤になる。
こういう場面に慣れてないのが丸分かりで初々しい。
ほんとーっに俺の恋人は可愛いなあ。
だらしなく目じりを下げるカカシは普段の格好良さもどこへやら。
ただただ愛情たっぷりの顔で愛しげにイルカを見ている。
最終的にはイルカがいればカカシは、それだけでいいのだ。
「じゃ、カカシさん」
顔を真っ赤にしたイルカが小声で言う。
「目、閉じて」
「オッケー」
言われたとおりに目を閉じると、ゆっくりとイルカの気配が近づいてきて、ふっと掠めるようにカカシに唇に何かが触れた。
あったかくて柔らかいイルカの唇、愛しい人からの口付け。
それだけ幸せになる。
天にも昇る気持ちだ。
「ありがと、イルカ」
幸せな気持ちでカカシは目を開けると、やっぱり幸せそうなイルカが目の前にいた。
そんなイルカに堪らなくなって、カカシはイルカの顔中にキスの雨を降らす。
「大好き、イルカ」
「・・・俺もです」
恥ずかしそうに言うイルカに愛おしさが溢れる。
「そうだ、イルカ。メリークリスマス!」
遅ればせながら言うとイルカも「メリークリスマス、カカシさん」と返してくれた。
その年のクリスマスはカカシにとって人生で一番、最高なクリスマスとなった。
そうしてカカシとイルカ、二人のクリスマスは幸せに満ちたものになったのだった。
まさに恋人たちの一大イベントとして幕を閉じた。
後日。
カカシが聞いたところによると暗部のクリスマス会も、それなりに盛況だったらしい。
プレゼント交換会もつつがなく行われて楽しかったということだった。
同じ面子で忘年会も新年会もするらしいことを聞いたのだがカカシは早々に欠席届けを出していた。
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