うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 あの子の不思議
カカシがイルカと里で再会して、間もなくの頃。
イルカが十四歳でカカシが十八歳になろうかという時期だ。
里での休暇中に暗部の任務で呼び出されたカカシは、珍しく仲間に愚痴を溢していた。
「イルカがさあ。」
「イルカって、あのちびっ子か?」
「そう。」
カカシは溜息を吐いた。
「ご飯を食べないんだよねえ。」
深刻そうに言う。
「なんでだろ?」
「なんでって言われてもなあ。」
カカシに話しかけれた仲間は肩を竦めた。
「この前、皆で子供の栄養についても本やら読んでアドバイスしただろ?ちびっ子の食事は改善されたんじゃないのか。」
「そうなんだけど・・・。」
面の下でカカシは顰め面だ。
「いくらか、ましになったけど、絶対量が足りてないんだよ。」
「ふーん。」
「ジュースやらお菓子やらが大好きでねえ。」
困っちゃう、なんて言っている。
「なら。」
仲間は至極、最もな事を言った。
「ジュースやらお菓子やらを禁止にしたらいいだろ。」
そしたら食事を食べるざるを得ないだろ、と。
しかしカカシは首を振る。
「それは駄目。」
「なんで。」
「だって可哀想じゃない。」
「可哀想?」
「そうだ〜よ。」
カカシの周囲の空気が柔らかくなった。
イルカを思い出して面の下で微笑んだようだ。
「好きなものを禁止したら可哀想だし、それに。」
ふっとカカシは遠い目をする。
「それは一度、やってみた。」
「で?」
「だけども敢え無く、俺がギブアップ。ダメージを喰らいました。」
「どうしてだ?」
訳が分からず、仲間は首を捻った。
ジュースやお菓子を禁止したカカシが、何ゆえダメージを受けるんだ?
「だってさあ。」
カカシは言い訳じみたことを述べる。
「お菓子食べたらご飯が食べれないでしょ、って理由を言って禁止したらイルカは素直に頷いて、一応、分かったって言ってくれたんだけど・・・。」
はあと、またもや溜息を吐き出した。
「分かったって言ったんだけど、その後、すっごく寂しそうな悲しそうな切なそうな顔をするから、俺、なんだかイルカのことを苛めているみたいな気分になっちゃってさ〜。」
今度は更に深く、溜息を吐く。
「こう、胸にぐさぐさとくる訳よ。」
「ふーん。」
「で、俺は考えた。」
「何を。」
カカシは言った。
「すっごく疲れさせて食欲を誘おう大作戦。」
「何じゃ、そりゃ。」
暗部の仲間がカカシの作戦名を聞いて呆れたような声を出す。
「なんて直球な作戦名だ。安直過ぎる。」
「別にいいでしょ。問題は、そこじゃないんだから。」
カカシは話を続ける。
「要するにイルカを疲れさせてお腹を空かせれば、必然的にご飯を食べるんじゃないかと思ったの。」
「まあ、妥当だな。」
「でしょ?で、やってみた。休みの日に修行をつけるという名目で朝から晩まで、イルカと体術の修行をしました。」
「へえ。」
「イルカは真面目だったし、覚えも良くて筋もいい。弱音を吐かず、熱心な生徒でした。」
「いいことじゃないか。」
仲間が言うとカカシは頷く。
「そう、そこはいいんだ。」
「じゃ、どこが駄目なんだ。」
仲間が突っ込むとカカシは遠くを見つめた。
「疲れてお腹が空いただろうから、奮発して豪華に焼肉でも食べようと修行が終わってからイルカを誘ったんだよねえ、焼肉屋に。」
「俺は焼肉大好きだぞ。」
「そう、結構、焼肉ってみんな好きだよね。でも・・・。」
ああ、とカカシは嘆きの声をあげる。
「で、食べに連れて行ったら、最初に冷たいものを食べたいってイルカが言うからアイス食べさせたら、イルカってば・・・。」
がっくりと肩をカカシは落とした。
「アイス食べたら寝ちゃったんだよ、焼肉屋で。」
「アイス食べただけで?」
「そう。疲れすぎて食欲より睡眠欲の方が勝っちゃったんだ、イルカは。」
「そういうタイプいるよな。疲れて、食べるタイプと寝るタイプのやつって。」
「結局、最後まで起きなくて俺が負んぶして連れて帰ったんだけどね。」
カカシの声のトーンが下がる。
「まあ、それは仕方がないとして・・・。俺はイルカが寝た後にきた注文した肉の数々を平らげるのに必死でした。」
しかも張り切って、たくさん注文したんだよね、とカカシは呟いた。
「それは、ご愁傷様だな。」
仲間は慰める。
「他にも今日はたくさん食べるだろう、と作った料理が余ると俺が全部、食べたりしているし・・・。」
カカシなりにイルカに食べさせようと、あれやこれやしているが、上手くいかないことも多いらしい。
そんなカカシを好意的な目で見ながら仲間が、ぽんと手を打った。
「そうか!それでか。」
「何が?」
不審な目をカカシが向ける。
「いや、な。最近、カカシが血色よくて健康的だなと思っていたんだが謎が解けた。」
「謎?」
「ちびっ子相手に食事に苦戦しながらもカカシも三食、きちんと食べているから健康なんだな。」
「そう言われればそうかも・・・。」
最近、体重が増えたような気がする、とカカシは自分の体を触ってみる。
前は適当に食べていたし。
「まあ、食べるのには個人差があるし、ちびっ子については、ぼちぼち、やってけばいいじゃないか。」
「そうなんだけどねえ。」
そう言ってカカシは考え込み、やがて言った。
「イルカといると心安らぐし、俺にとってもいいことなのかもねえ。」
カカシは任務を終わらせてイルカの待つ家に帰ることが、いつの間にか楽しみになっていたのだった。
text top
top