うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 あの子は甘い味




「・・・あ。」
夕暮れ時。
本当に偶々、偶然にも里中をカカシとイルカが一緒に歩いているところに出くわした。
出くわした、というか見つけてきたのは向こうだ。
それもイルカが。
「あっ、お兄さんだ!」
カカシと歩いていたイルカは嬉しそうな声を上げると、自分の方へと小走りに近寄ってきた。
「こんにちは!」
丁寧に頭を下げて挨拶をしてくる。



「おう、久しぶりだなあ。」
イルカの素直な態度に気持ちが和み、挨拶を返すとイルカの後ろで仏頂面をしている男が視界に入ってきた。
所属している暗部での同僚、カカシである。
イルカは、まだまだ幼さを残しながらもカカシとの恋仲なのだ。
イルカとは以前、数回会ったことがあり顔見知りで人懐こい。
「よう。」
一応、挨拶をするとカカシは、じろりと険悪な目付きで、こちらを睨むようにしてきながらも「どーも。」と一言、言う。
機嫌は良さそうではない。
それ以後、カカシとの会話は続かなかった。
「えーっと。」
分かっている、カカシはイルカがカカシがと一緒にいるのにも関わらず、カカシのことを放って他の誰かのところへ行ってしまったのが面白くないに決まっている。
イルカの関心が自分以外に向くのが嫌なのだ。
ここは早々に立ち去った方がいい、と的確に判断して立ち去ろうとしたのにイルカに引き止められた。



「お兄さん、何しているの?」
にこにこ、と無邪気にイルカは訊いてくる。
もう十九歳なのに、その無邪気は反則だろうと思いながら、つい答えてしまった。
「あー、夕飯、食いに。イルカは?」
「俺?」
イルカの後ろにいるカカシの目が、ぎらりと光る。
「あー・・・。いや、イルカ『たち』は何しているんだ?」
慌てて言い直した。
「俺はカカシさんと買い物!」
イルカは元気良く答える。
「夕飯の材料、買いに来たんだ。久しぶりに一緒に夕食作ろうかって。」
「へえ、仲がいいなあ。」
そう感想を漏らすとイルカの背後のカカシの雰囲気が、がらりと変わり、一変して穏やかな空気が流れてきた。



分かり易いやつ・・・。
心の中でおもいながら、暗部の同僚は肩を竦めた。
「そうかそうか。」
イルカの元気に釣られて頭を撫でてやると擽ったそうに、イルカは身を捩った。
そうするとカカシの態度が、再び、硬化する。
面白いやつだなあ〜。
もっとイルカを弄ってカカシで遊びたくなったが同僚は、ぐっと我慢した。
調子に乗ると碌なことがない。
本当に去ろうと思ったのにイルカが何の衒いもなく言ってきた。
「あ、そうだ!お兄さんも、うちに来て一緒に夕食、食べない?これから夕食、食べるんでしょう。」
「えっ!」
「みんなで食べた方が美味しいよ。」
悪気なくイルカは誘ってくる。
それは純粋な好意から言っているものだ。



「い、いやあ、俺はなあ・・・。」
カカシの目が恐ろしい。
殺気立っているのに、その殺気が間にいるイルカを通り越して自分のところにだけ漂ってくるのが恐ろしい。
器用な真似するなあ・・・。
その間にもイルカは後のカカシの様子に気づくこともなく話している。
「カカシさんって料理、とっても上手なんだよ。俺は苦手だけど。でも最近、カカシさんに教わって料理の腕が上達しているんだ〜。」
この間もカカシさんに褒められたよ、とイルカは楽し気に報告してくるが。
同僚の方は、それどころではない。
カカシのやつ、マジで不機嫌だ・・・。
逃げ出さなくては、と真剣に思い、脱出方法を考え始めた時だった。



「イルカ〜、飴、食べる?」
何の意図なのか、唐突にカカシがイルカに話しかけた。
「飴!」
ぱっと顔を輝かせたイルカがカカシの方を振り返る。
「食べたい!」
何しろ、菓子の類が大好きなのだ。
「そう。」
カカシは、にっこりと笑った。
「じゃあ、俺が食べさせてあげる。」
語尾には間違いなくハートマークが付いている、と暗部の同僚は思う。
いつの間にか、カカシの手の平には一粒の飴玉があった。
それを人差し指と親指で掴むと、あーんと口を開けたイルカの口の中へを入れてしまう。
親鳥が雛に餌を与える光景に似ていた。
「美味しい、イルカ?」



飴を口の中に入れたイルカは「うっ。」と呻くと、口元を押さえた。
顔が顰められている。
「か、辛い、この飴・・・。」
「辛い?」
「変な味がする・・・。」
「あー、ごめんねえ。」
カカシは、わざとらしく謝った。
「薄荷の飴だったかな。イルカは薄荷が苦手なんだよねえ。」
こくこく、と口を押さえたままイルカは頷く。
「じゃーあー。」
カカシが同僚の方を牽制するかのごとく、ちらっと視線を寄越した。
「俺が貰ってあげるよ〜。」
そう言うなりカカシは自分の顔をイルカの顔に近づけた。




ちゅっ。
唇が離れた時、そんな音がしたような気がする。
それってそれってそれって・・・。
暗部の同僚が確信を持ち、いい大人なのに、その事実に顔を赤らめているのに、イルカは何事もなかったかのように言った。
「カカシさん、ありがとう。」
「どう致しまして。」
イルカはカカシから新しい飴を貰って、早速舐めていた。
イルカの口の中に入っていた薄荷の飴は、今やカカシの口の中にある。
カラン。
カカシは口の中の飴を転がした。
暗部の同僚を見て、にやっとする。
「あま〜い。」
飴を舐めながら勝ち誇ったように笑っていた。



つまり。
カカシはイルカの口の中にあった飴を口移しで受け取ったのだ。
これ即ち、キスじゃないのか・・・。
イルカは気づいていないようだが。
恋する男はつええ〜・・・。
イルカを気の毒に思いながらも、内心、少し羨ましくなってしまう。
お互い揺るぎない信頼の上に恋人という関係が成り立っている。
ほんっとうに仲、いいんだなあ。
改めて思い、そうして馬に蹴られる前に速やかに立ち去るしか暗部の同僚に残された道はなかった。



後日。
暗部の同僚は仕事の時にカカシに訊いてみた。
「いつも、あんなことしているのか?しかも道端というか家の外で。」
「いっつもじゃないけどね〜。だいたいは家の中かな。」
カカシは、のんびりと答える。
わざとイルカが苦手な味の飴をあげては口移しで飴を貰う、つまりキスしているのかということだ。
「イルカは、あの手口じゃなくて、あれがキス・・・だって正しく理解しているのか?」
「あー、それはね。」
仮面を付けた上からカカシは口と思しき辺りに、人差し指を立てた。
「な、い、しょ。」
「・・・悪いやつだなあ。」
「いいじゃないの。」
面の下でカカシは薄っすら笑ったようだった。
イルカに口移しはキスではないと間違った知識を教えているらしい。
「こうでもしないとイルカとキスしたい時にキスできないし。普通にキスしようとすると逃げられちゃうからねえ。」



それに、とカカシは嬉しそうな声を出す。
「イルカから貰った飴は最高に甘いからね。」
大好き、と惚気けている。
「はいはい、さいですか。」
暗部の同僚は聞いているのが馬鹿らしくなってきた。
所詮、恋は人事他人事なのだ。
首を突っ込んではいけないものなのだ。
人の惚気話なんて聞いていると胸焼けがしてくる。
ちょっとだけ悔しかったので言ってみた。
「今度、イルカと会ったら俺も薄荷の飴でもあげてみようかな〜。」
キスだって知らなければ、俺にも口移しで飴くれるのかなあ、と。
その後で、言わなきゃよかった、と激しく後悔したのだった。






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