うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子
番外篇 あの子にチョコレート
「カカシ、これイルカに頼む」
任務が終わり解散の段階になってカカシは仲間の一人から、あるものを渡された。
ちなみに任務とは暗部のである。
「なに、これ?」
ずしり、と重い。
カカシは不機嫌そうな顔になった。
イルカに、これを?
しかも何故、イルカに。
「あ、俺も」
「俺も頼む」
それを見た他の暗部もカカシの手に、あるものを次々に渡してきた。
皆一様に似通っている。
「ちょっと!なんだってのさ」
余りの量の多さと重さにカカシはよろめいた。
「こんなに、たくさん。イルカに渡せっての?」
するとカカシにあるものを渡した暗部の仲間は、いっせいに頷いた。
「だって今日はバレンタインだからな!」
カカシに渡されたのは箱買いされた板チョコの山であった。
その答えにカカシは全く納得がいかなかった。
不満げに口を尖らす、面の下で。
「バレンタインは知っているけど、どーしてイルカにチョコを渡すのさ」
イルカへのチョコの橋渡しにされるカカシはたまったものではない。
第一、カカシとイルカは好い仲、要するに恋人関係にある。
いまだ清き関係ではあるけれど恋人には違いない。
キスだってしているし、お互い好きだと気持ちも確認している。
イルカはカカシにとって、とても大事な人だ。
その大事にしている人にバレンタインに託けて他の誰かからチョコレートを贈られて面白くないはずがない。
はっきりいって嫌だった。
だってバレンタインは愛の告白をする日だから。
そのことを強く訴えると暗部の仲間の一人は肩を竦めた。
「遅れているな、カカシ」と宣う。
「何がよ」
「これは、そういう愛の告白チョコではない」
暗部の仲間は胸を張った。
「今、流行の友チョコというやつだ」
「友チョコ〜?」
「そうだ」
得意げに説明された。
「最近は友達同士でチョコを交換するらしい。バレンタインもコミカライズされてきたな」
「それ、意味が違うし」
しゃれた単語を使った暗部にすかさず、突っ込むカカシ。
「ただ言いたかっただけでしょ」
「じゃあ、ノベライズ」
「全く意味が違う」
冷たく言い返す。
「だいたいにしてイルカと友達じゃないじゃない」
冷静に指摘した。
暗部の仲間は確かにイルカを知っている。
だが一方的にだ。
イルカは暗部の仲間のことを知る由もない。
なんたって暗部は正体を隠して任務に遂行しているからだ。
「う・・・」と暗部の仲間は一瞬、黙り込んだが、すぐに反撃してきた。
「だったら、しんチョコ」
「しんチョコ?」
「親友のしん」
「もっと違うでしょうが!」
カカシの雷が落ちた。
「イルカは俺の大事な恋人なの。手出しは無用だっての!」
「別になあ」
暗部の仲間たちは面をした顔を見合わせた。
「イルカに手を出そうなんて」
「これぽっちも思ってない」
「ただ、俺たちも」
「一年に一度の華やかなイベントに」
「ちょっと参加したいだけだったんだ」
「だってなあ」
暗部の仲間たちの間に哀愁が漂う。
ひどく哀しいものだった。
「俺たち仕事がら金だけはあるけど・・・」
「生まれて、この方・・・」
「バレンタインに・・・」
「チョコをあげたことも・・・」
「もらったこともないからさ・・・」
場は、しーんと静まり返った。
慰めようにも相応しい言葉が見つからない。
もしかしたら面の下で涙している暗部もいたかもしれない。
「だからなあ、カカシ」
暗部の一人はカカシの肩を叩く。
「イルカにチョコをあげるくらいいいだろう?」
「そうそう、しかも板チョコだし」
「イルカは甘いもの大好きだし」
「デコレーションされた可愛いチョコをあげることも考えたがカカシに遠慮したんだ」
「おまけにイルカに直接渡したらカカシが怒ると思って」
「皆で相談してカカシから渡してもらうことにしたんだ」
気が利いているだろ、と主張した。
「気を利かすならイルカにチョコをあげないのが一番だと思うけど」
つい、嫌味たっぷりにカカシは言ってしまう。
「まあまあまあ、固いこというなよ」
「じゃ、頼んだぞ」
「ちゃんと渡せよ」
「あ、ホワイトデーは気にしなくていいと伝えておいてくれ」
言うだけ言うと暗部の仲間たちは、あっという間に姿を消してしまった。
ホワイトデーのことも、ちゃっかり言い残して。
後には大量の板チョコの入った箱を抱えたカカシ。
「くっ、覚えていろよ」と、ものすごく悔しそうにしていた。
「ただいま〜」
結局、大量のチョコを持って家に帰ることになった。
イルカが玄関まで出てきてカカシを出迎えてくれた。
「お帰りなさい、カカシさん」
無邪気に飛びついてくる。
カカシが帰ってきて嬉しくて堪らない様子のイルカにカカシは目を細めた。
「ただいま、イルカ」
飛びついてきたイルカを優しく抱きしめてカカシは幸せを噛みしめる。
もうすぐ二十歳なのに体は少し細くて頼りない。
背はだいぶ伸びたけれども。
「わー、カカシさん、いい匂いがするね。甘い匂いだ」
イルカは子犬のように、くんくんとカカシの体の匂いが嗅いでいる。
可愛い仕草だ。
衝動的にキスしたくなったのを抑えてカカシは持っていた両手の紙袋をイルカに翳した。
「これ、イルカにって」
カカシは暗部の仲間に渡すように言われたチョコを大きな紙袋に入れて持って帰ってきていた。
大きな紙袋は何袋もある。
「え、なに?」
イルカの目が期待に輝く。
甘い匂いから見当はついていると思われる。
「チョコだよ」
袋の中味を見せるとイルカは飛び上がって喜んだ。
「すっごーい!たくさんある!」
「うん、まあね」
「どうしたの、これ?」
「うん、まあ、知り合いから頼まれて」
その知り合いとは暗部の仲間だとは言えず言葉を濁す。
「イルカに渡してくれって」
悔しいからバレンタインとは告げなかった。
バレンタインと解らなければホワイトデーのことも言わなくて済む。
「へええ、世の中には優しい人がいるんですね」
イルカはカカシの言葉を素直に受け取り嬉しそうにチョコを見ている。
「こんなにたくさんのチョコをくれるなんて」
「そうだ〜ね」
いったい、この箱買いされた板チョコは合計何枚あるのだろう。
軽く千枚は越しているよな・・・。
カカシは、ぼんやり思う。
でも、きっと。
イルカが本気で食べたら一ヶ月は掛からない。
ぶるっとカカシは頭を振るわせた。
そんなに食べたら幾らなんでも体に悪い、俺がイルカのチョコの管理をしっかりしないと。
カカシは早くもチョコの隠し場所を考えていた。
そんなカカシの気も知らず、イルカが思い出したように手を打った。
チョコを見て何事か思い出したらしい。
「あ、そうだ!」
「なに」
「いいものがあるんです」
ととと、台所へ行くと冷凍庫を開けてイルカは何かを持ってきた。
「ほら、カカシさん、新発売のカップアイスです」
一緒に食べましょう、と誘ってきた。
「チョコ味なんですよ、さっぱりしているから甘いの苦手のカカシさんも食べられますよ」
早速、スプーンで救ってカカシの口元の持ってきた。
「はい、カカシさん。あーんして」
イルカに言われて「あーん」と口を開ける二十歳を超えたカカシ。
外では見せられない姿だ。
イルカの前でしかしたことないが。
「どうです?美味しいですか?」
「ん、美味しい」
冷たい甘さは心地よかった。
「俺もイルカに食べさせてあげる」
カカシはイルカからアイスとスプーンを取り上げるとイルカにアイスを食べさせた。
「美味しい!」
頬っぺたが落ちそうになるほど美味しいのか、にこにこと満面の笑みのイルカ。
「カカシさんの言うとおり、とっても美味しいです」
「そっか、よかった」
「もう一口、食べたい」
イルカが口を開けるとカカシがアイスを運ぶ。
「二人で食べると美味しいですね」
「うん、そうだね」
二人して顔を見合わせて微笑み合う。
仲のよい恋人同士の間には誰も割り込む余地はない。
カカシとイルカは、お互いがいればいいらしい。
カカシは、ふと思って訊いてみた。
「ねえ、イルカ。今日が何の日が知っている?」
「今日?」
カカシにアイスを食べさせてもらいながらイルカは答える。
「チョコがたくさん食べれる日?」
首を傾げていた。
イルカはバレンタインに縁が薄そうだ。
色気より食い気、食欲優先らしい。
元々、色恋に関心がないしね、イルカって。
そのことに密かに安心してしまうカカシであった。
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