冷たい&冷たい
朝、出勤するときに降っていた雪が帰る頃にすっかり積もって、辺り一面銀世界になっていた。
見渡す限り、白白白。
そんでもって寒い。
吹いてきた北風に俺が、ぶるっと肩を竦めると隣にいたイルカ先生が嬉しそうに銀世界を眺めている。
すっごい嬉しそうに。
「たくさん降りましたねえ」
きらきらしている瞳は子供のよう。
・・・ほんと可愛い人だ。
目の中に入れても痛くないほどに。
イルカ先生は雪の積もっている場所に屈んで、手の平に雪を掬った。
「冷たいです」
そりゃあ、雪は冷たいに決まっている。
何たって氷なんだから。
そう言うとイルカ先生は、ちょっと笑った。
「その氷が世界を白くするなんて面白いですね」
「まあ、そうですね」
また強い風が吹いてきて俺は首を竦める。
「寒いから早く帰りましょう」
「はい」
手の平の雪を落としてイルカ先生は立ち上がった。
「今夜は夕飯、どうします?」
訊かれて俺は考えた。
寒いから、こんな寒い日は鍋かな〜。
湯気の立つ鍋を想像する。
早くあったかい部屋に帰りたくなった。
イルカ先生と鍋をつついて、あったまりたい。
「いいですねえ、鍋!」
俺の提案に、にこにこと応じるイルカ先生。
「部屋もあったかくなりますしね」
暖房費の節約とか現実的なことも言っている。
「なら、材料買って帰りましょ」
夕方になって冷え込んできて、俺は凍えそう。
イルカ先生と鍋の材料は何にするか話しながら早足で歩く。
あれやこれやと賑やかに。
「あ、そうだ」
何かを思い出したようにイルカ先生が、ぽんと手を打つ。
「あれも買って帰らなきゃ」
「あれ?」
あれって何だろう。
「あれって何です?」
訊いてみるとイルカ先生は、にやりとする。
悪巧みをしてそうな顔だ。
こんな顔も可愛く思う俺は恋愛症状、末期だな。
末期が終われば、また新期に戻るけど。
「何って冬の必須アイテムです」
「冬の必須アイテム?」
・・・コタツとか?
それは、この前の休みにもう出したけど。
「そう、アイスです!」
イルカ先生は、ぐっと拳を作った。
「アイスがなきゃ冬が始まりません!」
「アイス・・・」
寒い冬に冷たいアイス・・・。
余計寒くなるんじゃないのかなあ。
ってか毎年、イルカ先生は同じようなことを言っている。
去年も言っていたような気がする。
で、結局、鍋の材料と冷たいアイスを買って家に帰った。
鍋をして暖房つけて、部屋の中はぽかぽかだ。
「はー、幸せ〜」
俺はコタツでぬくぬく。
隣にはイルカ先生。
これ以上の幸せがあるだろうか?
絶対にないと断言できる。
「そうそう」
食後のデザートがありましたね、とイルカ先生がいそいそと冷凍庫からアイスを持ってきた。
コタツの上にはカップアイスが二つ。
ちなみに二つともバニラ。
「・・・本当に食べるんですか?」
せっかく、あったかくなったのになあ。
「もちろん」
イルカ先生がカップアイスの蓋を開ける。
「あったかい部屋で冷たいアイスを食べながら、冷たい雪を見ながら食べる冬のアイスは格別です」
力説している。
「アイスを食べなきゃ冬に勝った気がしません」
「そうなの?」
「そうです」
冬に勝つって何だろ・・・。
あったかい部屋でコタツに入っているイルカ先生は、ぱくりとアイスを一口。
「冷たい!でも美味しい」
「ふーん」
イルカ先生が食べているのを見ていると俺も食べたくなってきた。
だけど、一人で一つ食べるのは多い。
「イルカ先生、アイスちょうだい」
俺は口を開けた。
「あーん」
「しょ、しょうがないですね」
イルカ先生はアイスを掬って俺の口に入れた。
「あまーい」
アイスは口の中で甘みを残しながら消えていく。
「もう一口」
また「あーん」と口を開けるとイルカ先生がアイスを口に入れてくれる。
「うん、美味しいです」
それにいいね、こういうの。
食べさせてもらうの。
アイスは冷たいけれど、それだけじゃない。
アイスに共通する言葉が思い浮かんだ。
愛す。
愛するイルカ先生にアイスを食べさせてもらう。
語感がいい。
「ね、イルカ先生」
もっとちょうだいと強請るとイルカ先生は冷たいアイスを食べているはずなのに。
真っ赤な顔になっていた。
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