AIで普通の動画を3D動画に変換する


優しい翼




カカシにはイルカという愛しの恋人がいた。
自分で言うのもアレなんだけど、非常に可愛らしい恋人だ。
ただしカカシと同じ男性で、そして驚くべきことか元天使であった。
この事実はカカシしか知らない。
天界より人間界に修行しに来ていた天使だったのだが、カカシがイルカの天使としての純潔を奪ってしまったために、イルカは天に還れなくなくってしまったのだ。
それからは、ずっとカカシはイルカと一緒にいる。



ふと最近カカシが、よく目にする光景があった。
イルカがカカシの知らぬ誰かに一緒にいる光景だ。
ただ傍にいるだけのようで、誰かとイルカは特に何か話したりしていない。
仲が良い様子でもない。
休憩所のテーブルを挟んで向かい合って座っていたり、廊下から並んで単に外を眺めているだけの時もある。
相手は男性でもあったし女性でもあったし、老人でも子供でもあった。
そんな時のイルカは実に不可思議な雰囲気が漂っている。
元天使なので、人であるカカシには計り知れない力があるのかもしれない。
カカシは、そう思った。
イルカには何かしら考えがあってしていることなのだろう、とカカシは敢えて口を挟むことも聞くことをしなかった。
ある場面を目にするまでは。



その日、受付け所に行くと、イルカはカカシの顔見知りの上忍と受付け所の待合い場所となっているソファーで隣同士で座っていた。
その上忍は戦場から帰ってきたばかりで、どう考えてもイルカと接点はなく知り合いではないはずなのに、何故か一緒にいたのだ。
それだけなら、まだ良かったのかもしれない。
問題は、二人の手の位置だ。
イルカは、黙って下を向いている上忍の手に自らの手を重ねていた。
上忍は両手を握って膝の上に置き、その様子は何かに耐えているようだった。
握った片方の手にイルカが、そっと手を重ねている。
まるで労わるように。
上忍を見つめるイルカの眼差しは、ただただ優しく温かい。
その光景を見たカカシの目には、イルカの背後に失ってしまった黄金色の翼が輝いているような気がした。
その翼からは総てを包み込んでしまう慈愛に似たものが溢れ出ているような感覚に陥る。
受付け所は、そんな二人を奇妙にと思う者はいないのか、普通に機能していた。
カカシだけが異変を感じているような錯覚を受けた。



その錯覚に飲み込まれる前にカカシは強く頭を振る。
やばいやばい。
そして強固たる意志を持ってイルカに近づいた。
「何しているんですか?」
イルカに尋ねる声は険しくて尖っている。
ついでに腕を組んで仁王立ちだ。
恋人たる自分の前で、イルカが他の人間に触れている。
そのことを考えてカカシは、むっとした顔になった。
ならざるを得ない。
不機嫌を隠そうともせずにカカシはイルカを少し怖い目で睨んだ。



「あ、カカシさん。」
なのにイルカはカカシを見て嬉しそうに声を上げる。
「どうかしたんですか?」
逆に、無邪気に聞いてきた。
「どうかって、どうかしてるのはイルカ先生の方でしょう?」
「俺ですか。」
イルカの理由が分からないという顔に、苛立ってしまう。
「何で、他の男の手なんて握っているんですか?」
「手?」
そこまで言っても上忍の手の上から、離さないイルカの手をカカシは強引に掴み取ると自分の方に引き寄せた。
「カカシさん、痛いです。」
カカシの余りの力の強さにイルカは声を上げた。
「俺、何もしていません。」
「何もって手を握っていたじゃない!」
「違います、重ねていただけで・・・。」
「それが駄目なの。」
もはや痴話喧嘩の様相を帯びてきた。



そこへ、当の上忍から声が掛かった。
「カカシ、悪かったな。」
「何が?」
カカシの剣呑な声にも怯むことなく上忍は言う。
「本当、何でもないんだ。その人とは・・・。」
そう言ってイルカを指す。
「さっき、受付け所で報告書を、その人に出した時に初めて会ったんだ。」
「それが、何で手なんて・・・。」
カカシが問い詰めると、上忍は寂しそうな微笑を浮かべた。
「怒らせてしまってすまない。そういうつもりじゃなかったんだが。」
ただ、少し・・・と言葉を詰まらせた。
「少しだけ慰めていてもらっただけなんだ。」
目を伏せて自嘲するように呟く。
「お蔭で大分、楽になったよ。ありがとう。」
それだけ言い残すと受付け所を静かに出て行った。
受付け所にいた人間は、なんとなくカカシに視線を向けている。
批判的なものを含んでいるような気がしてカカシは、急激に居心地が悪くなった。
場所を変えることにしてイルカの手を引いて受け付け所を後にしたのだった。




人目に付かない場所まで来ると、堪らなくなってカカシはイルカを自分の胸に抱き締めた。
イルカに触れると安心した。
さっきまでも苛立ちや怒りが、すっと消えていくように。
落ち着いた気持ちになってからカカシはイルカに改めて聞いた。
「何で、先刻のようなことしたのか教えてください。それから時々見かけるんですが、何故、俺の知らない人と一緒にいたりするの?それから、さっきは手首を強く掴んでごめんね。」
イルカはカカシの腕の中に大人しく収まって、ぴたりと体を寄せてくる。
腕はカカシの背中に回った。
イルカはカカシの肩に自分の額を、くっ付けると話し始めた。
声は多少、くぐもっていたがカカシの耳が聞き取るには問題ない。
「カカシさん、俺が元々は天使だったって覚えていますよね。」
「はい。」
カカシはイルカの背を、ゆっくり撫でながら答える。
「もちろん、覚えていますよ。」
「天使だった時は、天使の持つ力のせいか人間の感情が自分に、すごく伝わってきました。」
でも、とイルカは続ける。
「翼がなくなり羽が散って自分が天使でなくなって、天使の力もなくなったのに。」
それをしたのはカカシだ。
カカシがイルカにキスをしたために天使の羽が散ってしまった。
「なんでか分かりませんが俺が、人間の一番強い感情だと思う、悲しみだけが今でも微かにですが伝わってくるんです。」
さっきの上忍は戦場から帰ってきたのだし、戦場で悲しいことがあったとしてもおかしくはない。
「その悲しみを持っている人の近くに俺がいると、悲しみが少しだけですが薄らいでいく、らしいのです。天使の俺は浄化の力を持っていたのから、その力が僅かに残っていて、もしかしたら悲しみが薄らぐのかもしれません。最も少しだけなので余り役には立っていないのですが。」
「そうでしたか。」
だんだんと理由が分かってくるとカカシは胸が痛くなってきた。



他の人間の悲しみが、少しだけど分かってしまうなんて、イルカはどんな気持ちなのだろうと。
イルカはカカシの肩口から顔を上げた。
「カカシさん、今、少し悲しいんですね。」
カカシの頬にイルカは自分の頬を寄せた。
「俺は大丈夫ですよ。」
カカシさんがいるから、と囁かれた。
「さっきの方は悲しみが強く伝わってきて、思わず手を重ねてしまったんですが。」
イルカは申し訳なさそうにしてカカシを仰ぎ見る。
「ごめんなさい。カカシさんを悲しませてしまって。」
「いいんですよ。」
理由が分かったことでカカシは許容することにした。
しかし、許容範囲は狭かった。
「手や体に触れるのはできる限りやめてください。そして、そういう時は俺を呼んでください。」
俺も一緒にいますから、と言う。
その言葉をイルカは好意的に取ったようで「ありがとうございます。」と、にっこり笑う。
カカシとしては、大事な恋人を自分の知らないところで知らない人間と二人きりなどにしたくないだけであったのだけど。



それからイルカは嬉しそうに「カカシさん、大好き。」と抱きついてきた。
カカシは、勿論、優しく優しく抱き締め返したのであった。







text top
top