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友達以上



「イルカ、見合いをしないかい?」
五代目火影の仕事の手伝いをしている合間に、火影直々に言われた。
周りに人はいない。
いるのは火影とイルカだけだ。
火影の付き人であるシズネは偶々、席を外していた。
「お見合い・・・ですか?」
ぴんとこないイルカは眉を訝しげな顔をしている。
「俺、いや、私がですか?」
「そうだ」
火影は大きく頷いた。
「イルカが条件にぴったりと当てはまるそうだ」
「はあ」
「なんでもなあ」
どこからか、火影は釣り書きのようなものを取り出して、それを見ながら喋りだす。
「えーと、なになに。容姿は黒髪黒い目で、髪は頭の天辺で一つに括っていて、顔には横一文字の傷がある人」
火影が、ちらとイルカに視線を投げかける。
イルカは黙ったままだ。
「それから・・・。職業はアカデミーの先生、受付もしていて、時々は火影の仕事も手伝い、時間があれば鍛錬をかかさずに任務も請け負う。仕事熱心で真面目で努力家、本気で怒るけどそれは本気で相手のことを考えているから。笑うと笑顔が素敵で魅力的で虜になる」
読みながら火影は顔を顰めた。
「なんじゃこりゃ、惚気か・・・。あ、いや、なんでもない」
独り言を呟き、続ける。
「んで、あとは・・・。身長は約178センチ、体重は秘密。誕生日は五月二十六日、血液型はO型。好きな食べ物はラーメンで、苦手はものはまぜご飯」
読もうとした火影が更に顔を顰めた。
「あー・・・。性格はおおらかで前向きだけど、一人のときは寂しそうにしていて抱きしめたくなる・・・。頑固で意地っ張りだけど、そんなところが可愛い・・・」
読むにつれて顰めていた火影の眉が、だんだんと釣りあがる。
「・・・私が独り身だと知っていて、こんなこと書いたのか、あいつは」
ぎりぎりと歯軋りする火影の顔は怖い。
「ったく。相手に希望することは『友達から一歩進んだ関係を望みます』だそうだ、以上」
読み終わって火影が顔を上げると、イルカが畏まって立っていた。
顔が俯き加減だ。
「あ、あの」
「なんだ?」
「お見合いの件ですが、その」
恥ずかしそうな顔をして何かを言いたそうに、火影を窺っている。
その姿に初々しさと若さを感じる火影だ。
「相手の方は私がよく知っている方でしょうか」
見合い相手が誰か見当がついたようは口調だ。
「まあ、よく知っているだろうな」
「そうですか」
ほっと肩の力を抜くイルカ。
「相手の方は他に何か、仰っていましたか?」
「あー、うん」
肘を突き、その手の平に顎を乗せた火影は見合い相手が言っていたことをイルカに伝えた。
「お見合いをして、気持ち新たにして改めて親しい関係を築いていきたいとか何とか言っていたな」
「そうですか」
何事かを思案したイルカは火影に一礼した。
「結構なお話ですが、お断りさせていただきます」
顔を上げたイルカは、総て心得たという風に頷く。
「お見合いのお相手には私が直接、話をさせていただきますので」
「そうか、分かった」
「失礼致します」
火影の仕事の手伝いが終わったイルカが退出すると入れ違いにシズネが入ってきた。
「イルカさん、顔が真っ赤でしたけど、どうしたんですか?」
「ああ、それは」
面倒くさそうに火影は答える。
「若き青春の炎ってやつだ、私は風前の灯火だがな・・・」
遠い目をしていた。



火影の部屋を出て、ずんずんと歩きながらイルカは思い出していた、二年ほど前のことを。
それは、ある日の出来事だった。
アカデミーでの教え子たちが無事に下忍となり、その上忍師と子供たちを通じて知り合ったのだ。
相手は上忍、イルカは中忍で、初めて会ったとき、ひどく緊張したのを覚えている。
その上忍は穏やかで落ち着いた目をしていた。
緊張するイルカの笑いかけてくれて、握手も交わしてくれたのだ。
親切な人だというのが、第一印象だった。
「すごく大人だなあと思ったんだよなあ」
イルカは呟いた。
年齢も、そう違わないことは後から知ったのだが、それにして醸し出す雰囲気がイルカと対極で。
冷静で寛容、どんなときでも取り乱すことなく部下に指示を与え、鋭い分析力と攻撃能力で敵を圧倒する。
一緒に任務に出た教え子から、そんな風に上忍のことを聞いた。
そんなことを聞けば、尊敬もしてしまう。
すごい人なんだ、と憬れた。
そして、すごい人を身近で見たり声を聞いたり、時には話したりしてしまう。
どきどきした。
もちろん、そんなすごい人を嫌いになんてなるはずなく好意も抱いてしまう。
ただし、その好意は尊敬する上忍としてのもので、それ以下でもそれ以上でもない。
ただただ、純粋な好意だった。



それから、何故か。
その上忍はイルカの周りに頻繁に出現した。
気がつけば、いつも行動を共にするほどに。
・・・いつからだっけ、あーいうの。
するりと、ごく自然に上忍はイルカの生活の一部となっていた。
一緒に帰ったり、食事をしたり。
笑ったり、話をしたりするのは、いつも件の上忍。
イルカが風邪を引けは看病もしてくれたし、仕事を頑張りすぎると窘めたりしてたりもした。
「もっと自分を大事にしてね」と言い聞かせてくれて。
イルカも、その上忍が怪我をして入院などすれば、足蹴く通い世話をした。
「早く良くなってくださいね」と何回言ったか解らない。
その上忍が怪我をしたりすると心臓が、きゅーっとなるのだ。
それが何かは判断がつかなかったが、とにかく上忍に不測の事態が起きると心臓が痛くなる。
そのことを告げると上忍は驚いたように普段、出している片目を大きく開けて、次の瞬間、ふわっと笑ったのだ。
嬉しそうに。
そして。
告白された。
「好きです」と。



「あー、そうなんだ。そうなんだよなあ、俺ってやつは」
そこまで思い出して、イルカは頭を掻き毟った。
「なんで忘れていたんだろう。あああっ、もう」
告白の『好き』は恋愛対象として『好き』だった。 その頃のイルカは上忍のことを、だいぶ好いてはいたものの、相手は同性だったので躊躇してしまった。
激しく動揺してしまった。
嫌いじゃない、むしろ好きだけど、でも男同士・・・。
恋愛に対して、年の割には初心だったのも拍車をかけた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
断るのも嫌だけど、だからといって付き合っていいものなのか。
悩んで悩んで、悩んだ末にイルカが出した結論は。
「・・・お友達からお願いします」だった。
そのとき上忍は一瞬、ぽかんとした後、笑って了承してくれた。
「いいですよ、お友達からお願いします」
そして「俺は気長に待ちますから」と有り難いことを言ってくれたのだ。
だけども、しかし。
「待たせすぎたよなあ」
イルカは反省した。
「だって、あれからお友達のままだもんなあ」
その、お友達の上忍はお友達のままで。
お友達のまま、イルカの家に住み着いていた。
朝も昼も夜も、時間の許す限りイルカの傍から離れない。
自分の家にも帰ることがあるが、そのときはイルカも一緒だ。
しかも。
・・・・・・キスしようとした、初めてイルカの家に来たときに。
「お友達からって言いましたよね?」
「そうですね」
「友達って、こんなことしますか?」
「・・・しません」
不承不承にいう上忍の顔は、しゅんとしていた。
「ですよね。じゃあ、駄目です」
強気に言ったものの、キスされそうになったイルカの心臓は今にも止まってしまいそうなほど、どきどきしてしまっていた。
どきどきし過ぎて、このまま心臓が一生分の血液を体内に放出してしまうかと思ったほどだ。
「唇にキスはしませんけど」
かなり不満そうな上忍は強者だった。
「それ以外にだったら、いいですよね」
「え・・・」
急に言われてイルカは言葉に詰まる。
「女の子の友達同士とかホッペにチューとかしますよね」
友達ならいいんでしょう、と迫られてイルカは反論できなかった。
・・・女の子同士って、そんなことするの?
知識が乏しかったのも災いした。
「手を握ったり、一緒の布団で寝たり、ご飯のとき、あーんって食べさせ合いっこしたり」
上忍は、がんがん言ってくる。
「ルームシェアするのもありですよね、あ、ちゃんと食費とかのお金は折半で」
そんなこと言って、上忍はイルカの部屋にちゃっかり住み着いてしまったのだ。
ルームシェアとは名ばかりの同居みたいな同棲だったが。



上忍はイルカの嫌がることは決してしなかった。
キスも頬や額や、耳朶や項などにもしてきたが駄目だと言われた場所にはしない。
あくまで友達がラインで、それを超えるようなことはしていない、とイルカは思っていた。
だけど。
「それが違ったんだよなあ・・・」
上忍の、そうした行為が愛情に基づくものであったのだ。
いつの間にか、それが普通になって慣れてしまって、日常行為の一つとしてイルカが受け止めて。
それが告白されてから、今まで続いていた。
「友情がなくて」
イルカの頬が染まる。
「愛情だった、俺は勘違いしていた・・・」
上忍は辛抱強く律儀に約束を守り、イルカを待っていてくれた。
友達としてだが、そこにあるのは友情ではなく愛情。
しかし、もしかして上忍は心配になったのかもしれない。
永遠にお友達のままではないかと。
イルカは、そっち方面が疎いというか鈍いのは多分、よく解っていると思う。
だからこそ、上忍は危惧し危機感を抱いたのかもしれない。
「・・・俺って、そこら辺の機微がいまいちだから」
イルカは反省する。
上忍が聞いたら、きっと強く訂正するだろう。
いまいちじゃなくて、全く皆無ですと。
でも、そこがいいとか。
「すっかり待たせちゃったな」
反省したイルカは決意した。
ぐっと拳を握りこむ。
「帰ったら、きちんと話そう。そして言うんだ」
今度は自分から。
「待っててくださいね、カカシさん」
イルカは上忍の名を口にした。



その日、どきどきしながらイルカは家に帰った。
カカシは朝、今日は休みだからと寝床の中にいた。
イルカが出勤するときは眠そうな目で起きてきて、玄関で見送ってくれた。
イルカのホッペにチューして「行ってらっしゃい」と言ってくれた。
今日はカカシは家にいるはず。
家に帰ればいるはずだ。
「ただいま・・・」
いつもと言っている言葉なのに、今日は妙に気恥ずかしい。
玄関扉を開けると、にこにこしたカカシが顔を出した。
「あ、イルカ先生、お帰りなさい〜」
靴を脱ぎ終わると、そそっと寄って来てイルカの手を握る。
頬にカカシの唇が触れた。
「ご飯、出来てますよ〜。食べます?それともお風呂?」
甲斐甲斐しいというか、カカシは気遣いが上手い。
「ビールも冷えているし、それともお茶?」
「あ、は、はい」
イルカの手の平が汗をかき始めた。
言わなきゃ、言うぞと思っているのだが中々、言い出せない。
言い出すことができない。
「どうかした?イルカ先生」
カカシが不思議そうにイルカの顔を覗き込んできた。
チャンスだ、とイルカは大きく息を吸い込む。
「あ、あのっ」
「はい」
「き、今日ですね」
「うん」
「火影さまにみ、見合いの件で聞いたんですが」
カカシはイルカの言葉を静かに待っている。
優しい眼差しで。
「それで、俺、随分、待たせてしまったなと思って、それで」
「それで?」
促すカカシの目は何か期待しているようだ。
「長いことカカシさんと待たせて、申し訳なかったと・・・」
そこまで言ってイルカは、はあ、と息を吐き出した。
何が言いたいのか、趣旨がこんがらがってくる。
これでは言いたいことに辿り着けないかもしれない。
意を決してイルカは言った。



「好きです、カカシさん」
言ったと同時にカカシの腕の中にいた。
「やっと言ってくれた」
ぎゅうっと抱きしめられる。
「待っていてよかった、嬉しいです」
カカシの腕の中はあたたかい。
安心する。
「イルカ先生、俺が告白したときに友達からって言ったでしょ。そこから先に進む気配がなくて、イルカ先生、忘れていたりするんじゃないかと心配していたんです」
やはり、カカシは心配していた。
「イルカ先生も俺のことが好きだって判っていたから、もう少し待とうと思っていたんだけど」
カカシはイルカの顔を見つめる。
「イルカ先生のことを友達だとしか周囲に言えなくて、それがもどかしくて。気持ちは通じ合っているはずなのに、関係が友達だなんて焦ってきて」
「すみません」
カカシも色々、思い悩んでいたらしい。
「それに最近、イルカ先生を狙うやつも、ちらほらといて。目茶苦茶、不安だったんです」
そんなことは初耳だったが、カカシはイルカとの関係をはっきりさせておきたかったのだろう。
「イルカ先生に何と言えば伝わるか、散々に悩んで、ああいう手を使いましたが」
ああいう手とは火影に見合いを頼んだ件を指している。
「イルカ先生が分かってくれて良かった」
ほっとしたような笑みをカカシは浮かべた。
「明日からは皆にイルカ先生とは友達じゃなくて恋人だと言えますね」
「いえ、無理には言わなくていいですけど」
皆に周知されるのは照れくさい。
「あー、でもね」
カカシが、とんでもないこと言い出した。
「みーんな、俺とイルカ先生のことを友達じゃなくて、それ以上の関係だと思っていますよ」
「ええっ」
そういえば、火影も「惚気か」とか何とか言っていた。
今さらながらイルカは猛烈に恥ずかしくなる。
「そんな・・・。明日から、どんな顔して仕事に行けばいいんでしょう」
「普通でいいんですよ」
面白そうにカカシは笑う。
「イルカ先生」
急に真面目な顔になった。
腕の中のイルカを、じっと見る。
「俺のイルカ先生のことが変わらずに好きです、愛しています」
二度目の告白をされた。
「思いも通じたので」
耳元で囁かれた。
恋人としてキスをしてもいいですか?
それは口付けを意味して。
微笑んだカカシの唇にイルカは自分から唇を寄せて。
そっとキスをしたのだった。





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