『誕生日への道』
『誕生日への道1』
夕方。
受付をしていたらカカシさんがやって来た。
もちろん、報告書を出すため。
にこにこ顔。
いつも、にこにこしているけれど今日はいつにも増して、にこにこしている。
どうしたんだろ?
何かあったのかな〜。
報告書の受付が終わってカカシさんが俺に顔を近づけてきた。
耳元で囁かれる。
「実は」
カカシさんの息が俺の耳に、ふっと吹きかけられる。
「九月の十五日は俺の誕生日なんです」
へー・・・。
結構、長い付き合いになるけど知らなかった。
カカシさんてば、もうすぐ自分の誕生日だから嬉しかったのか〜。
子どもみたいで可愛い人だな〜。
一気に好感度が上がった。
「でね」
更に囁くカカシさん。
「そろそろかな〜って思いまして」
「そろそろ?」
何がそろそろ?
にこにこするカカシさんが尚も俺に囁こうとしていたけれど横に座っていた五代目火影さまが横槍を入れてきた。
「カカシ!終わったら、さっさと帰れ!受付の邪魔だ」
確かに夕方の受付は混んでいる。
カカシさんは肩を竦めて「はいはい」とやる気のない返事をしていた。
「じゃああ、帰りますよ〜。イルカ先生、またね」
最後に俺に手を振って受付所を出て行った。
隣で火影さまが溜め息を吐いている。
「困ったもんだ」
何だか悩んでいる風で。
俺の方を一瞬だけ、チラッと見た。
そんでもって、もう一回。
「困ったもんだ」と言っている。
何が、どうして困っているんだろう。
結局、理由は分からなかった。
でも俺は。
せっかく、カカシさんが誕生日を教えてくれたのだから、ささやかながら誕生日にプレゼントを贈ったら喜んでくれるかなと思ったのだ。
中忍の俺が僭越ながら。
と、いうことで。
カカシさんの誕生日まで、まだ日があるのでカカシさんが誕生日に欲しい物をこっそりリサーチしてみようと思ったのだった。
『誕生日への道2』
次の日。
上忍控え室の前を通りかかったらカカシさんがいたので、ちょっと寄り道してみて、さり気なくカカシさんに訊いてみた。
「カカシさん、何か欲しいものってありますか?」
「欲しいもの?」
「はい」
カカシさんは、じっと俺を見た。
・・・もしかして誕生日のプレゼントのリサーチしているのがバレた?
にこ、とカカシさんは人のいい笑みを浮かべた。
「そうですねえ、欲しいものは〜」
なんだろう、ドキドキ。
「『イ』のつくものですかねえ」
「い?」
意外だった、ってか意表をつかれた。
『い』のつくものって何だ?
たくさん、あるよなあ、『い』のつくものって。
考えてみたが思いつかない。
カカシさんに、もっとヒントを貰おうとしたのだが。
「おーい、イルカ!」
同じく上忍の控え室の前を通りかかった同僚に呼びかけられた。
「火影さまがお呼びだぞ〜。俺もだけどな〜」
あ、そうだ。
そういえば、火影さまに呼ばれていたっけ・・・。
仕事を手伝ってほしいって。
早く行かないと。
「了解」
同僚に返事をして急いで追いかける。
「あ、カカシさん。お邪魔してすみませんでした」
去り際に一礼するとカカシさんの目が心なしか悲しげに見えた。
行かないで〜、みたいな感じで。
でも、まあ。
きっと気のせいだよな。
だってカカシさん、大人だもん。
火影さまの部屋に行くと書類の山が一、二、三、四、五、六・・・。
二十まで数えたところで止めた。
部屋には火影さまの付き人のシズネさんがいて火影さまを叱っていた。
「なんで毎度毎度、書類を溜めるんですか!」
「だってさ〜」
「だってもさってもありません!」
・・・怒られていた。
集められたのは中忍ばかりで事務仕事に慣れていて、いつも火影さまの手伝いという名の残業をさせられている面々だった。
ので要領も熟知しており書類を捌くのも早い。
中忍の中には顔見知りのやつもいた。
イズモとコテツ。
俺は書類を整理しながらイズモに、こそっと訊いてみた。
「なあ、ちょっといい?」
「なんだよ」
イズモは書類を、せっせと数えている。
「『い』のつくもので、何かいいものってある?」
「いいもの〜?」
「うん」
「食べ物か?」
「どうかな」
訳分からんと言いながらイズモは俺の質問に親切にも答えてくれた。
「いくら、飯蛸、苺パフェ、いなり寿司、」
「・・・食べ物じゃん」
「腹減ってるんだよ」
「ああ・・・」
言われてみれば俺も腹へっているなあ。
「烏賊!」
俺たちの会話を聞きつけた火影さまが叫んでいた。
『い』のつく食べ物を。
「烏賊刺し食べたい!烏賊の天ぷら、烏賊のフライに烏賊ゲソ揚げに烏賊飯、いかの塩辛、烏賊墨のパスタにサキイカ、スルメイカ!」
どうやら火影さまも腹が減っているらしい。
最後の方は酒の摘み的なものになっていたが。
「そんでもって、芋焼酎水割り!」
飯よりも酒らしい。
勢いづいた火影さまは言った。
「とっとと仕事を終わらして飲み行くよ!私の奢りだ!」
ヤッホーと手伝いの中忍たちから歓声が上がった。
こうなると仕事の進みは十倍早い。
あっという間に書類の山はなくなった。
中忍、すごいぜ・・・。
で、飲みに行って烏賊料理をたくさん食べた。
とても美味かった。
酒も美味しい。
でも待てよ、と俺は思った。
『い』のつくものが欲しいたって誕生日に烏賊はないよな〜。
プレゼントって烏賊あげたら、びっくりだよなあ。
・・・カカシさんの欲しい『い』のつくものって何だろ?
考えようとしたのだが火影さまに、しこたま酒を飲まされた俺はへべれけになり、そこで思考が中断したのだった。
『誕生日への道3』
俺は朝から、がんがんする頭を抱えていた。
しっかり二日酔いだった。
昨夜、火影さまに付き合わされた中忍の面々も、きっと二日酔いに違いない。
・・・火影さま、なんであんなに酒強いんだろう
飲んでも飲んでも酔わないってか、己を見失わないのはある意味すごいよな。
だから火影さまなんだろうけど。
その酒に強さ諸々がいっちまって賭け事弱いんじゃないだろうか?
そんなことまで思えてきた。
うー、それにして。
頭が痛い。
朝の事務仕事の合間に飲み物を買いに席を空けた。
冷たい飲み物が欲しいと体が訴えている。
で、自動販売機まで行って冷えたお茶を買い、喉を潤した。
体も潤った。
ちょっと落ち着いた。
はあ、と息を吐き、自動販売機の横の長椅子に座る。
これ、飲んだら仕事に戻らなきゃな。
ごくごくと冷たいお茶を飲んでいると不意に誰かの声がした。
「おはよーございます、イルカ先生」
ぎょっとして横を向くと隣にカカシさんが座っていた。
いつの間に!
ぜんぜん気がつかなかった・・・。
気配を消して来られると、びっくりするじゃないか〜。
「あ、おはようございます」
挨拶を返すとカカシさんが目を細めた。
「どーしたんですか、頭が痛いんですか?」
「ええ、昨日、飲みすぎてしまって」
お恥ずかしい、と正直に火影さまと飲んでいたことを話した。
「で、頭が痛くて」
「大変ですね〜、火影さまに付き合うなんてイルカ先生も人が良すぎますよ」
すっと手が伸びてきて俺の頬を触る。
男同士で顔を触ったりするなんて変、なんてことは置いといて。
今の俺にとってはカカシさんの指先が冷たくて気持ちがいい、に尽きた。
酒を飲んで二日酔いになると体が火照って、ああ、まだ体に酒が残っているなあって感じる。
早く酒、抜けないかな・・・。
「あ!」
そうだ、思い出した。
「カカシさん!」
カカシさんの手が頬に触ったまま、いきなりカカシさんの方を向いたのでカカシさんは驚いたようだった。
「な、なんです、イルカ先生?」
距離が近いから、ぎょっとしたらしい。
確かに男女だったらキスの距離だ。
「お聞きしたいことがあります」
例の欲しいものの件だ。
誕生日にカカシさんが何が欲しいかリサーチ中。
「なんでも聞いてください!」
カカシさんが胸を張った。
あれ?
なんか張り切っている。
「ええと昨日、お聞きした欲しいものについてですが」
「ああ、あれ」
ん?
なんかカカシさん、気落ちした?
「『い』のつくものの他にヒントはいただけませんか?」
「えー、分かりませんでしたか?」
「ちょっと、あれだけでは・・・」
何か情報が欲しい。
食べ物だとか甘いとか辛いとか、それとも何か物なのか。
「そうですねえ」
カカシさんは思案した。
「『イ』の他に『カ』もつきます。あ、二つともカタカナで」
そっか、『イ』と『カ』ね。
なるほど、それで。
「食べたことはありませんが、きっと美味しいのではないかと思います」
・・・謎かけみたいだな〜。
いったい、なんだろ。
考え込んでしまったのだが。
はっと時計と見ると席を空けてから、かなり時間が経っている。
やばい!
戻らないと。
慌ててカカシさんに頭を下げて礼を言う。
「すみません、色々ご面倒をお掛けして」
「ぜーんぜん」
「それでは、俺はこれで」
「今度は飯でも食べに行きましょうね」
「あ、はい」
どうも、と、もう一度、礼をして急いで仕事場に戻った。
で、その日は仕事の合間、合間に考えた。
『イ』と『カ』がつくもの。
で、多分、美味しい物。
カカシさんは食べたことがないようだったけど、じゃあ、俺は食べたことがあるのかな〜。
食べ物系?
そして仕事が終わった俺は偶然にも通りかかった店先で、あるものを見つけた。
黒と緑のあれだ。
『イ』と『カ』がつくし、食べ物で、美味しいもの。
それは西瓜だった。
『スイカ』
果物屋の店先でスイカは燦然と輝いていたのだ。
『誕生日への道4』
結局、俺はスイカを買って帰った。
冷蔵庫で冷やして食後に食べたら美味かった。
シャクシャクとスイカを食べながら俺は思った。
カカシさんが誕生日に欲しいものってスイカかなって。
スイカを誕生日プレゼント・・・。
プレゼントされたら持って帰るのが重そうだ。
プレゼント用ラッピングも球体スイカにするには難しそう。
それに、だいたい・・・。
がぶっと噛んでスイカを口に入れると、すっきりした甘さが口に中に広がる。
とってもジューシーだ。
スイカは夏にかかせない。
それに、だいたい、と俺は思考を戻した。
カカシさん、食べたことない風だったじゃないか。
スイカを食べたことがないのは、ちょっと考えにくい。
俺は、またスイカを口に入れた。
咀嚼しながら思い出したことがある。
去年の今ごろ、カカシさん俺んちでスイカを食べていたじゃないか!
一つ、丸々買ったから一緒に食べましょうって誘って。
カカシさん、美味そうに食べていたっけなあ。
しばし、思い出に浸る。
・・・で、思い出から抜け出してから思ったことはカカシさんの欲しいものはスイカじゃないってことだった。
スイカじゃなければ何なんだろう?
あ、もしかして。
『イ』と『カ』が反対なのかな?
イカのつくものじゃなくて、カイのつくものか。
カイで思いつくものといえば・・・。
解、会、回、貝・・・。
貝?
食べ物系でいえば貝かな。
帆立貝やらつぶ貝やら赤貝やらあるよなあ。
あ、アサリとかシジミ?
うーむ。
ますます解らない。
とりあえずスイカを食べ終えた俺は明日、も一回、カカシさんにヒントを貰うべく、欲しいもののリサーチをすることにした。
次の日の夕方。
受付所でカカシさんに会うことができた。
報告書の提出で。
本当は私語は控えるべきだったけど俺は、ちょっとだけ、とカカシさんに訊いてみた。
こっそり。
「カカシさん、カカシさん」
小声で呼ぶとカカシさんが「何ですか」と俺の口元に耳を寄せてきた。
だから、こそっと訊いた。
「あの、欲しいもののヒントがもっと欲しいんですけど。カタカナの『イ』と『カ』じゃ解りません」
できたら、もっと解りやすいのがいい。
でもストレートに教えてもらったら、それはそれでアレだなあ〜。
「あー、うん。そうですねえ」
カカシさんは俺に、こっそり教えてくれた。
「『イ』と『カ』の他に『う』もつきます。ひらがなの」
「イとカと、う?」
「そうです」
カカシさんが俺の目を見て、にっこり笑った。
「最初が『う』で最後が『カ』。『イ』は中間くらいに入ります」
順番的にはう、イ、カとなるのか・・・。
うイカって何?
カカシさんは俺が解ってくれると思って期待して俺を見ているが。
残念ながら俺は期待に添えなかった。
すぐに答えが出ない。
「解りますか、イルカ先生」
「え?えーと、あー・・・」
あー、何だろ?
たじたじになる俺に横から助け舟が入った。
隣に座っていた火影さまだ。
「あのなあ、カカシ」
火影さまが呆れたように言っている。
「すぐに解るような相手なら、とっくの昔に解っていると思うぞ」
「ま、そうですね」
カカシさんが吐いた息が溜め息交じりなのは気のせいか?
それに相手って誰?
もしかして、もしかすると俺のこと?
「でも、俺は諦めません!」
カカシさんはガッツポーズをした。
「三年目の正直です」
「三年目の失恋だろ?」
「失礼な」
巧妙なやり取りがカカシさんと火影さまの間で繰り広げられる。
俺はついていけない、話の内容にもテンポにも。
「じゃ、というわけで」
何が、というわけなのか、カカシさんは俺に言った。
「今夜は一緒に飯でもどうですか?」
「あ、はい」
もう少しで受付終わるし。
この前、飯でもと誘われていたし。
俺に異論はない。
成り行きで俺はカカシさんと晩飯を食べに行くことになったのだった。
『誕生日への道5』
俺はカカシさんと飯に来ていた。
晩御飯だ。
何回か行ったことがある定食屋に入ってカカシさんと向い合わせで座って、ご飯を食べている。
カカシさんは秋刀魚の塩焼き定食。
すごく脂がのっていて身がぎっしりの秋刀魚は見るからに美味そうだった。
そういやカカシさん、秋刀魚が好きなんだよな〜。
毎年毎年、とても嬉しそうに食べている。
好きなものを美味しそうに食べる姿って微笑ましい。
「ん?イルカ先生も一口食べますか?」
俺が余りにカカシさんと秋刀魚を見ていたのでカカシさんが勘違いしたらしい。
「はい、どうーぞ」と秋刀魚の身を一口、箸で毟りとって俺の口まで持ってきた。
断るのもアレなんで俺は素直に一口、いただいた。
焼きたての秋刀魚は熱くて、身がほくほくして脂がシューシー。
とっても美味しい。
「美味しい秋刀魚ですね!」
感想を述べるとカカシさんが頷いた。
「ほんと美味しいです、イルカ先生と一緒だと美味さが倍増しますね」
「またまた〜」
なんて軽口を叩き合う。
俺の食べている料理も一口、あげた方がいいのか迷ったけどやめた。
俺の食べているのは高カロリーな揚げ物だったし。
カカシさん、脂が濃いの苦手だったし。
俺は自分の食事に集中しながらカカシさんが欲しいものと考えた。
『う』がついて『イ』がついて『カ』がつくものか〜。
カカシさんが食べたことなくて、多分、美味しいもの・・・。
何だろうか?
ここまでヒントが出ているのに分からない俺って、相当、鈍いのかも。
明日にでも誰かに、ちょっと訊いてみようかな〜。
アドバイスでも、もらえたら・・・。
「イルカ先生〜」
名前を呼ばれて、はっと顔を上げるとカカシさんが心配そうに、こちらを見ていた。
「イルカ先生、どうしました?具合でも悪いの?」
「あ、いえいえ」
俺は慌てて手を振った。
「ぜんぜん、元気です」
その証拠に食事も全部、食べていた。
見れば、カカシさんも食べ終わっていた。
あ、俺を待っていてくれたのかな。
「じゃ、帰りましょうか」
カカシさんに促されて店の外に出た。
帰り道。
途中までカカシさんと一緒だ。
お互いの家が遠からず近からずの距離だったから休みの日など、結構、行き来がある。
そうだよなあ。
妙に感慨深く俺は隣を歩くカカシさんと横目で、そっと見た。
まさか、こんなに親しくなれるとは。
出会った頃は喧嘩、というか口論してしまって一時期、気まずくなってしまったのに。
それが仲直りできたのだけでも夢のようなのに、こうして・・・。
横目で見ていたのが、ばれたのかカカシさんが俺を見て、くすっと笑ってきた。
「今日のイルカ先生、なんか変ですよ」
「そうですか?」
「そんなところも好きですが」
「ありがとうございます」
さり気なく、人を褒めるのもカカシさんは上手だ。
褒め上手というのか。
お互いの家への分かれ道。
「あ、じゃあ。今日はこれで」
失礼します、と頭を上げるとカカシさんも、どうもと律儀に頭を下げてきた。
礼儀正しい人で、カカシさん。
「また、明日」
と手を振るカカシさんは別れ際、気になる一言を残していった。
「俺ね、イルカ先生の名前好きですよ」
「え」
「うみのイルカって名前が。素敵な名前です」
「あ、はい」
って言われたのだが。
名前が素敵と言われて悪い気はしない。
俺の両親がつけてくれた名前だから。
でも、なんで・・・。
カカシさんは、あんなことを言ったのだろう?
とっても気に掛かったのだった。
『誕生日への道6』
次の日。
カカシさんは任務で里にいなかった。
俺は火影さまのお使いで里内へ。
お使いから帰ってくる途中で昼になり、川原近くを通りかかるとナルトを含む第七班の面々が昼食を摂っていた。
ナルトはアカデミーで教えていた俺の元生徒だ。
他に七班にはもう一人、元生徒がいて、その子はサクラ。
女の子で気が強くて、腕力も強い。
サイって子と隊長のヤマトさんとは最近、知り合った。
「あー、イルカ先生!」
目ざとく俺を見つけてナルトは手を振ってきた。
「おーい!」
呼びかけてくれる。
かわいいなあ〜。
軽く食べようと思ってパンとか買ってあったので昼だし、ちょっといいかと思って寄り道をすることにした。
「こんにちは」
ヤマトさんに挨拶をしてから子供たちにも挨拶をする。
「よ!元気だったか?」
「もっちろん!元気だったてば!」と元気よくナルトが答えた。
「私も元気です。イルカ先生もお変わりないですか」
これはサクラ。
「ああ、元気だよ」
嬉しくなって答えた。
サイは、よく分からないけれど。
にこ、と笑って頭を下げただけだった。
お邪魔させて昼飯を食べていて俺は、ふと思った。
ヤマトさん。
カカシさんと付き合いが長いみたいで先輩後輩で仲がいいみたいだし。
カカシさんの欲しいものとか好物について何か知っているかも。
食べ終わってから俺はヤマトさんに訊いてみた。
「すみません、ちょっといいでしょうか?」
「はい、なんでしょう」
ヤマトさんは愛想よく俺の話を聞いてくれる。
「ヤマトさん、カカシさんが今、欲しいものってご存知ですか?」
「欲しいもの、ですか・・・」
ヤマトさんが眉を潜める。
「特に聞いていませんが」
「そうですか」
うーん、困った。
なので俺はヒントを言ってみた。
「食べ物かもしれないんですが。最初に『う』がつくものです」
「う?」
「で、最後が『カ』です」
「うとカ・・・」
呟いたヤマトさんが俺を凝視して、次の瞬間、飲んでいた茶でむせた。
「げほげほっ」
お茶が変なところへ入ったみたい。
「大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫です」
ヤマトさんは息も絶え絶え。
「つい、びっくりしてしまって・・・」
冷静なヤマトさんが動揺しているみたいだった。
カカシさんの欲しい物に何か心当たりがあるのかなあ。
期待してしまう。
が、その期待はあっさりと破られた。
「申し訳ないんですが」
ヤマトさんは俺から視線を逸らして言う。
「それについても僕の方から言えることは何もありません」
深刻そうな表情だ。
「ただ」
急に真剣な顔になったヤマトさんは俺に忠告してくれた。
「イルカ先生、身辺には気をつけてくださいね」
「え、何でですか?」
里内に敵でもいるのか。
そう聞くとヤマトさんは言葉を濁らせた。
「そうじゃないんですけどね」
じゃあ何なんだ?
「基本的には味方で間違いないですし、危害を加えられるということは万が一にでもないと思います」
・・・よく分からん。
カカシさんのヒントと同じで謎々みたいだ。
「とにかく気をつけてくださいとしか僕には言えません」
その後に、余計なことを言うと先輩が恐いですし、と聞こえたのは気のせいか。
昼も食べ終えた俺はお使いの帰りの途中だったので、その場を失礼することにした。
「ありがとうございました」
ヤマトさんに礼を述べて子供たちの頭を一撫ですると俺は、その場を後にしたのだった。
『誕生日への道7』
その日。
通常の仕事が終わって帰ろうとしたらイズモとコテツに出会った。
二人とも書類を山と抱えて目の下に隈が出来ている。
徹夜しているらしい。
察するに、また火影さまの手伝いか・・・。
「イルカ!」
俺の姿を見たイズモが駆け寄ってきた。
「もう帰るのか?」
「うん、仕事が終わったから」
そう答えるとイズモが必死な形相で言う。
「俺を置いて帰ってしまうのか、悲しいぞ!」
と言われても。
「俺はイルカと離れたくないんだ!」
それは、つまり。
「俺とイルカは一心同体だろ?な?な?なななな?」
コテツはストレートに言ってきた。
「頼む、イルカ。手伝ってくれ」
「そう、頼むよ」
悲壮な顔して頭を下げる二人を前にして帰れる俺ではなかった・・・。
で、二人の書類を半分持って火影さまの部屋に行く。
部屋は書類の山が出来ていた。
この前ほどではないものの、結構な山が出来ている。
中忍総出で片付けたばっかりなのに。
どうやったら、こんな事態になるのだろう?
「お!イズモ、コテツ帰ってきたか!」
書類を捌いていた火影さまが顔を上げる。
俺を見ると、ぱっと顔を輝かせた。
「イルカ!よく来てくれたな!」
「帰るところだったので手伝ってくれるように頼み込みました」
コテツが報告すると火影さまは大きく頷く。
「でかした!」
そうして書類を片付けるための長い夜が始まったのだった。
今回、書類は、そうたくさんではないので手伝っているのはイズモとコテツと俺だけだ。
シズネさんは任務でいない。
俺たち三人、いや火影さまも入れて四人は黙々と書類を処理していった。
ちょっと小休止でコーヒータイム。
その時間に俺はコテツに訊いてみた。
「なあ、ちょっといいか」
「なんだ」
コテツはコーヒーをがぶ飲みしている。
すっごく眠そうだ。
「あのさ、最初に『う』がついて最後に『カ』がついて、中間くらいに『イ』がつく食べ物って言ったら何が浮ぶ?」
「ああ?」
寝不足のところに、こんな質問はまずかったか・・・。
コテツは隈が出来た目で俺を見て、にやりと笑う。
・・・この顔、寝不足でハイって感じな顔だ。
コテツは言った。
「うみほたるイカ」
「うみほたるイカ?」
「うれしいクワイカレー」
「クワイカレー?」
「うなぎのワイワイカラアゲ」
「ワイワイって・・・」
コテツはとっても疲れているらしい。
いつものコテツじゃない。
疲れているところに追い討ちかけるようなことしてごめん。
俺は反省したのだった。
明け方前に書類は全部片付いた。
疲れているコテツとイズモは椅子で寝てしまい、火影さまも机に突っ伏して寝てしまった。
三人の邪魔をしないように俺は、そっと火影室を後にした。
朝の清清しい空気を吸いながら家に帰る。
今日は午後出勤だから家に帰ったら一眠りしよう。
朝もやの中、歩いていると、ぽんと肩を叩かれた。
振り向くとそこにいたのはカカシさん。
「おはよーございます、イルカ先生」
朝に相応しく、カカシさんは爽やかに微笑んでいたのだった。
『誕生日への道8』
朝から爽やかなカカシさんは、どうやら任務帰りらしい。
任務帰りで爽やかさを振りまくカカシさん、恐るべし。
「あ、おはようございます」
俺は挨拶を返した。
「任務、お疲れ様です」
受付でよく言う言葉だ。
「まあ、疲れてはいますけど」
カカシさんは照れたように頭を、ガシガシと掻く。
「イルカ先生に会ったら疲れが吹っ飛びました」
元気が出ました、なんて言ってくれる。
ちょっと嬉しい。
「ところでイルカ先生」
カカシさんが訊いてきた。
「こんな朝、早くにどうしたんですか?」
俺が早朝、こんなところにいるのが不思議らしい。
まあ、俺は普通、朝起きて出勤、夜に帰って寝るという生活を送っているから。
時々、夜勤とか任務があるけどね。
「ああ、実は」
俺は手短に話した。
「火影さまのお手伝いをしていたら、こんな時間になってしまって」
「ええ〜」
カカシさんが眉を顰めて俺を見た。
・・・こんな時間に火影さまの手伝いが終わったのを怒っているのかな?
もっと手際よくやらないと駄目ってことかもしれない。
でも違った。
「もー、イルカ先生ってば」
カカシさんは心配そうな顔をして俺の手を取った。
「人が良すぎますって前にも言いませんでしたっけ」
そういや、言われたような気がする。
「頼まれれば断れないイルカ先生もいいですけど」
「あははは〜」
俺は誤魔化し笑い。
それに人が良いんじゃなくて、単に要領が悪いのかもしれないし。
「仕事をしすぎると体を壊しますよ」
「またまた〜」
忍者の体は意外に頑丈だから大丈夫です、と俺が言うとカカシさんは悲しそうな顔をした。
「もっと自分のことを考えてください」
その声の響きに心底からカカシさんが、そう思っていると感じられた。
「すみません」
俺は小さく項垂れた。
任務帰りのカカシさんを心配させて、気を遣わせてしまうなんて。
「ま、ね」
項垂れた俺の頭をそっとカカシさんは撫でてきた。
撫でられると気持ちが軽くなるのは何でだろ?
「も少し自分の体のことも考えて。そんで、ほんのちょっとだけ俺のことも考えてくださいね」
「はい」
後半の意味がよく分からなかったが俺は頷いた。
多分、俺のことを思っての言葉だろう。
意味は後で分かるに違いない。
「で、イルカ先生はこれから家に帰るんですか?」
「はい、少し寝て。午後から仕事です」
「じゃ、俺も」
カカシさんは盛大に欠伸をした。
「俺も家に帰って一眠りします」
それから並んで歩き出した。
俺の横でカカシさんが呟く。
「今日は朝からイルカ先生に会えてラッキーだったな」
その呟き声は、ひどく俺の心に響いたのであった。
『誕生日への道9』
「で、分かりましたか?」
カカシさんが徐に俺に訊いてきた。
もしかして、あれのことかな。
「俺が欲しいものですよ」
やっぱり・・・。
まだ答えは解らない。
でも、カカシさんの妙にきらりと輝く片目を見ていると本当のことを言えなくなってしまった。
わくわくをしている目はアカデミーの子どもたちが期待している目とよく似ている。
「ああ、そうですね」
俺は動揺を隠して頷いた、微笑みながら。
「だいたい、目星はつきました」
・・・嘘だ、さっぱり解らん。
それを悟られないようにした。
まだ、カカシさんの誕生日まで日にちはあるし、それまでに何とかしたい。
「ほんとですか!」
先ほど、きらりと輝いていた目が、ぎらぎらっとしたような気がした。
気のせいだろう、多分。
カカシさんは「そうですか、そうですか!」と一頻り喜んだ後に上機嫌で家に帰って行った。
ちょうど互いの家への分かれ道の分岐点だったから。
カカシさんは「じゃあ、また後で」と手を振って去っていく。
後でってことはカカシさん、家に帰ってからまた仕事なのか?
俺みたいに。
カカシさんを見送ると欠伸が出てきた、連続して何回も。
欠伸が止まらないっていうか眠い、すっごく。
俺は自宅のあったかい布団を思い出した。
今すぐ、布団に潜り込んで寝たい。
カカシさんの欲しい物は・・・。
起きたら、ゆっくり考えよう。
とにかく眠らなきゃと俺は家への道を急いだ。
起きたら頭が、ぼーっとしていた。
慌てて時計を見ると正午を過ぎている。
やばい、午後一から仕事なのに。
正確には午後一時から仕事だ。
俺は大急ぎで着替えて荷物を持ち家を出た。
午後はアカデミーに顔を出してやりかけの仕事をしてから受付に入る予定。
アカデミーの仕事は作ったテストを見直したり、演習の要領の下準備とか事務仕事だ。
授業がないので、ちょっとだけ楽かもしれない。
子ども相手だとパワーが要るからなあ〜。
で、無難にアカデミーの仕事を終えて受付所にいくと五代目がいた。
眠そうな目で座っている。
今朝、俺が帰った時は寝ていたけれど、あれからまた仕事だったのかな?
大変だなと思いつつ、挨拶をすると火影さまは黙って頷いただけだった。
とっても疲れているようだ。
俺は黙々と仕事をこなしていった。
仕事中、一度だけカカシさんが姿を見せた。
といっても受付所の前を通りかかったのを俺が見ただけってなんだけど。
ポケットに手を突っ込んで歩くカカシさんの足取りは軽かった。
いうなればスキップしているような感じで。
・・・あれは明らかに『俺の欲しい物』に期待している。
カカシさんには目星がついたって言ったけど、本当は解っていない。
・・・どうしよう。
困った俺は受付所に人がいなくなったのを見計らって火影さまに相談してみた。
里一番の知己の人に。
「火影さま」
「うーん、なんだい?」
火影さまは眠そうだった。
眠そうなのに俺が相談なんてしたら悪い、かな?
一人で解決した方がいいだろうか。
迷っていると火影さまの方から急かされた。
「言いたいことあるならお言いよ」
「あ、はい。実は・・・」
俺はカカシさんの誕生日がもうすぐだということを前提に訊いた。
「カカシさんの欲しい物が解らないんです」
「何だって!」
火影さまが眉を顰める。
「カカシの欲しいものなんて、そりゃあ・・・」
俺を見つめて目を逸らし、ごほんと咳払いをする。
「で?それから?」
何かを言いかけたはずなのに俺に話をするように促す。
「欲しいもののヒントはいただいたんです。最初が『う』で中間に『イ』、最後に『カ』がつくものなんですけど」
言った瞬間、火影さまが声を高くした。
「何だってっ!」
かっと目を見開いた火影さまは眠気が吹っ飛んだようだった。
『誕生日への道10』
俺の言葉を聞いた火影さまは、じっと俺を見ている。
俺がどうかしたのか?
「あの、火影さま?」
呼びかけると火影さまは深々と溜め息を吐いた。
寝不足の上に更に疲れさせてしまったらしい。
俺の相談事の所為で」
「お疲れのところすみません」
反省した俺が謝ると火影さまは首を振った。
指でこめかみを押さえている。
「いや、大丈夫だよ」
もう、一度火影さまは溜め息を吐く。
「欲求に直球で、ある意味、潔いと思っただけだから」
それって誰のことだろう。
「いいか、イルカ」
火影さまは俺に言った。
「カカシの言ったことを、よーく考えて、決して自分を安売りするなよ?」
「安売り?」
「安易に身を任せるなということだ」
「はあ」
「自分の身は自分で守るんだ。最後に頼れるのは自分だからな!」
・・・なんか任務の心構えに聞こえる。
危ないことでもあるのかな。
とりあえず俺は「はい」と頷く。
火影さまは俺の頭を、ぽんぽんと軽く叩いて母親みたいなことを言う。
「イルカは真っ直ぐすぎて、ちょっと心配だよ」と。
心配させてしまった・・・。
火影さま、ごめんなさい。
それでも受付所を出て行くときに火影さまはヒントをくれた。
例のカカシさんの欲しい物について。
「イルカ、自分自身に訊いてみな」
・・・俺?
俺がヒントの答えに関わっているのか。
その日。
受付の仕事が終わるまで頭の隅っこで、ずっと考えて考えてやっと解った!
やった!
カカシさんの欲しいもの。
その答えは『うみのイルカ』。
俺のことだった。
最初が『う』で中間くらいに『イ』、最後が『カ』。
全部、合致する。
そっか〜、カカシさんが言っていたのは俺のことだったんだ〜。
謎が解けて気分、すっきり爽快。
解るっていいことだな。
と安堵していたら別の問題が浮上してきた。
なんで俺?
俺がカカシさんの欲しいもの?
えーと、カカシさんに借金とかしていたっけ?
借りていた物とかあるかな〜。
ないと思うんだけど。
うーむ。
カカシさんが欲しいものが何で俺なんだ?
新たな謎が出てきてしまった。
カカシさんの誕生日は明後日だ。
誕生日に俺はどうすれば・・・。
再び、考え込む俺であった。
『誕生日への道11』
いよいよ、明日はカカシさんの誕生日だ。
で、俺は・・・。
どうしたらいいんだろうか?
欲しい物が俺って。
俺の使い道ってなんだ?
労働力?
といっても力ならカカシさんの方が強いし。
家事能力?
以前、俺の家に偶々来た時、あり合わせのもので適当料理を作ったら、美味しいって食べてくれたけど。
でも、その後カカシさんちにお邪魔してカカシさんの手料理をご馳走になったら俺より美味かったってオチが・・・。
ふーむ、ふむふむ。
もしかして、と俺は、はたと思いついた。
もしかして木の葉の里に俺と同姓同名の女の子がいるんじゃないかって。
うみのイルカっても俺のことじゃなくて、同姓同名の女の子。
だったらカカシさんが欲しいって言った意味も少し分かる。
カカシさん、ステディな間柄の人が傍にいてほしいじゃないかな。
ちなみにステディはイチャパラでいうと恋人のことらしい。
この前、カカシさんの貸してもらったイチャパラを少し読んだら、そんなことが書いてあった。
カカシさんの年齢的にいっても彼女がいてもおかしくないし。
俺がカカシさんと知り合ってから女性といるのを見たことないし。
知り合う前のことは知らないけれど。
休みの日や週末はカカシさんと俺、独身者同士、よく一緒に行動したりして。
女性の影も形もなかったもんなあ。
それで、深夜。
仕事が終わった俺は忍者名簿みたいなやつで俺と同じ名前イの人を捜した。
・・・いない。
同じような名前の人もいない。
ってことは里の一般人?
もしかして他の里の人?
これから捜すのは難儀そうだ。
どうしよう。
ふと時計を見ると零時を過ぎていた。
もうカカシさんの誕生日だ。
そんなことを思うと自然に口から言葉が出ていた。
「カカシさん、誕生日、おめでとう」
もちろん会った時にも、ちゃんと言うさ、お祝いの言葉。
カカシさん・・・。
強くて優しくて穏やかで、笑った顔が意外に可愛い。
思い出して俺の顔に笑みが浮かぶ。
これからのカカシさんの人生が幸せなものでありますように。
心から、そう思ったのだった。
『誕生日への道12』
とうとうカカシさんの誕生日だ。
朝、目覚めて俺は思った。
昨夜、遅く帰ってきたが今日は普通に出勤だ。
出勤の準備をしながら俺は思った。
今日、カカシさんに会ったらプレゼントの欲しい物はともかく!
最初に言う言葉を決めていた。
それは、もちろんお祝いの言葉。
誕生日、おめでとう!だ。
と、家を出たところで、いきなりカカシさんに会ってしまった。
まるで待ち伏せしていたかのように。
いや、それは俺の思い過ごしだと思うけど。
「おはようございます」
カカシさんは、にこにこしながら俺に話し掛けてきた。
「おはようございます」
俺も朝の挨拶をする。
カカシさんはこれから出勤らしいので俺も一緒に行くことにした。
肩を並べて歩くカカシさんは俺の隣で終始笑顔だ。
ご機嫌らしい。
俺は、というとお祝いの言葉を言おうと思うのだが、妙に緊張して言葉が出ない。
当たり障りのない話をしてアカデミーの前まで来てしまった。
どうしよう、言わなくちゃ。
誕生日おめでとうございますって。
だけどカカシさんに先を越された。
「イルカ先生、今日の夜は空いていますか?」
「え、はい」
「じゃ、飲みに行きましょ」
「はい」
慌てて俺は頷いた。
「約束ですよ」とカカシさんは上機嫌のまま、行ってしまった。
受付所か上忍の控え室に行くのだろう。
俺は、ほっとして息を吐いた。
祝いの言葉は、夜に会った時に言えばいい、そう思ったのだ。
アカデミーでの仕事を無難にこなして夕方になった。
夜のことを考えると、どきどきするので考えないようにしていた。
そして俺の仕事が終わる時間。
カカシさんが現れた、アカデミーの職員室に。
「イルカ先生〜。迎えに来ましたよ〜」って、職員室の入り口からのんびり手を振るカカシさん。
楽しそう。
俺は机の上の書類を慌てて揃えると職員室から飛び出した。
仕事は一段落していたし、カカシさんと、どうやって落ち合おうかと思っていたところだったので。
カカシさんが迎えに来てくれたのことに感謝した。
朝を同じく並んで歩きながらカカシさんは言った。
「いつものお店でいいですか?」
「あ、いいです」
いつもの店ってカカシさんと俺が偶に飲みに行く店。
店内は落ち着いた雰囲気で安くて美味い。
酒の種類も豊富。
特に依存はなかったので、いつもの店に行くことにした。
店についてお酒と料理を頼むと俺はカカシさんの方を向いた。
テーブル席なのでカカシさんは正面にいる。
「カカシさん」
「はい、なんでしょう」
俺を見つめるカカシさんの目が優しい感じがする。
もっと言えば、愛しさが入り混じったような・・・。
いやいや、それは俺の気の所為だ。
それより・・・。
「誕生日おめでとうございます!」
やっと言えた。
「ありがとう、イルカ先生」
カカシさんは笑顔になる。
「イルカ先生の祝ってもらえて嬉しいなあ」
本当に嬉しそう。
可愛い人だなあ〜。
あ、そうだ、プレゼント。
欲しいもののことを聞かないと。
俺は控えめに切り出した。
「カカシさん、誕生日のプレゼントのことですけど」
「はいはい」
カカシさんが身を乗り出してきた。
期待に胸を膨らませているようだ。
「この前、俺、カカシさんに欲しいものがないか訊きましたよね?」
「はい、覚えていますよ」
「で、いただいたヒントを素に考えてみたんですが」
「分かりましたか?」
カカシさんの弾んだ声。
「一応、分かったと思うんですけど」
「それで?」
「でも、それをカカシさんが何で欲しいのか理由が分からないんです」
結局、考えたけれど解らなかった。
なんで『うみのイルカ』が欲しいものになるのか?
用途が解らないので、どうしたらいいのか解らなかった・・・。
俺の言葉をカカシさんが虚を突かれた顔になる。
びっくりしていた。
「なんでカカシさん、欲しいんですか?」
「え、なんでって、それは」
「借金の方か労働力か、同姓同名の女の子か、色々と可能性を考えてみたんですけど」
俺の眉は、きっと下がって八の字になっていることだろう。
「さっぱりで」
そこへ頼んだ酒が着たので、一時中断して乾杯をした。
酒を飲んで一息つくとカカシさんは俺を見て、やっぱり優しい顔になった。
「俺の言い方が悪かったみたいですね」
話し始めた。
「俺が欲しいものと言ったのが駄目ですね」
テーブルの上に置いてある俺の手に、そっと自分の手を重ねてきた。
「俺が欲しいのは、一緒にいたりする時間です。できたら、人生を一緒に生きていきたいんです」
俺を見て、片目を細める。
「性別や年齢に関係なく好きだからです」
「・・・すき」
「そう、好きなんです。だから邪まな思いも下心もありますし、独占したい気持ちも存分にあります」
なんか、すごいこと言ってるな、カカシさん。
「でもね、イルカ先生」
手の上に置かれたカカシさんの手が俺の手を握ってきた。
「大切だから嫌われるようなことはしません。無茶なことも無碍なこともするつもりはありませんから安心してください」
そういう訳で、とカカシさんは締めくくった。
「これが俺が欲しいという理由です」
解ってくれましたか?って、それって。
それって、あれだ。
解った俺は、かーっと体が熱くなり顔が火照る。
誤魔化すために酒を一気に飲み干した。
何なんだ、今の?
要するに、つまり、あれだ。
カカシさんが俺の顔色を読み取ったようだった。
耳元で囁かれる。
「これは愛の告白ですよ」
声が甘い。
「誕生日のプレゼントにね」
それ以上、言われたら倒れてしまうかもしれない。
「イルカ先生に恋人になってほしいんです」
・・・言われてしまった。
だって欲しいものは『うみのイルカ』で、一緒に人生を生きること。
カカシさんに言われても、すんなり納得できる自分がいる。
俺もカカシさんのことが好きみたいだし。
今は混乱していて自分の気持ちがはっきりと解らないけれど、それは追々解っていくだろう。
「ね、いいでしょう?」とカカシさんに言われて断れるはずもなく。
俺は頷いてしまった。
これから、どんな付き合いになっていくのだろう。
恋人って、どんなだろう。
人生で初めて恋人ができた俺は、どきどきして。
後で、カカシさんと初めてキスをした時にカカシさんに言われた。
「バースデーキスですね!」
・・・そんなのあるのか。
でもカカシさんが幸せそうにしているので俺は、いいかと思った。
好きな人が幸せなのが一番嬉しい。
カカシさん、誕生日おめでとう!とキスをした後に、もう一度言ったら、またキスされた・・・。
それから。
恋人関係になった俺たちは順調だと思う。
後日、カカシさんと俺を見た火影さまは察するところがあったのか「良かったな」と言っていた。
女性の勘で前から何かおかしいと気づいていたらしい。
さすが火影さまだ。
ともあれ、カカシさん。
誕生日おめでとう。
毎年、カカシさんの誕生日が来るたびに今日の事を思い出すだろうな。
願わくば、ずっとずっと何年後も何十年後も思い出せますように。
カカシさんと一緒に。
終わり
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