たまにはいいか
受付けの仕事している時に同僚に突然、言われた。
「イルカは明日、休みだってさ。」
「休み?」
「ああ、一ヶ月前に休日出勤しただろう?その代休だってよ。」
休日出勤なんて、あったけ?
俺も忘れていたのに、今頃?って思ってしまった。
そんな思いが顔に出ていたのだろう。
同僚が俺の肩を叩く。
「ま、そんなもんだ。休みなんて。」
そうか、そんなもんか。
俺は有難く休ませて貰うことにした。
でもさ、突然、休みを貰っても俺は、これと言ってやることがなかった。
帰り道に色々と考えては見たものの何も思いつかない。
平日の休みは久しぶりなので、有効に使いたい。
使いたいんだけど、だいたいにして、カカシさん、今、任務でいないからなあ。
俺は、はあっと溜め息をついた。
カカシさんがいないと、やる気というか活力というか元気が出ないんだ、これが。
カカシさんは、里から遠く離れた任務地に長期で赴いている。
里への帰還日は未定だ。
俺には任務の状況も知ることもできない。
いつ、帰ってくるんだろう?
夜空を見上げると、とても恋しくなった。
カカシさんに会いたいなあ。
家に帰りついた俺は冷蔵庫の中を見てみたが、食べれる物が何もなかった。
カカシさんがいないと食欲も出ないもんだから、食事も簡単に済ませていたんだよなあ。
「夕飯、どうすっかなあ。」
冷蔵庫には、食べ物はないけど飲み物だけは山とあった。
俺の好きなビールとかビールとかビールとかね。
冷蔵庫からビールを取り出すと俺は、とりあえず飲んでみた。
きーんと冷えたビールは五臓六腑に染み渡り、すごく美味い。
あっという間に一缶飲んでしまうと既に夕飯は俺の中で、どうでもよくなってしまった。
明日は休みだし、今夜は好きなだけビールを飲んじゃおう!
そう決めた。
カカシさんが聞いたら怒るだろうなあ、と思いながら。
手始めに風呂の中でビールを飲んだ。
風呂の中で冷えたビールを飲むのは最高だった。
熱い風呂に冷え冷えのビール、よく合うよなあ。
カカシさんと暮らすようになって、風呂でアルコール類を飲みのは厳しく止められていた。
「熱い風呂でアルコールを飲むなんて絶対に駄目です。」
眉を顰めて、きつく言い渡された。
「酔ったら溺れそうになるし、アルコールで血流が早くなって体に負担がかかります。」
いいことなんて何一つないんですよ、とカカシさんは俺を諭した。
それで俺は風呂でアルコール類を飲まないとカカシさんと約束したわけだが、今、正に破ってしまっていた。
カカシさんとの約束を破ってしまった罪悪感はあった、でもさ。
「だって。」と俺は飲み始めてから四缶目のビールを風呂に漬かりながら開け、口を尖らし独り言ちた。
「カカシさんがいないから。」
いないってことは、傍にいてほしいってことで・・・。
つまりだ、俺は寂しかったのだ。
明日は独りきりの休みだなんて、つまらない。
寂しいのを認めるのを悔しかったが、やっぱり寂しかった。
ほろ酔い気分で風呂から上がった俺は浴衣を羽織ると、開け放した座敷の縁側で月を見ながら、再び飲み始めた。
カカシさんも、どこかで、この月を見ているだろうか。
ビールから冷酒へと切り替えて、飲んでいた俺は、まあ酔っていた。
だから、いいかーと思って月に向かって控えめに叫んでみた。
「カカシさーん。」
月が答えることはない。
「早く帰ってこーい。」
・・・・・・失敗した。
言葉に出すと駄目だ、帰って寂しさ倍増だ。
「待ってるから帰ってきて、カカシさん。」
カカシさん・・・。
寂しくなって膝を抱えてしまう。
カカシさんに、ものすごく会いたくなってしまったからだ。
あのカカシさんの温もりが恋しくて堪らない。
「カカシさん、どこにいるんですか?」
そう呟いた時、庭から声がした。
「ここですよー。」
え?と思って顔を上げるとカカシさんが夜の庭に立って、にこにことしていた。
「ただいま、イルカ先生。」
「本物?」
「本物ですよー。」
そう言ってカカシさんは、すたすたと俺に近寄ってきて俺の頬を撫でた。
「寂しくさせちゃって、ごめんね。」
優しい瞳が俺を見る。
「独りにさせちゃって、ごめんね。」
ぎゅっと俺を抱きしめてきた。
「やっと帰ってきたよ、イルカ先生。」
俺の求める温もりが、そこにあった。
「お帰りなさい。」
そう言ってから俺は力いっぱい抱きついた。
一頻り抱き合うとカカシさんは俺を見て、いや俺の周りのビールの空き缶や酒瓶を見やって苦笑した。
「だいぶ、飲んだようですね。」
「えっ・・・。ええ、まあ。明日、休みなので。」
ついつい飲んでしまいました、と白状するとカカシさんは「俺も明日は休みですよ。」と言って「二人でゆっくりできますね。」と微笑んだ。
明日の休みはカカシさんと一緒!
すごく嬉しい!
最高の休みになりそうだと俺は舞い上がり、事実、その通りになった。
やっぱ、カカシさんがいると何もかもが楽しくて嬉しくて、俺の総てを幸せにしてくれる。
ありがとう、カカシさん。
大好き!
でも、風呂にあったビールの空き缶を捨て忘れていたことから、俺が風呂でアルコールを摂取したことがカカシさんにばれて、俺は大目玉を喰らった。
ついでに冷蔵庫も見られて、ご飯をちゃんと食べていなかったのもばれて叱られた。
「イルカ先生のためなんですから。約束を守ってくれないと俺は心配で堪りませんよ。」
「ごめんなさい。」
「寂しかったのは分かるけど。」
俺も寂しかったから、とカカシさんは言った。
カカシさんも俺と同じ気持ちだったんだなあ。
ものすごく反省した俺はカカシさんと、改めて約束の指切りした。
「もうしませんから。安心してください。」
「分かりました。」
カカシさんは優しい顔で頷いて「ご褒美です。」と俺に優しくキスしてくれたのだった。
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