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ただいま



ある日、カカシさんが夕飯の席で言った。
「実は、俺、長期の任務に行くことになってしまって。」
「そうですか。」
努めて冷静に俺は、そう返した。
カカシさんほどの忍者なら、そういう任務の依頼があってもおかしくはない。
「それで、少し難しい任務なので・・・。」
カカシさんは言い難そうだ。
「帰還が、いつになるか分からないんです。任務の間は連絡も一切できません。」

心臓が、どきりと音を立てた。
カカシさんが改まって、そんなことを言うなんて。
俺は任務内容を知ることをできないけど、かなり危険な任務に間違いないだろう。
音を立てた心臓が、止まらなくなってきた。
どきどきどきどき、と不安が押し寄せてきて心臓は止まらない。
でも、それをカカシさんに悟られてはならない。
任務前に余計な気を使わせてはいけないよな。
俺は、こういう時の為の得意の笑顔を使って、微笑んで見せた。



「じゃ、これから任務の準備で忙しくなりますね。体調にも気をつけないと。」
テーブルの上にあったお茶を一口飲み、気を落ち着けようとしたけど無理だった。
忍者同士なのだから、長期の任務や危険なことがあって然るべきなのに、肝心な時に動揺してしまうなんて駄目だな。
カカシさんに俺の心配はさせたくない。
いつものように振舞え、と心の中で自分を叱りつけて、無理矢理に夕飯を食べた。
そんな夕飯は丸っきり味も分からず、まるで砂を噛んでいるようだった。
カカシさんは、そんな俺を見て何も言わず、また俺もカカシさんがどんな顔をしていたのかも思い出せなかった。


それから俺は任務に行く前のカカシさんの前では明るい表情を作っては楽しい話をするようにした。
当たり前だけど任務に行く人に、残る人の心配や不安をさせてはいけないと思ったからだ。
カカシさんの方が辛いに決まっている。
自分の寂しさは心の奥底の一番下に押し込めて、鍵を掛けて見ないふりをした。
だって、俺も忍者だったからだ。



カカシさんが任務に発つ朝、俺は玄関先で見送りをした。
本当は里の大門まで見送りしたかったけど、一緒に任務に行く人たちもいるだろうから、大門までは付いていくことはできない。
「行ってらっしゃい。気をつけて。」
御座なりな決まり文句の挨拶しか思い浮かばず、俺は極めて普段のように任務に行くカカシさんを送り出すつもりだった。
「イルカ先生。」
なのに準備も整い、後は荷物を背負って行くだけになったカカシさんは、くるりと俺を振り返って言った。

「ごめん。」
「えっと、どうして謝るんですか?」
びっくりして聞き返した俺の問いには答えずに、カカシさんは俺の腕を引っ張ると強く抱きしめてきた。
「イルカ先生、俺が任務に行くから全部、何もかも我慢していたでしょう。俺を心配させないように、寂しいの我慢しているじゃない。」
「そんなこと・・・。」
「最初に任務のことを言った時のイルカ先生の顔、笑っていたけど泣きそうでしたよ。」
俺、そんな顔をしていたのか・・・。
「大丈夫、俺、絶対帰ってきますから。絶対に、また俺たち会えますから。」
俺を抱きしめるカカシさんの体温が伝わってきた。



大好きな人の優しい温かさだ。
ずっと覚えていたい温かさだ。



「少しだけ、俺のこと待っていて、イルカ先生。」
俺も、ぎゅっとカカシさんを抱きしめ返した。
「分かりました。待っています。」
「きっとだよ。俺も寂しいの我慢しますから。」
カカシさんも寂しかったのか・・・。
「好きな人と離れるんですから、例え任務でも、寂しいものは寂しくていいんですよ。寂しがっていいんですから。」
そうか、寂しいといってよかったんだな。
肩の荷が、すとんと下りたような気がした。
カカシさんは何でも俺のこと、お見通しなんだなあ。



それを言うとカカシさんは「当然ですよ。」と何故か威張って言った。
「だって、俺、イルカ先生の恋人ですもん。」
「そうですね。」
くすり、と笑うとカカシさんは額を、こつんと合わせてくる。
「やっと笑った。」
「え?」
「だって、イルカ先生の笑顔、最近、見てなかったから。」
「・・・そうですか?」
いつも笑っていたつもりだったんだけど。
「何回も言いますけど、俺はイルカ先生の恋人なので、恋人の笑顔が無理して作ったものか自然のものなのか一発で解ります。」
カカシさんは、にこりとする。
「恋人の笑顔で送り出されるのが、一番、嬉しいですよ。」



カカシさんは、そう言うと、俺の唇に自分の唇を軽く重ねて触れてきた。
「行ってきます。離れていても大好きですからね。」
額にも両頬にも米神にもカカシさんの唇が触れる。
「イルカ先生。大好き。」
耳朶にも首筋にも鼻先にも触れ、最後に唇に戻って、もう一回、唇と唇が長く触れ合った。
そして、ゆっくりと唇は離れていき、カカシさんは任務に行ってしまったのだ。




元気かなあカカシさん、と俺は青い空を見上げた。
カカシさんが任務に行ってから空を見上げて、カカシさんを想うことが多い。
どうしてるかなあ、と思った後、必ず、心の中で呟いた。
俺は元気ですから、カカシさんも元気でいてください、と。
連絡はできないから、カカシさんが元気かどうか分からないけど、せめて願うことくらいはしてしたい。
秋口にカカシさんが任務に行ってしまってから、もう大分、月日が経つ。
季節は初夏になっていた。



そんな折り、受け付けをしていた俺に報告書を出しに来たアスマ先生が俺の肩を、ぽんぽんと叩いた。
「帰ってくるみたいだぜ。」
「え?」
耳元で内緒話をするように囁いてくる。
「内々の情報だけどよ、明後日、帰って来るらしいぜ。」
「明後日・・・?」
アスマ先生は、にやりとして俺を見る。
「誰のことか分かるだろう?」
「そ、それは、勿論。」
俺は、こくこくと急いで頷いた。
勿論、あの人のことだ。



あの人、カカシさんが帰ってくる!
明後日にはカカシさんに会えるってことだ。
カカシさんに!



「イルカ。」
アスマ先生に名を呼ばれて、はっとなった。
報告書の受け付けが途中だった。
「す、すみません。」
「いや、いいけどよ。顔が笑っていたぜ。」
「すみません・・・。」
気づかぬうちに、自然と笑っていたらしい。
「別に責めているわけじゃないさ。カカシが任務に行ってから見た、イルカの笑顔の中で一番、嬉しそうだなと思っただけだ。」
それだけ言うと「じゃあな。」とアスマ先生は行ってしまった。
なんて、いい人なんだ、アスマ先生。
だけども教えてくれた、お礼を言い忘れてことに気が付き慌てて後を追いかけた。


それから俺は会う人会う人に言われた。
「なんか良いことあったのか?」って。
嬉しいのが、目一杯、顔に出ていたらしい。
気を引き締めていたつもりだったんだけどな・・・。
ちょっと反省した。
俺、嬉しくて嬉しくて、しょうがなかったんだな、好きな人に、また会えることが。


カカシさんが帰ってくる日まで、家の掃除をして片付けて、好物を張り切って作って、デザートにプリンなんてものも用意しちゃって俺はカカシさんの帰りを待った。
今か今かと待っていた。
浮き浮きと待っていた。


そしてカカシさんは無事に俺のところに帰ってきた。
俺は両手を広げて出迎える。
「お帰りなさーい。カカシさーん!」



俺の大好きな人は帰ってきたのだ!








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