もう少し
イルカ先生が体調を崩して伏せっている。
疲労と風邪の引き始めが重なったらしい。
それに熱っぽい。
熱を測ると案の定、熱があった。
いつも無理してギリギリまで我慢してしまうからだよ、イルカ先生。
枕に顔を埋めているイルカ先生の頭を、そっと撫でた。
いい機会だから、偶にはゆっくり休んでね。
幸い、俺は高ランク任務が終わったばかりなので長めの休みを貰っていた。
ゆっくり看病できるぞ。
「イルカ先生、何か食べたいものありますか?」
風邪の時の、定番の文句を俺は心なしか、浮かれて口にした。
いや、イルカ先生が風邪だってのは十分分かっているよ。
イルカ先生は半分閉じた目で、ちらりと俺を見て言った。
「あれが食べたい・・・。」
「え?あれ?」
あれ、って何だろう?
すっごく気になる。
なのに、イルカ先生の瞼は閉じてしまって夢の中だった。
起こすわけにもいかず、俺は軽くため息をついた。
結局、何日かはイルカ先生はベッドから起きられず、不謹慎ながらも俺は浮き浮きと看病していた。
体調がかなり回復してきたイルカ先生の今度こそは、と思って俺は聞いてみた。
「イルカ先生、夕飯は何が食べたいですか?」
イルカ先生は昼ご飯のお粥を食べ終わってばかりで、炬燵に入って半纏を羽織り座椅子に寄りかかってテレビを見ている。
大分、良くなってきたので俺が許可したのだ。
快復に向かってくるとベッドで横になってばかりだと退屈だと思ってね。
イルカ先生は、ぽつりと呟いた。
「イクラ丼。」
「はい?」
「鰻重。」
「ええ?」
「味噌だれがかかった豚カツ。」
「あのねえ。」
「とろとろのチーズが乗っかったハンバーグ。」
病人が直ぐに、そんな重いもの食べれるはずはないでしょう。
だから俺は当然、こう言った。
「だめです、ってか無理です。」
「ええっ〜。」
イルカ先生が悲しそうにする。
見ていたテレビ番組が悪かったな。
なんとかいうグルメ番組で、旨いもの特集とか何とかだった。
俺はテレビを消してイルカ先生に言った。
「今夜も何か消化にいいものにしますね。できるまで寝ててください。」
「はーい。」
イルカ先生は素直に返事をしてベッドに戻る。
病気の時は素直で可愛いなあ。
病気じゃないときは少し素直じゃないけど、可愛いんだよなあ。
全快したらイクラでも鰻でも、好きなもの食べさせてあげよう、と思った。
一週間、風邪を引いて熱を出して寝込んでいたイルカ先生が熱が下がった途端に、出勤しようとする姿を見て俺は慌てた。
「ちょっとちょっと、イルカ先生。今日は、まだ休んでなさいよ。」
イルカ先生は、きょとんとした顔で俺を見る。
「なんでです?もう熱はないですよ。」
「あのねえ。」
俺は溜息をついた。
「一週間も床に就いていた人が、いきなり普通にできるはずないでしょ。体、ふらふらしてるでしょうが。」
イルカ先生の通勤かばんを取り上げて俺はベッドにイルカ先生を押し戻した。
「今日は、大事をとって休みなさいって。そんで、今日一日は栄養あるもの食べて、体力回復してから仕事に行けばいいんです。」
仕事は逃げませんよ、と言い含め、肩まで布団を掛けてあげる。
「ありがとう、カカシさん。」
小さく言うと、イルカ先生は目を閉じた。
やはり、完全には快復しいなかったらしい。
眠ってしまった。
安らかに眠るイルカ先生の頭を撫でながら俺は呟いた。
「実はさ、もう少し看病したかったんだよね。」
俺がイルカ先生を。
俺の休みも今日で終わりだし、休みの間、イルカ先生は風邪ではあったけど二人でいることができたし。
ちょっとだけ我侭しちゃったかな。
ごめんね、と俺は眠るイルカ先生の頬に口付けたのだった。
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