好きなんだろうなあ
午後の受付け所。
人が途絶えた時間、イルカは五代目火影の綱手と偶々、二人きりだった。
イルカが受け取った報告書をチェックしたり纏めたりしていると、横で綱手が盛大に欠伸をした。
「ふああ〜あ。」と欠伸で開いた大きな口を、手で形だけ塞ぐ真似をしながら綱手は言う。
「暇だねえ。こう暇だと眠くなってしまうねえ。」
「そうですねえ。」
相槌を打ちながらイルカは手を休めることはしない。
「お茶でも淹れましょうか。」
日頃忙しい綱手を気遣って訊く。
「ああ、お願いするよ。」
綱手は「熱いやつね。」と注文をつけた。
イルカが淹れてくれた熱い茶を飲んでいると人けのない受付け所に、ふらりと現れた人物がいた。
「こんにちは〜。」
片手をポケットに突っ込んで、もう片方の手を、ひらひらと振りながら入ってくる。
「なんだい、カカシ。任務中じゃないのかい。」
突然、受付け所に現れたカカシに綱手は眉を顰めた。
「いいじゃないですか〜。ちょっと、そこまで来たもんですからね。」
掴みどころのない返事をしながらカカシはイルカの前まで来る。
報告書の類を持ってないので本当に、ただイルカの前に来ただけだ。
「イルカ先生。」
にこにこしてカカシは話しかけた。
「・・・何でしょうか。」
少々、警戒しながらイルカはカカシを上目遣いに見上げる。
「はい、これ。」
カカシは、徐にイルカの手を取ると手の平に何かを、ぽとりと落とした。
「飴玉・・・。」
イルカの手の平に落とされたのは、綺麗な包み紙で包まった飴だった。
「うん、そうだ〜よ。」
何故かカカシは機嫌良さげだ。
「あげる。」
イルカの手の指を優しく折り曲げると飴を握らせた。
「食べてね〜。」
それだけ言ってカカシは来た時と同じく手を、ひらひらと振りながら受付け所を出て行った。
カカシが出て行くと受付け所に沈黙が落ちた。
綱手はカカシに飴玉を貰ったイルカを茶を啜りながら興味深く眺めて、イルカは手の平を恐る恐る開きカカシに貰った飴玉を眺める。
「五代目。」
イルカは横にいる綱手に話しかけた。
「今のは、いったい何々でしょうか?」
「今のってカカシのことかい?」
こく、とイルカは頷く。
「なんで俺に、これを。」と綱手に飴玉を見せる。
「くれたんでしょう?」
「そりゃあ、あれだろう。」
ごくり、と茶を飲み干して綱手は「おかわり。」とイルカに湯飲みを差し出した。
素直に湯飲みを受け取り茶を淹れるイルカ。
「どうぞ。」と、お代わりの茶を渡すと綱手は礼を言ってから、茶を一口飲んだ。
「あれって何ですか。」
続きを訊いてきたイルカに、ずばり言う。
「好きなんだろうなあ、ってことだよ。」
綱手の言葉にイルカは首を傾げる。
「飴が好きなんですか、カカシさん。」
「違うよ、そうじゃない。」
面白そうにイルカを見て綱手は、にやりとした。
「カカシは飴が好きなんじゃなくて。」
くるり、と人差し指で空に円を描いてから綱手はイルカを指差す。
「イルカが好きなんだろう。」
たっぷり一分固まってからイルカは、ぎこちなく返事をした。
「・・・・・・・・・はい?」
「カカシはイルカのことが好きなんだろうなあ、ってことだよ。」
「・・・・・・・・まさか。」
訝しげに綱手を見てからイルカは否定した。
「そんなことある訳ありませんよ。だって、カカシさん好きな人がいるって言ってましたし。」
「だから、それがイルカなんだろうなあ、って話だよ。」
少しばかり頭の固いイルカに綱手は諭すように言う。
そういうところも気に入っていたからだ。
「だって、ここんとこ毎日カカシは受付け所に来ているじゃないか。」
「ええ、まあ、そうですけど・・・。」
「昨日も来てイルカに飴玉やってたし、一昨日は板チョコ、その前は飴玉で、その前も飴玉だったけ?その前も飴玉で・・・。意外にバリエーションがないねえ。」
カカシは受付け所の人がいない時間、イルカと綱手が二人きりの時ばかり来ていた。
「でも、それだけじゃ・・・。」
根拠が薄い、と言うイルカに綱手は決定的なことを指摘する。
「それにさ、ここにカカシが来てもイルカにあげたりするばっかりで、一度たりとも私は何一つ貰っていないよ。」
「あ・・・。」
「別に貰いたいとは思わないけどね。」
その他にも思い当たることは多々、綱手はあったのだが、それについては黙っていた。
カカシがイルカのことを好きなんだろうなあ、と思われる理由。
それは二人を見ていれば、おのずと解ることだから。
イルカには自覚がないようだけど、カカシとイルカが一緒にいると周囲に、忍びらしからぬ、ほんわかとした甘い空気を漂わせるんだよねえ。
綱手は、こっそりと溜め息を吐いた。
その甘い空気に中てられた人間、特に独り身にはダメージがきつい。
それは私も同じなんだけどね・・・。
悩むイルカを横目で見ながら綱手は冷めた茶を啜った。
自覚がないのも困ったもんだねえ、と。
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