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総決算



久しぶりに任務を受けた。
帰ってこれた・・・。
家に辿り着いてイルカは、やっと息を吐き出した。
時間は深夜である。
一気に緊張が解けていくと共に床に崩れ落ちてしまった。
冷たい床の上に座り込んでしまう。
「はあ」
吐息が漏れた。
「疲れた」
本音である。
アカデミーに勤務していて、このところ任務らしい任務に出ていないのに気がつき、体よくアカデミーが冬休みなのも相成って、本当に久方ぶりに任務を受けてみたのだ。
この年の瀬に。
結果は鈍っていた。
体も感覚も平和な里に慣らされてしまったのだろうか。
「修行しなおさないと駄目だなあ」
任務で汚れた服を脱ぎ捨てながらイルカは己を振り返った。
「こんなんじゃ忍者と名乗れないよなあ」
溜め息と共に汚れてしまった額宛を布で拭く。
きゅきゅっと汚れを拭き取ると木の葉のマークが現れた。
木の葉のマークを暫し眺める。
ふ、とイルカの顔に笑みが零れた。
「もっと頑張ろう」
そう決めた。



任務から帰って自宅は妙に広く感じた。
いつもはイルカの恋人が常駐しているのだがイルカが任務に出てしまったので、自分の家に帰ってしまったのだろう。
予定は言っておいたのだが、それよりも三日も早く任務を終えて帰ってきてしまった。
広々とした自宅を見回してイルカは感傷的になってしまう。
・・・寂しい。
任務を終えた後は無性に人に会いたくなる。
人恋しくなってしまう。
きっと誰かにお帰りと言ってほしいのだ。
お帰りという言葉が欲しいのだ。
里に帰って来たのを実感したい。
ちら、とイルカは壁掛け時計を見た。
時計の針は深夜零時を過ぎている。
こんな時間に行ったら迷惑だろうか。
イルカは脳裏に優しい恋人の顔を思い浮かべた。
付き合って、まだ一年。
・・・会いたい。
その気持ちが強くなる。
・・・どうしているかな。
こんな時間なので寝ているのかもしれない。
もしかして恋人も任務で不在かもしれない。
それでもいい、とイルカは思った。
いなければ帰ってくればいいだけの話である。
いたら・・・。
少しだけ顔を見て帰ってこよう。
・・・いたらいいな。
恋人の名を言ってみた。
「カカシさん」

夜の道を灯りもなしで、テクテクと歩く。
カカシの家へは目を瞑ってでも行ける自信がある。
忍服の黒い上下だけ、ジャケットを脱いだラフな服装でイルカは夜道を歩いていた。
テクテクテクテク。
吐き出す息は白く、夜空には星が瞬いている。
冬の空だ。
・・・ちょっと寒いかも。
外套を着てくればよかったと後悔したのだが、カカシに会いたい気持ちが強く大急ぎで家を飛び出してきてしまったのだ。
自分の慌てぶりに笑ってしまった。
・・・俺って本当にカカシさんが好きなんだな〜。
白い息を冷たくなった手に吹きかけると少しだけ温まるような気がした。
好きだと告白してきたのはカカシだけれども、今ではイルカの方がカカシのことを好きなのかもしれない。
俺の愛は不滅だから。
そんでもって一途。
一人の人を好きになったら、それだけいい。
多分、もう他の人は好きにならない。
一生に一人の人だけしか好きになりたくない。
それがカカシだ。
・・・こんなことをカカシさんが知ったら重く感じるかな。
言うつもりはないが。
カカシを思うと胸が熱くなる。
外気は凍りつきそうなほど寒かったのだが心は温かくなった。



カカシの家の前まで来てしまった。
灯りは点いているので家にはいるのだろう。
・・・寝ているかな?
部屋が明るくても起きているとは限らない。
時間が時間なので電気を点けっぱなしで寝ている可能性もあり得る。
しかし、カカシの玄関扉の前に立つと中からカカシの気配がする。
気配は動いており、カカシが起きていることが分かった。
・・・いるんだ、カカシさん。
ほっとする。
この扉一枚隔てた向こうにカカシがいる。
とっても会いたい人が。
深夜なのでドアチャイムは響く。
声を掛けるのも躊躇われてイルカは扉をノックすることを選んだ。
控えめに二度、扉を叩く。
コン、コン。
いつもならばカカシはすっ飛んできて開けてくれるのだが、いつまで経っても扉が開かない。
・・・誰かと一緒?
もう一度、中の気配を慎重に探ってはみたもののカカシ一人の気配しかない。
焦れたイルカは思い切ってドアノブを回してみた。
ぎっと音を立てて扉は開いた。
そーっと開けてみる。
小声でカカシの名を呼んだ。
「・・・カカシさん」
応えはない。
もしかして、とイルカは唐突に心配になった。
・・・もしかしてカカシさん、部屋で倒れていたりして、急病とかで。
不安が襲ってくる。
ごめんなさい、とイルカは心の中で謝りながらカカシの家へ侵入した。



念のため、気配と足音を消して、そろそろと歩いて中に入るとカカシの姿が見えた。
倒れてはいない。
・・・よかった。
安心した。
カカシはイルカに背を向けて床に座り、床の上の何かを手に取っては眺めて、また別の何かを手に取っては眺め手を繰り返している。
楽しげな雰囲気が伝わってくる。
カカシは何かに夢中でイルカが来たことに気がついていないらしい。
イルカのことも気がつかないほどの夢中なもの。
・・・なんだろう。
ひどく気に掛かった。
ゆっくりと忍び足で近づくとカカシが口ずさんでいた。
「そ〜けっさ〜ん、そ〜けっさ〜ん、い〜ちね〜んか〜んのしゅ〜たいせ〜い、俺の大事な〜宝物〜」」
どうやら、それは総決算、一年間の集大成と言っているようだ。
・・・いったい何だ。
カカシの背後からカカシが眺めているものを覗き込んだ。
「あ、これ・・・」
イルカが声を出すと同時に、やっとカカシがイルカに気がついた。
「あっ!イルカ先生っ!」
叫ぶと同時にカカシは床の上に散らばっている何かをかき集めた。
イルカに見えないように。
だが、もう遅い。
イルカは床の上の何かを手に取って、まじまじと見つめた。
「俺の写真・・・」
カカシが眺めていたのは大量のイルカの写真であった。



「なんで、俺の写真がこんなに・・・」
撮られた覚えはない。
「これもこれもこれも、俺ばっかり」
なんで、と呟き、カカシを見ると頭をがしがしと掻いていた。
掻き毟っていた。
「これは、いったいどうしたんですか」
訳も分からずカカシに問うと「うー」とか「あー」とか唸っていたカカシが、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「え、どういう・・・」
「俺が撮りました、隠し撮りです」
潔く白状した。
「いや、あのですね」
イルカを見ては視線を逸らしながらカカシは、しどろもどろで説明を始めた。
「俺がいない時にイルカ先生って、どんな表情をしているんだろうって興味がわいて陰から見ていていたら写真を撮りたくなって、そんでもって写真を撮ったら嵌ってしまったというか、そのあのその」
「はあ」
写真の一枚を手に取ると満面の笑みのイルカがいた。
嬉しそうに笑っている。
違う一枚を手に取ると、これまたイルカは笑っていた。
よくよく見ると、どのイルカも笑っている。
楽しそうに嬉しそうに明るく。
「これ、カカシさんが撮ったんですか?」
「・・・そうです」
「俺って、こんな顔して笑っていたんだ」
自分の笑顔を、まじまじと見てしまう。
こんな風に笑う自分。
どうしてこんな風に笑えるか、イルカには心当たりがあった。
「ええ、イルカ先生の笑顔って素敵ですよね」
いつの間にか、イルカの隣へ来ていたカカシが頷く。
「大好きです。あ、他の表情のイルカ先生も、もちろん大好きですよ」
「そうですか」
「あの〜、怒ってない?」
カカシが恐る恐るという風に尋ねてきた。
「怒ってないですよ」
イルカは微笑んだ。
「俺がこんな風に笑えるのはカカシさんがいるからです」
笑顔が素敵とカカシは言ったが、それはカカシがいるからだった。



「えっと」
ほのかの顔が赤くなったカカシは照れているのかもしれない。
「ごめんなさい、ほんと。反省してます」
「いいんですよ」
カカシを怒る気持ちにはなれなかった。
カカシは、また頭を下げた。
「この一年間、イルカ先生と恋人になれたのが嬉しくて、ついイルカ先生と隠し撮りしちゃったんです」
悪用はしません、俺しか見ませんからとカカシは強く言ってきた。
「俺の大事なコレクションで宝物ですからね!」
「分かりました」
カカシは大事なコレクションの整理に夢中になっていてイルカの気配に気がつかなかったのだ。
総決算も一年間、撮り溜めた写真のことだった。
「ありがとう、ごめんね、イルカ先生」
それから、はっとしたようにイルカに言った。
「イルカ先生、任務から早く帰ってきたんですね」
「あ、はい。夜更けにお邪魔してすみません」
「いいんですよ、イルカ先生ならいつ来ても。それよりも高ランクの任務だったのに予定より早く終えて帰ってくるなんて、さすがイルカ先生ですね」
カカシに褒められると照れくさい。
「そんなことないですよ」
謙遜してしまう。
「イルカ先生」
カカシが腕を広げてイルカを抱きしめてきた。
「お帰りなさい」
抱きしめる腕が力強く、心地よい。
イルカの欲しい言葉をカカシはくれた。
里に帰ってきたと実感した。
「怪我がないようでよかったです。それに年内に帰ってきてくれたので一緒に年越しできますね。これからも俺と一緒にいてくださいね」
「こちらこそ」
カカシの顔を見る。
「少し早いですが来年もよろしくお願いします」
「来年どころか、一生ですよ俺は」
カカシとイルカは顔を見合わせて目を閉じる。
恋人たちは未来を誓い、キスをした。






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