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信じる者は救われる



「好きです、付き合ってください」
そう言われて手を差し出されたけど、その手を取れなかった。
理由はある。
相手が自分と同じ男だとか嫌いだとか、そんな理由じゃない。
ただ何というか・・・。
悲しいことに信じ切れなかったのだ。
目の前の人が言うことを。
無言で見つめていると差し出された手を下げられた。
「返事は今でなくてもいいです」
じっくりと考えてください。
「イルカ先生」
俺の名を呼んで目の前の人は静かに去って行く。
はたけカカシ。
里で名を知らぬ者はいない崇高な忍者だった。



一週間後に任務に行くと聞いた。
依頼書は仕事柄、目にするので見てしまった。
そして、その依頼書を本人に渡したのは俺だ。
「ありがとうございます」
仕事だというのに渡すと嬉しそうに頬を緩めていた。
仕事なのに。
そういえば、あの返事はまだしていない。
考えることを放棄していたので今聞かれても困るけれど。
「お気をつけて」
怪我なんてしませんように。
任務に行く忍者に向かって、よく言う言葉だ。
お決まりの一つになっているが心から言っている。
任務で誰も死なないように、誰も傷つかないようにといつも思っている。
みんな無事に帰ってきてほしい。
「優しいですね、イルカ先生は」
目を細めて俺を見つめている。
その視線を避けるようにして俺は言った。
「行ってらっしゃい、カカシ先生」
子供たちが呼ぶように俺は呼んだ。



カカシ先生は明日出立だ。
仕事を終えた俺は家路へを急いでいた。
その帰り道すれ違った。
カカシ先生と女の人。
女の人はくの一。
明日の任務でカカシ先生と任務に行く人。
多分打ち合わせか何かで何もないと思うけど。
ほんのりと胸の中が靄がかかる。
その靄は黒い色をしている。
俺を好きだと言っていたのは錯覚ではなかったのかと思えるほど、女の人といるカカシ先生は自然だった。
本来なら男の人と女の人が結ばれるのが自然の形だ。
それをカカシ先生は破ろうとしている。
俺のどこが良かったのか。
聞けばよかったと後悔した。



カカシ先生が任務にでてから三日。
明日帰還予定だ。
ちゃんと帰ってくるかな。
無事な姿を見たい、早く。
この感情のことを心配するっていうんだろうな。
怪我なんてしないでほしいと俺は思っている。
早く会いたいとも。
「ただいま、帰りました」
カカシ先生が俺に任務の報告書を提出してきた。
服も髪も汚れているけれど怪我はしてないみたいだ。
念のために訊いてみた。
「誰も怪我はしませんでしたか」
あの一緒に行った女の人も誰も。
「ああ、大丈夫ですよ」
頷いたカカシ先生はやっぱり目を細めて俺を見た。
「優しいですね、イルカ先生は」
同じことをまた言う。
「ね、イルカ先生」
耳元に顔を寄せて言われた。
「この前の返事が聞きたいんですけどいいですか」
何かを期待するようにカカシ先生が俺を見ている。
「いいですよ」
返事は決まっていたから俺は頷いた。



「お付き合いします」というと相手は少しばかり驚いた顔をした。
これが望みじゃなかったのか。
そう問うとカカシ先生は頭を掻いた。
「断られるとばかり思っていたものですから」
何だ、そりゃ。
振られること前提だったのか。
「勝ち目のない勝負に出たんですか」
つい言ってしまった。
「そりゃあね」
カカシ先生は肩を竦めた。
「負けると解っていても、やってみたいことってあるでしょ」
それが好きな相手なら尚更。
どんな手段を使っても駄目元でも結果が視えていても。
「嬉しいです」と優しい顔になったカカシ先生は本当に嬉しそうだった。
男の俺と付き合うのが嬉しいのか・・・。
「でも」
これだけは言っておかないと。
「気を悪くするかもしれませんがカカシ先生が好きだから付き合うって訳じゃないんです」
「なら、どうして」
唯一出ている黒い片目が俺を射る。
「どうして俺と付き合うの」
何だか、心の深い奥底にある俺の答を知っているみたいな顔だ。
俺はそれをまだ認めたくないのに。
まだ知りたくはない。
「いいですよ」
にやっと笑ったカカシ先生は手を差し出した。
あの日と一緒だ。
「これから解ればいい」
差し出された手を俺は取った。
そうだ、思い出したことを俺は訊いた。
「俺のどこが良かったんですか」
「それも」
差し出された手を取った、俺の手をカカシ先生は握ってくる。
「これから解りますよ」
「そうですか」
それ以上、訊くのは止めた。
カカシ先生の言うとおり、これから解るのだろう。
手を取ったいうことはカカシ先生を信じたということだ。
「一生、離しませんし放さないですから」
それでいい、と俺は思った。




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