石鹸の香り
最近のイルカは仕事から帰ると、食事もせず風呂に入らずに布団に直行していた。
疲れていて体が睡眠の方を求めているのだ。
「風呂もご飯も、明日の朝でいいよね。」
自分にそんな言い訳をしてイルカは布団に潜る。
布団は柔らかくて暖かくて。
イルカはすぐに眠りに落ちた。
朝の風呂は気分がすっきりするような気がする。
忙しくて、朝に風呂に入っているのだがイルカは結構気に入っていた。
風呂は大好きだし、入るとリラックスできるしな。
朝、風呂に入るイルカは爽やかな香りを漂わせながら出勤していた。
「あ、おはようございます。カカシ先生。」
朝に風呂に入るようになって、何故か出勤時にカカシに遭遇することが多くなっていた。
電柱に寄りかかって本を読んでいたり、道の向こう側から歩いてきたりする。
イルカのことを待ち伏せしているような感もある。
まさかな、考え過ぎだって。
俺のことを待ち伏せたって、メリットなんてないじゃないか。
イルカはそう思おうとしているんだが、毎日のように会ってしまう。
「イルカ先生。おはようございます。」
挨拶したカカシは、当然のようにイルカに傍に来て聞く。
「今朝も風呂に入りました?」
「ええ。」
そう答えると、咎めるような目つきになるカカシ。
「こんないい香りさせちゃって、朝からどきどきするじゃないですか。」
カカシの言い分にイルカは少し考えてから答えた。
「この香りが好きなんですか?」
「イルカ先生から漂ってくる香りが好きなんです。」
「なるほど、分かりました。」
カカシ先生は石鹸の香りが好きなんだな。
イルカは大いなる勘違いをしてしまう。
今、俺の使ってる石鹸、三代目から頂いた高級品だからな、香りもいいよな。
そっかそっか。
一人納得するイルカ。
石鹸の香りは清潔感もあるし、リラックスできるしね。
イルカは微笑ましく感じ、ふとある考えが浮かんだ。
後日、イルカは上忍控え室のカカシを訪ねた。
手には可愛くラッピングされた小さな包み。
先日、カカシが好きな香りだと言っていた石鹸を買ってきたのだ。
日頃からお世話になってるしね。
これ、カカシ先生に渡したら驚くだろうな。
イルカは少し期待して、ふふと笑みを零す。
控え室には都合よく、カカシがいた。
「あ、イルカ先生。どうしたの?」
目敏くカカシが声をかけてきた。
「カカシ先生に御用があって。」
控え目に切り出す。
「俺に用事?イルカ先生が?なーに?」
カカシの様子が急に朗らかになった。
「あの。これ、よかったら。」
恐る恐る包みを差し出すとカカシが、ひどく驚いた。
「イルカ先生が俺にプレゼント?」
「はい、たいした物じゃないですけど。」
カカシは包みを受け取って、胸に抱きしめた。
「嬉しいです、イルカ先生が俺ためだけにプレゼントをくれるなんて。」
キラキラした目でカカシに見つめられてイルカはたじろいだ。
「いや、そんな感謝されるほどでも。だって、それはカカシ先生がこの前好きだって言っていた石鹸ですよ。」
「・・・え?」
「ほら、俺から香る石鹸の香りが好きだって言っていたから。日頃お世話になってるし、俺からの感謝の気持ちっていうか。」
「じゃあ、これは石鹸、なの?」
「そうです。」
「そ、そう。」
どことなく、カカシの笑顔は引き攣っていたが。
結局、イルカには理由が分からず。
近くで事の成り行きを見守っていたアスマと紅は、何故か大笑いしていた。
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