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Sleeping Beauty



イルカ先生が珍しく里外の任務行って三日。
俺は上忍の待機室で、ぼーっとしていた。
いつもの本を手にして、ぼーっとしながら考えていた。
もうすぐ訪れるイルカ先生の誕生日のことを。
イルカ先生の誕生日。
五月の二十六日。
誕生日まで残すところ十日。
五月に入ってからはカレンダーの日付を毎日のように確認してイルカ先生の誕生日まで、あと何日と指折り数えている。
イルカ先生の誕生日・・・。
大事な恋人の誕生日・・・。
今年は失敗しない。
去年のようなことは二度としないぞと考えていたら口に出ていたらしい。
俺の正面に座っていた紅が真っ赤な口を歪める。
「同じ轍は踏まないようにね」
「は?鉄?鉄じゃなくてプラチナにしたから」
紅の柳眉が僅かに寄った。
「・・・去年の二の舞にはならないようにね」
「それは大丈夫だって!」
ぐ!と俺は紅に親指を立てて見せた。
「ふーん、自信満々ねえ」
「そりゃあ、もう」
「さっきのプラチナってのは何なの?」
「あー、それは誕生日プレゼントの貴金属のこと」
「貴金属ってリング?」
「指輪」
「エンゲージリング?」
「婚約指輪じゃないよ」
「バースデーリング?」
「そう、誕生日のお祝いの指輪」
ちなみに俺とお揃いのペアリング。
「へええ」
紅は興味を持ったのか、俺の方に体を傾げてきた。
「どんなデザインのリングなの?」
「秘密」
一番にいるか先生に見せたいから誰にも教えない。
教えてくれてもいいじゃない、と紅は眉を顰めた後、俺に言った。
「でも」
「何」
「カカシとイルカ先生って結構、付き合い長いわよね」
「まあねえ」
これは自慢。
俺とイルカ先生の付き合いはもう片手だけでは収まらない年数になっている。
付き合いっていってもお友達とかじゃ、勿論ない。
長い年数のお付き合いの中で俺たちは喧嘩っていう喧嘩をしたことがない。
すごく仲がいいんです、俺たち。
「付き合い長いのに『ただの』バースデーリングなの?」
「・・・・・・へ?」
思いも寄らぬことを言われて俺は思わず変な声を出してしまった。
「ただの、って」
ただのって何だろう。
「だから」
紅はじれったそうに俺を見る。
解ってないわねと眼が語っていた。
「それなりに付き合いがある訳でしょ」
「うん」
「二人の歴史も、それなりでしょ」
「うん」
「そろそろ意思表示とか意思表明しなくていいの」
「・・・・・・何の?」
問いかける俺に紅は大仰に溜め息を吐いた。
「はああああっ〜」
すごくワザとらしい溜め息だ。
それから俺をじろりと睨む。
「駄目ね、カカシは」
「何が!」
いきなり駄目と言われても解らないって。
「解るように話せよ」
「だーかーらー」
びしっと紅が細くて長い指を俺に突きつけた。
「結婚できなくても結婚したらって言っているのよ!」
できなくてもしろ、って言われても・・・。
「だから意思表示をしろって言っているでしょ」
これからも二人でいるのなら確たるべきものが必要でしょうと紅は力説してくれた。
「別れる予定なんてないんでしょ、カカシとイルカ先生は」
「それはないよ、絶対に永遠に」
だってイルカ先生は俺の唯一の人だもの。
この世の中で俺の一番大切な至上の人。
性別とか関係なく居てくれなくてはならない人。
宝物のような存在だ。
「仲がいいのも結構だけど、ちゃんと言葉に出して伝えるべきことは伝えるべきじゃない」
紅の言うことは最もで。
「言葉に出したら安心するんじゃないかしら。そうしたらイルカ先生もだけどカカシも・・・」
幸せになれるんじゃないかしら、今以上に。
今以上の幸せ───なんてあるのかな。
今だって充分幸せだけど。
だけど伝えてみるのも悪くないかも。
イルカ先生が喜んでくれるのなら。
誕生日のプレゼントは指輪って既に決めているから俺の気持ちと共に伝えてみよう。
結婚してください・・・はあれだから別の言葉で。
伝えてみよう、イルカ先生に。
これからも・・・・・・死ぬまで俺と一緒にいてほしいって。
「うん、そうだね」
俺は素直に頷いた。
「いい機会だから言ってみるよ」
「そう、頑張って」
紅が微笑んだ、とっても綺麗な顔で。
「カカシもイルカ先生も幸せだと私も嬉しいわ」



なのに。
里の外に任務に行ったイルカ先生は眠ったままの状態で木の葉の里に帰ってきた。
外傷はあるけど軽いもの。
命に別状はない、怪我に関しては・・・。
イルカ先生は病院のベッドで寝ている。
寝ているというか気を失っているというか昏睡状態というか。
病院の白いベッドで寝ているイルカ先生の顔は、とても白くみえた。
白いというよりも青白い。
そんなイルカ先生を火影さまが診てくれていた。
木の葉の里で一番の医療のスペシャリストで最高の医師の綱手さま。
綱手さまは難しい顔でイルカ先生と診察している。
何も言わない。
脈拍やら血圧やら体温やら測って採血して・・・。
色んな検査もした。
なのにイルカ先生は目覚めない。
閉じている瞼もぴくりとも動かない。
「やはり毒、だな。術ではなく」
長い沈黙の末、綱手さまは結論を出した。
「毒の解析結果と血液検査の結果を照らし合わせれば詳細が解るが」
難しい顔をする。
「おそらく新種の毒だ。まだ出回ってない毒だから解毒剤もない」
「どういう作用があるんですか」
喉がカラカラに乾いていたから出た声は掠れていた。
「作用・・・」
診察する綱手さまの横に立っていた俺を綱手さまは見上げてきた。
俺の顔色を窺っている。
「聞きたいか?」
「・・・はい」
本当は聞きたくなかった。
「毒の作用は単純だ。ただ眠るだけ、眠っているうちに心肺機能が低下していき、そのまま死に至る」
・・・と思う、と綱手さまは付け足した。
「現在、判明している範囲で言うと作用は単純なくせに毒は複数の種類で複雑に配合されているから厄介だ」
「どのくらいの日数で死に至るんですか」
声が震えなかったのが我ながら不思議だ。
「早くて十日・・・・・・」
自分で見立てておいて綱手さまは悔しそうに唇を噛み締めた。
「イルカの体力は受けた毒の量で多少は変動するかもしれないが」
概ね、そんなところだと綱手さまは言う。
「まあ、だがしかし」
立ち上がった綱手さまは俺の肩を叩いた。
「木の葉の里の医者も毒の解析班も優秀だ。すぐに解毒剤は出来るさ」
何より私がいるんだ、死なせはしない。
綱手さまは笑顔を見せた。
「大船に乗った気で待っていろ」
さすが里の長だけあって慌てることはない。
また後でな、と足早に去って行った。



病室に一人残った俺は眠るイルカ先生の頬を撫でた。
あったかい・・・。
生きている。
生きているのに死に向かっている、なんて。
信じられない・・・。
本当はこれは俺の夢で、夢が覚めれば元気なイルカ先生が笑っているんじゃないかと思うほど。
「なんで、こんなことになっちゃったのかなあ」
ぽつりと呟いた俺の言葉に返事はない。
いつもだったら「カカシさん」って呼んでくれて「そんなことないですよ」って言ってくれるのに。
任務に行くときのイルカ先生の言葉を思い出した。
───行ってきます、早く帰ってきますから。
俺は何て言ったんだっけ。
怪我しないでくださいねと言ったような気がする。
イルカ先生は「カカシさんは心配性ですね」って笑っていた。
いつものように他愛のないことを話して・・・。
「結局」
解かれて白いベッドの上に散らばるイルカ先生の黒髪を指に絡める。
「怪我して帰ってきたじゃない」
約束を破って。
「それに」
声も聞かせてくれない、その黒い眼で俺を見てもくれない。
「寂しいです、イルカ先生」
眼を開けて俺の名を呼んでほしい。
・・・早くて十日で死に至る。
綱手さまの言葉が蘇ってきた。
「十日経ったらイルカ先生の誕生日じゃないですか」
去年は俺が行方不明になって大怪我して死に掛けた挙句にイルカ先生の誕生日を忘れてしまって、九月の自分の誕生日を祝われてから思い出すという大失態をしたから今年は名誉挽回したかったのに。
イルカ先生の笑顔が恋しい。
「早く起きて、イルカ先生」
イルカ先生の手を、ぎゅっと握ったけれど握り返してはくれなかった。



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