両手を広げてウェルカーム!
ある日のことだ。
七班での任務中、ナルトとサスケが朝から妙に、そわそわとしていた。
しかも嬉しそうにだ。
ナルトは何かを思い出しては、にやっとして、サスケはサスケで無愛想ながらも機嫌が良かった。
何でだろう?
不思議に思っているとナルトが休憩中、サクラに話しかけているのが聞こえた。
「サクラちゃーん、今日、任務が終わってからイルカ先生の家に行くの、俺すっごく楽しみだってば。イルカ先生、今日は休みだから、朝から夕飯たくさん作って待っていてくれるって言ってたから。」
任務が終わってからイルカ先生の家に夕飯食べに行くのか、いいなあ・・・。
俺もイルカ先生とお近づきになりたいんだけど、中々、機会がないんだよねえ。
「あー、それね。」
サクラが手を横に振った。
「私、行けなくなっちゃったの。今朝から風邪気味で、今日はパス。イルカ先生に、ごめんねって伝えておいて。」
「えー、そうなの。」
ナルトは明らかに残念そうな表情を見せた。
「仕方ないだろ、風邪だったら。」
サスケは、これまた珍しくナルトを諌めて、ナルトも喧嘩もせずに「そうだな。」と同意している。
これは、イルカ先生効果なのかな。
「じゃあ、夕飯はイルカ先生と俺とサスケで食べてくるってば。」
ナルトはサクラにそう言っていた。
任務が終わって報告を済ませると七班は解散した。
解散して、サクラは一足早く帰っていく。
後には俺とナルトとサスケの三人が残った。
「じゃ、イルカ先生んちに行くってば。」
「そうだな。」
残りの二人が頷きあった時、俺は親しげに声をかけた。
「あー、君たち。ちょっと待ちなさい。」
「なんだってば、カカシ先生。」
「なんだ?」
二人とも不審そうな顔だ。
普段、俺は親しげな話し方しないしね。
「これから、イルカ先生の家に行くんでしょ?」
「そうだけど。」
「サクラが本来行くはずだったけど、急にいけなくなったよね。」
「まあな。」
「そこでだ。」
「どこ?」
ナルトが、べたな突っ込みを入れてくれた。
俺は胸を張って自分を指差した。
「ピンチヒッターに俺!」
それを聞いてナルトとサスケは思い切り顰め面をした。
「血迷ったのか、カカシ。」
「ノーサンキューだってば。」
二人ともクールで冷たい。
でも、俺はめげなかった。
「ほら、子供だけだとイルカ先生もさ、寂しいでしょ?大人の俺の方が話し相手になると思わない?」
「「思わない。」」
ナルトとサスケは声を揃えて言う。
こんなときだけタイミングがばっちり、チームワークを発揮している。
「イルカ先生は俺たちの顔を見ているだけで元気になるって言うってば。」
「俺たちには何でも話してくれるぞ。」
二人は手強い。
だが、しかし!
「いいの!俺も行くったら行くの、絶対行くの!」
根拠のない理屈で二人の言い分を振り切った。
「こんばんは〜。イルカ先生〜。」
「こんばんは。」
二人はイルカ先生の家に着くとドアチャイムを鳴らし声を掛ける。
結局、俺は無理矢理というか上司の権限を使ってというか何て言うか、くっいてきた。
チャンスは逃すものじゃないし。
一応、手土産にお酒も買ってきた。
「はーい。」
家の中からイルカ先生の声がしてドアが開いた。
ナルトとサスケを見ると笑顔になる。
「ナルト〜、サスケ〜、二人ともよく来たな〜。」
そして両手を広げて二人を順に、ぎゅっーと抱き締めた。
ぎゅぎゅぎゅーっと。
「会えて嬉しいぞ〜。」
いつもより陽気なイルカ先生。
少しお酒の匂いがするので、もしかしたら飲んでいたのかもしれない。
今日はイルカ先生は休みだってナルトも言っていたしねえ、飲んでいても不思議じゃない。
ナルトとサスケはイルカ先生に素直に抱き締められて照れながらも嬉しそうにしている。
抱き締め終わるとイルカ先生は「手洗いと嗽をしてきなさい。」と二人を促した。
次は俺だったが、えーと急に来ちゃったから、何て言おう?
理由を考えていなかった。
イルカ先生は、ふらっと俺の方に来ると、いきなり、ぎゅーっと抱き締めてきた。
「サクラ〜、久しぶりだなあ。大きくなって。」
・・・え・・・?
「会えて嬉しいぞ〜。」
俺の背中に手を回して、ぽんぽんと背中と叩いてくれる。
警戒もせず懐いてくるイルカ先生が何だか、すごく可愛いな〜。
こんなことされると、なんだかなあ、あれだなあ・・・。
「ん〜?サクラ、何だか急に背が伸びたか?それに逞しくなって・・・。」
イルカ先生は、見た目より大分酔っているらしかった。
間違えて抱きついてくるのが俺で良かったな、ほんと。
俺は、まあいいかと思いイルカ先生の背中に手を回して抱き返した。
なんてラッキー。
そして言った。
「あー、俺、サクラじゃなくてカカシです。」
「・・・・・・カカシ?」
イルカ先生が俺の腕の中で固まる。
「・・・・・・・・・嘘。」
酔いが一気に醒めた様に俺を見上げてくる。
「いや〜、サクラの代わりにナルトとサスケに来ないかと誘われましてね。」
「そ、そうだったんですか。」
蒼ざめるイルカ先生。
ちょっとだけ可哀想だったかな。
その時、ナルトの声が奥から聞こえた。
「ご飯、食べたいってば。お腹ぺこぺこ〜。」
「イルカ先生、まだか?」
「おー、今行くよー。」
答えられないイルカ先生の代わりに俺が返事をして、ついでに、そのままイルカ先生を抱き締めたままの格好で居間に移動した。
抱き心地よかったし離したくなかったしね。
その夜。
俺はイルカ先生の手作りの夕飯をご馳走になって、お酒も飲んで上手い具居合いにイルカ先生と親交を深めるのに成功した。
子供たちはというと、大人たちの行動や会話よりもご飯に夢中だった。
ま、食べ盛りだからね。
(ちょっとおまけ)
俺も両手を広げてウェルカーム!
イルカ先生は俺と親密になってから、あの日のことを後日、俺に教えてくれた。
「休みの日は時々、子供たちを招いて手料理をご馳走するんです。」
恥ずかしそうに言う。
「それで朝から作り始めるんですけど、夕方になると早く来ないかな〜会いたいな〜って、わくわくして、つい飲んじゃうんですよね。それで、ほろ酔い気分になっちゃって・・・。」
あの時は抱きついてしまってすみませんでした、と謝るけど、いやいやいや、こちらこそラッキーでした!とは言わなかった。
それから、はにかみながらイルカ先生は笑う。
「お酒が入ると人恋しくなるというか・・・。必要以上にスキンシップしたりして悪い癖ですよね。」と反省していた。
そうか、お酒が入るとイルカ先生は人肌恋しくなるのか。
とすれば・・・、俺は名案を思いついた。
「イルカ先生、今度は俺の家へご飯でも食べにいらっしゃいませんか」
「え、カカシ先生の家へ?」
「はい。この前のお礼も兼ねて是非とも、いらっしゃってください。今日にでも今日中にでも今夜中にでも!」
いらっしゃってくれれば、更に親密度がアップすること間違いなし。
これを機に一気に、俺としては二人の仲をステップアップしたい。
しかし俺の心の内を知らないイルカ先生は「でも・・・。」と躊躇っていた。
「突然、お邪魔するのは失礼ではないかと。」
「全然平気ですよ、俺だって、先日イルカ先生の家にいきなりお邪魔しましたし、おあいこですよ。」
それでも躊躇するイルカ先生の手を取って、俺は無邪気な笑顔で誘った。
「イルカ先生と折角、友達になれたんですから、もっと話したりしたいなあ。中々、同年代の人と、ゆっくり話す機会がなくて寂しいんです。」
ね?と重ねて誘うと「じゃあ、それなら。」とイルカ先生は、とうとう俺の家へ来るのを承知してくれた。
やったー!
「俺、今日は早く任務が終われるんで先に帰って、自分の家で待ってますから。ご飯も勿論、作っておきますから!」
ああ、わくわくわくわくするなあ。
「これ、俺の家の場所です。」
メモ紙に、さらさらと住所を書いてイルカ先生に渡す。
「イルカ先生、仕事が終わったら絶対に来てくださいね、絶対に。」
「あ、はい。」
「絶対ですよ、待ってますから。あ、空手でいいですからね。」
ふふふふ、楽しみ楽しみ楽しみ〜。
その日、俺は超特急で任務を終わらせると自分の家に帰って料理を作り始めた。
料理は結構得意だったりする。
多分、そんなに味に心配はない。
でも、俺の狙いはそこじゃなくて・・・。
俺は何回も時計を見ては、イルカ先生が来るのを今か今かと待ち構えた。
そして、遂に、その時は来た。
ピンポンとドアチャイムが鳴り、イルカ先生が玄関前にいるのが分かる。
俺は、いそいそと玄関に向かうとドアを開けた。
それから大きく両手を広げて、笑みを絶やさずイルカ先生に抱きついた。
「イルカ先生、いらっしゃい〜。待ってました〜。」
これでもかとばかりに、ぎゅううっと抱きつく。
「あの、カカシ先生?」
戸惑うイルカ先生だが、あることに気がついたらしい。
「もしかして、少しお酒、飲んでいますか?」
「ちょっとだけね。」
ちょっとだけ飲みました、ちょっとだけ。
お酒を飲んだと匂いがするくらいね。
するとイルカ先生は、しょうがないなあと云う風に笑った。
そして俺の背中に手を回してくれる。
「お酒が入ると、ついスキンシップを求めてしまう時がありますよね、なぜか。」
「そうそう。」
にこにこして、俺は頷いた。
「なんでですかね。」
俺の場合は、それがイルカ先生だからだけど。
でもイルカ先生は、そんなことに気がついていなかった。
俺の抱きつきたい相手がイルカ先生だけで、イルカ先生にも俺だけに抱きついてほしいな〜という、願望を持っていることに。
イルカ先生が、それに気がつくのは、もう少し先で、その時には折俺たち二人の仲も、より親密になっているのは間違いない。
俺は、そう予想している。
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