六月の花嫁
「やっぱり結婚式をするなら六月よね!」
「ジューンブライドっていうもんね!」
「・・・理想です」
女の子たちは盛り上がっている。
「いいわよねえ、花嫁さん」
「白いウエディングドレスで」
「・・・わ、わたしは綿帽子の方が」
みな、それぞれ結婚式に関しては夢があるらしい。
「そしてブーケを投げたりしちゃって」
「お色直しもしてみたい!」
「・・・ケーキ入刀も」
キャーキャー言いながら色めき立っている。
結婚式の話で盛り上がるなんてやはり女の子、乙女成分がたっぷりだ。
今は六月。
そんでもって昼食の時間。
なんで、こんなに女の子が集まっているかというとそれは下忍の班で合同演習しているから。
女の子が盛り上がっているのに対して男子は黙々と昼を食べて各々、自由な時間を過ごしている。
基本、無口な男子たち。
恋だの結婚だのの話題には関心がないとみえる。
そんな中、女の子たちといても何ら違和感ない人物が女の子たちの話題に混ざっていた。
それはイルカ先生。
アカデミーの先生でここにいる下忍の子たちの元担任でもある。
昼の時間に里中でのお遣いの帰りに偶然、通りかかったイルカ先生は昼ご飯を持っていたこともあって、そのまま女の子たちの昼食に混ざってしまった。
そして俺は、そんなイルカ先生の隣をさり気なく不自然にならないように陣取って座っている。
「みんなは六月に結婚式をしたいのか?」
よく解ってないイルカ先生はそんな質問をする。
「六月の結婚式って、そんなにいいものなのか」
「それはそうですよー」
うんうんと女の子たちは一斉に頷く。
「幸せになるって言うし」
「夢ですね!」
「・・・い、いいと思います」
「ふーん」
ぱくと昼ご飯のおかずを口に入れてイルカ先生は思案顔。
「雨の降っている季節が結婚式に最適なのか?」
首を傾げている。
「そうじゃなくて」
女の子たちが丁寧に、でも口々に説明した。
「生涯幸せになるって言い伝えがあるんです」
「他にも色々な伝説があって」
「・・・憧れなんです」
「そうなのかー」
やっぱりイルカ先生はピンときていないのが隣にいた俺にはよく解った。
こういう話題にイルカ先生は疎いってか鈍いってか、そこが可愛くあるんだけど。
「じゃあさ」
謎だ不可解だって顔をしてイルカ先生は女の子たちに尋ねた。
「もしも七月にプロポーズされたら結婚式は翌年の六月にするのか」
「え・・・」
「それは・・・」
「その・・・」
女の子たちは固まった。
そんな女の子たちにイルカ先生は追従の手を緩めない。
「例えば六月の末日にプロポーズされたら無理やりにでもその日、つまり六月末日に結婚式するのか、それともやっぱり翌年の六月?」
女の子たちはイルカ先生の質問に言葉が出ない。
考え込んでしまっている。
「五月にプロポーズされても来月の六月に急いで結婚式するのか?結婚式って色々な取り決めや準備が大変だって聞くけど簡単に出来るものなのか」
多分、イルカ先生は純粋な好奇心で訊いていると思う。
他意はない。
「それにだなあ」
昼食を食べ終わったイルカ先生は女の子たちを見回した。
「本当に好きな人とだったら、いつ結婚しても、いつ結婚式をしても幸せになれると思うけどなあ」
考え込んでしまっている女の子たちの頭を軽く、ぽんぽんと叩く。
髪型を乱さないように気を遣っている。
「みんな、いい子だしな」
俺の可愛い教え子が幸せにならないはずがない。
自信たっぷりに言い放つ。
「将来、素敵な女性になること間違いないし。あ、強いくの一にもな」
そう言って、にこーっと笑うイルカ先生は丸きり教師の顔っていうよりも、ある意味お父さんになっている。
「だから六月に結婚式しなくて大丈夫だ」
時期に拘らなくても大丈夫。
それから、唐突に俺の方を向いた。
「ね!カカシさん」
俺に向ける笑顔が眩しくて目を細めてしまう。
イルカ先生の笑顔にやられてしまった俺は辛うじて言った。
「・・・そうですね」
「んじゃ、俺行きますね」
そろそろ戻らないと。
昼を食べ終わったイルカ先生は立ち上がった。
「久しぶりにみんなと話せて楽しかったよ」
そう女の子たちに言い、男子たちにも声を掛けてイルカ先生は行ってしまった。
残った女の子たちはイルカ先生に言われたことについて話を始める。
「別に六月に拘らなくてもいいかもね」
「考えてみればそうよねー、いつだっていいかも結婚式」
「わ、わたしもそう思う」
現金なものだ。
というよりも考え方が柔軟で切り替えが早いといった方が適切なのか。
「紅葉舞う秋の結婚式も素敵かも」
「桜咲く春もいいわよね」
「白い雪景色もいいけど冬は寒いよね・・・」
また女の子たちは盛り上がり始めた。
昼の休憩終わりまで、もうちょっと。
俺もイルカ先生の言葉を思い出していた。
───時期に拘らなくても大丈夫。
もしかして。
もしかして・・・。
胸がどきんと鳴る。
イルカ先生には解っちゃったかもしれない。
俺の気持ち。
実はイルカ先生が好きで、でも中々告白できなくて。
勢いつけて自分の誕生日にでも告白してみようかなと思っていたことが。
イルカ先生、俺の誕生日知っているし。
去年も一昨年も祝ってもらったし。
今年も祝ってもらう約束を早々に取り付けてある。
まだまだ誕生日は先だけど。
「うーん」
俺は腕を組んで考える。
「明日にでも告白してみようかな・・・」
いや、今日の明日ってのもあからさま過ぎるかな。
じゃあ明後日とか?いや、明後日は厄日だから縁起を担いで、その次の日にでも。
でも、もしかして任務入るかもしれないし・・・。
そこまで考えて、はっとする。
こんなこと考えているから、いつまで経ってもイルカ先生に告白できないんじゃないか。
がくっと肩が落ちる。
俺も女の子たちを見習って柔軟に考えてイルカ先生に告白しようと決意したのであった。
ああ、でも。
告白って勇気がいるよなあ。
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